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日出づる国、異世界に転移す  作者: ワイアード
第5章 ハルディーク皇国編
103/161

第98話 崩壊する列強国

年内にはハルディーク皇国編を終わらせたい……何としてでも。

ーー日本国 首相官邸 会議室



日本がハルディーク皇国との戦争の真っ只中、官僚達は会議室にて、今後の事を話し合っていた。黒いカーテンが張られ、壁掛けにセットされた大きなスマートガラスに映し出される資料を見ていた。


進行役として南原副総理が務めていた。



「それでは……ハルディーク皇国の植民国及び属国等については以上になります。続いて、その軍事力に関してですが…此方をご覧下さい。」



南原副総理が持っていたタブレットを操作すると、スマートガラスが次のスライド画面へと変わった。



「此方はハルディーク皇国海軍の砲艦です。……形状から見ると第一次大戦レベルの戦艦に近い姿をしています。恐らくは…海上はもちろん河川でも航行可能なのではいかと考えられます。」



久瀬防衛大臣が腕を組みながら口を開く。



「まぁ…確かに比較して見ると似てるな。だが、微妙に違うところがチラホラ見られる。なぁ南原、そいつらの兵装についてはどうなんだい?『あさひ』からの情報じゃあ対空高射機関砲に似た兵器もあったらしいが?」


「えぇ。此方を見て下さい。」



再びタブレットを操作し始める。



「此方を……。鹵獲した敵の砲艦です。『あさひ』の件で攻め込んで来た敵艦隊の1隻が半分沈んだ状態で漂流しているのを見つけました。乗組員は居ませんでした…恐らくは捨てた後だったのでしょう。」


「ほーう……運が良い事で。」


「それで肝心の兵装なんですが……主砲は見た目ほど性能は高く無く、砲弾も粗末な造りでした。あらゆるデータから見て、予想される射程距離は最大で3.8kmから4kmほど。有効射程距離は3kmほどですね。元いた世界で、第一次大戦レベルの主砲と比べても、射程距離は7km以上も差があります。対空高射機関砲は連射性はありますが、我々の知っているモノとの違いは、使われる砲弾には炸裂させる様な工夫がありませんでした。ただ連射機能に優れたモノと言う奴ですね。恐らくですが、主に龍を対象として造られているのかも知れません。」



この南原副総理の説明に渋川大臣が恐る恐る手を挙げた。



「つ、つまりは……F35Jみたいな戦闘機にはあまり脅威では無いと?」



久瀬大臣が睨むように答える。



「それは軽率な考えだ。確かに通常の対空砲にある炸裂弾の様な性能が無くとも当たればタダじゃ済まない。」


「わ、分かってますよ。」


「お二人とも宜しいですか?では話に戻しますよ。これらの兵器…分解して調べてみたところ、恐らくは『見様見真似』で造った可能性が高い事が分かりました。」



この言葉に他の大臣達も身を乗り出すように聞き入った。その時、安住大臣が顎を抑えながら考え込む。



「うむぅ……つまりは、どういった構造なのか、どんな意味があるのか、それすら考えずに造ったという事でしょうか?」


「言われてみると……ついこの間まで燃費の悪い初期の蒸気機関が最先端だった国が、秘密裏に研究開発をしていたからといっても、急に第一次大戦に近いレベルにまで成長したのも変ですよね?」


「『ユートピア』……その近代化する為の巨大な研究施設空間…だっけか?そんなもの独力で造れる時点でおかしな話しさ、まぁ誰かはわかってるけどなぁ。」



小清水官房長官もそこに割って入る。



「ハルディーク皇国を成長させる為にどっかの国が手を貸した。そして皆んなの言う通り、その国ってのが…レムリア共和国って訳か。」



レムリア共和国…強大な軍事国家であり宗教国家。未だに謎だらけのこの国が、此度の戦争に深く関わっている事に不安の気持ちが全員には出ていた。可能であれば、その国と友好的関係を築いていきたい。しかし、それは可能なのか?現実的なのか?……現時点では全く予想がつかない。



「ネイハム氏も言ってただろ?…『ユートピア』の建設とそこで造られた兵器類の設計はその国から受け取ったものだってよ。」



小清水官房長官は溜息をついた後、彼の言葉に口を開く。



「多分連中もマジな技術を教えてもリスクしかない。安易に技術流出なんてさせたら…大変な事になるからな。」


「確かに。今までのハルディーク皇国のやり方を思えば、そう考えるのが自然だろう。下手すりゃ自分達にも牙を剥きかねない。」


「広瀬総理。総理からの御意見も伺いたいと思います。」



他の大臣からの言葉に広瀬総理は、軽く鼻から息を吸った後、静かに答える。



「色々な憶測や懸念が出てくるのは仕方のない事だ。第2世界の調査メンバー選定は決めてるし、ネイハム氏の助言の元、現時点でその第2世界へ行くためのルートも特定出来た。だが、今重要なのはハルディーク皇国をどう大人しくさせるか。と言うか、ほぼマグネイド大陸をどうするかが重要だ。『契約の件』もあるし、下手に土地は傷物にしたくない……自衛隊の仕事を信じよう。」



広瀬総理の言葉にこの場にいる全員が頷いた。

そこへ1人の秘書が広瀬総理に耳打ちした。



「……なるほどね。イール王国沖でのハルディーク皇国のバルザック艦隊は敗走。こちら側の被害はゼロだそうだ。」



この報告を受けた全員がホッと胸をなで下ろす。



「さぁこっからだ。後は敵の要である『ユートピア』をどう潰すかだがー」



そこへまた1人の秘書が現れ、広瀬総理に一枚の資料を手渡す。広瀬総理はそれを少し目を通すと、驚いた表情をした。



「ッ‼︎おいおいどういうこったい。」


「そ、総理?」


「ハルディーク皇国の皇城で大規模な陥落事故が発生したのを、戦略型機動衛星偵察機が捉えたらしい。」


「皇城の地下⁉︎…ネイハム氏の話では『ユートピア』はそのぉー」


「皇城の地下深くにある……となると今国は大混乱…ってわけか。」


「そ、それにしても何故そんな事が?何が起きたというのでしょうか?」


「さぁね。でも俺たちにとっては良い事が起きたのは明らかだな。これを好機とせずいつ動く?……直ぐに前線にいる第1、2護衛隊群の旗艦へ連絡、当初の計画通り直ぐにハルディーク皇国へ向けて進行を開始し、主要工場地帯を無力化するように。」



広瀬総理の力強い言葉に全員の気合が入る。

短期決着を目的とする日本にとっては絶好の機会、逃す訳にはいかない。



「ところで例の3カ国の…と言っても1人は国の使者とは違いわな。おの御三方はどうなってるの?」



広瀬総理の言葉に南原副総理が、つい先ほど渡された紙を見ながら答える。



「……どうやら成功したようです。ロラン氏やルドマン氏は兎も角、ヴァルキア大帝国のオルネラ氏も我が国の働きに御満足いただけた事は非常に良い結果でした。」



久瀬大臣は満足した様子で口を開く。



「まぁこれで、ハルディーク皇国やテスタニア帝国みたいに攻め込んでくる事は無くなるんじゃねぇか?実質この世界のボスみたいなヴァルキア大帝国が認めてくれる様になれば安心だろ?」



しかし、一つの疑問が過ぎった。


一体どうやって彼らとコンタクトを取ったのか。それが謎であった。安住大臣は思い切って広瀬総理に確認する。



「しかし…広瀬総理。一体どうやって三ヶ国と接触を?」


「そこは…秘密だねぇ。」


「は、はぁ…」



広瀬総理は満面の笑みで濁した。安住大臣は、当然納得はしていないが、こうなった広瀬総理の口を割らせるのは誰にも出来ない事は分かっていた。仕方なく、これ以上追求するのは諦めてた。


サヘナンティス帝国が秘密裏に中ノ鳥半島に来て、帰る時にコッソリと飛行機に取り付けた『小型衛星連絡器』ーこれは衛星を通じて、自身の姿を装置に転送し、リアルタイムで連絡を行う小さなフリスビーの形をした装置である。ーを使い、サヘナンティス帝国の皇帝と連絡を取り、レイス王国やリトーピア、ヴァルキア大帝国を紹介させて貰っていた。


当然、見たことの無い小さな装置から、異国の代表から連絡が突然入るのだから、サヘナンティス帝国の皇帝マティアス・グラバートはかなり驚いていた。


広瀬は『あの日』の事を考えていた。


彼自身もあの時の判断は賭けに近かった。下手をすれば戦争が長引き、最悪サヘナンティス帝国とも戦う事だってあり得ない話では無かった。しかし、マティアス皇帝は下手な敵意など微塵も無く、むしろ強い好奇心で心を動かされた。


いきなりの日本訪問を計画させた人物である為、広瀬総理は、彼がかなりの行動力と決断力、そして探究心持つ人物である事を予想していた。


結果、非公式に広瀬総理とマティアス皇帝は首脳電話会談を行い。その後、レイス王国にリトーピア、そしてヴァルキア大帝国との繋がりを得ることが出来た。


日本としてはハルディーク皇国から自国を守る事が出来ればそれで良いのである。しかし、広瀬総理のこの行動により、日本の運命は大きく変わる事となる。






ーーハルディーク皇国 皇都ハル=ハンディア



皇都は大混乱であった。突如崩壊しかけた皇城に港には、ボロボロの大艦隊が停泊し、乗船していた兵士たちが暗い表情でゾロゾロと下船してきた。


戦争が起きている事は知っている。しかし、ここまで追い込まれ、敗けかけている事は知らなかった。前回のイール王国海戦も、自国の勝利だと聴かせれていた。ニホン国へ手を貸す蛮族の亜人族国家制圧を目的としたアルフヘイム神聖国への侵攻も成功と聞いていた。


誰もが自国の勝利を疑わなかった。



しかし今目に見えている状況は……今までの戦勝報告を覆すような光景ばかりであった。



「な、なんでバルザック艦隊が敗走して来たんだ?」


「おいおい。大丈夫なのかよ?」


「でも政府は勝ってるって…」


「これを見てまだ信じてんのか⁉︎…これが勝ってる様に見えるか⁉︎俺たちは騙されてたんだ!」


「敗けるのか?…ハルディークは?」


「俺たちはどうなるんだ?……敵に…ニホン国の植民地にされるのか?」


「じ、冗談じゃねぇよ!おい!クソ兵士ども!敗けてんなよ!!!」




普段であれば秘密裏の港湾へ入港するのが一番良いのだが、『ユートピア』崩壊により、それが全く機能していない状態であった。港の人員は居らず、必要な物品も揃っていない。バルザック艦隊の兵たちは、何故この入江に人っ子ひとり居ないのか、全く理解出来なかった。


彼らが『ユートピア』崩壊を聞いたのは、通常の港に到着してから間も無くのことであった。



「お、おい……なんだよアレ。何で城が……」


「さっきの港湾といい……まさかユートピアに何かあったのでは⁉︎」


「そもそも…皇都中から怒声と煙が上がってるぞ……ど、どうなってる?」




皇都中から聞こえる喧騒と悲鳴、中には爆発音も聞こえてくる。ガスマスクを着けた人々の中には、逃げる者…武器を持って暴れる者、火事場泥棒をする者、見回りの警備官に襲いかかる者……ハルディーク皇国は内乱状態となっていた。





ーー

ハルディーク皇国 皇城



なんとか無事に残っていた塔の窓から皇都を眺めるオリオン皇帝は、その惨劇を見ていた。


もし何事も問題なければ、今頃皇国は日本とアルフヘイム、そしてイール王国に勝利し、次なる段階へと移るはずだった。しかし、現実はー



「もう構う事はねぇ!!!店の商品を奪えるだけ奪え!!!家族を養う為ならもう迷わねぇ!」


「戦争に負けたんだ!こうなったらどうにでもなれだ!!!」


「おい!この店の店主、あんなに食料は無いとか言ってたのに、こんなに倉庫に隠してたぞ!!!」


「この野郎!」



暴徒と化した民衆を見て、オリオン皇帝は苛立ちを露わにする。



(ば、バカな民衆どもめ!我が国の敗戦に気付いたか⁉︎バレんように情報局には隠蔽するよう伝えた筈だぞ!)



オリオン皇帝は遠い港に多数の砲艦が入港している光景に気付いた。中には黒煙を上げ、ほぼ大破した艦も見られる。その艦隊の規模を見て、イール王国沖へ向かったバルザック艦隊だと分かった。しかし、その艦隊の象徴とも言える『ヘカトンケイル』が見られない。更には飛行部隊の複葉戦闘機や飛行戦艦も見当たらない。



「ま、まさか……は、は、敗退⁉︎ま、待て待て!莫大な費用と時間を要して造った、我が国が誇る飛行部隊と『ヘカトンケイル』は⁉︎そもそも…何故民衆の目が付く港へ寄ったのだ⁉︎あの状況で港へ寄るのは危険だと分かって……ッ‼︎」



ここでオリオン皇帝はようやく気付いた。

普段であれば使用していた極秘裏の港湾が、『ユートピア』崩壊の今、機能していない事に。



(クソッ!…『ユートピア』が崩壊して……それで仕方なく交易港へ艦隊が…それを見た民衆が……クソッ!何故こうも上手く事が進まないのだ!)



しかし、今頃ここで嘆いていても仕方ないと判断したオリオン皇帝は直ぐにその場を離れようとしたそのとき、1人の人影が現れた。



「何をされているのですか?オリオン皇帝陛下。」



そこには王族顧問のトニー・ジェミニェスが立っていた。こんな大混乱となっても尚、落ち着いている。その様子は逆に不気味さを感じさせた。



「お、お前か……よし、お前も手伝え!」


「…何をでしょうか?」


「クアドラードへ亡命する。そこで軍備を整え、再びニホンとアルフヘイムへの侵攻の機を伺う。フフフッ…俺の真の恐ろしさを奴等近い将来味わう事となろう。さぁ早く手伝え!」



しかしトニーはその場で顔を伏せ、立ち尽くしていた。



「何をしている!早く手伝ー」


「……皇帝陛下、実はお見せしたいモノが。もしかしたら大逆転の機に繋がる可能性が…」


「は、はぁ⁉︎」



オリオン皇帝は彼の言っていることがイマイチ理解出来なかった。自身の知らない何かしらの秘密兵器か?それとも別の何かか?さっぱり分からなかった。



「そ、そんなものがあるのか?おれは何も知らんぞ?」


「……ご案内致します。」



彼の言葉を信用できる根拠は何もない。しかし、今は藁にもすがりたい思いである。オリオン皇帝は、取り敢えず彼の案内に従う事にした。




ーー

崩壊しかけた危険な瓦礫の中を進むこと十数分、そろそろオリオン皇帝も疲れが出てきた時にその場所へと到着した。



「此方です。」


「な、なんだ…ただの壁ではないか?」



トニーは壁に施された装飾を押した。



ガコッ……ゴゴゴゴゴ…



するとその壁がゆっくりと動き出し、薄暗い小部屋が現れた。自身の城にこんな仕掛けがあった事に今更ながら驚いた。トニーが先に部屋の中へと入る。



「さぁ此方です。全てはこの中に…」



オリオン皇帝は、恐る恐る中へと入った。


ゴォォン!



「ッ!」



突然後ろ入り口が閉じてしまう。完全に光から遮断された空間に彼は動揺した。



「お、おい!トニー!どういう事だこれは⁉︎」



大きな声を上げた瞬間、フッと辺りが淡く明るくなった。どうやらトニーが持っていたランタンの光ようだった。明かりが見えた事で少しホッとするオリオン皇帝、しかし、その安心は直ぐに消えていった。


トニーの手には拳銃が握られており、その銃口は真っ直ぐオリオン皇帝の方へ向けられていた。



「お、お前…何をッ⁉︎」


「全く…貴方の馬鹿さ加減には本当に呆れます。もう少し役立てると思っていましたが……ハルディーク皇国はもう終わりみたいですね。」



次の瞬間、銃声が小さな隠し部屋に響き渡る。1発の銃弾がオリオン皇帝の腹部を撃ち抜き、血がジワリと滲み始める。



「ぐぅあ!!!……お、お前ッ⁉︎」



突然の衝撃と激痛に跪いてしまう。トニーは銃構え続けている。銃口からは小さな硝煙が昇っている。



「あらま?急所を外しましたか?どうも慣れない銃は扱いが難しいですね。こんな至近距離なのに……まぁどうせ助からない事に変わりはないですが。」


「と、トニ〜……貴様ッ!この私を裏切ると言うのかッ⁉︎ふざけるなぁ!!!」



前なりに倒れ込むオリオン皇帝の怒声など気にも留めない様子で淡々と話を続けた。



「貴方にはガッカリですよ本当に。レムリア共和国の為、『こちら側』の世界を手に入れてくれると思っておりましたが…残念です。」



オリオン皇帝は、苦しそうな表情で痛みを堪えながら彼に問い掛ける。



「れ、レムリア…共和国ッ!…貴様はまさかッ⁉︎」


「えぇ…私とソニーはレムリア共和国の工作員です。我々の目的は、『こちら側』をハルディーク皇国に手に入れさせ、後々我らレムリア共和国が貴国を、貴国が支配した場所ごと手に入れる…我々はその為に送られてきたのですよ。」


「ぐッ……そ、そういえば…秘密のルートを教えてくれたのも…レムリアとの国交を勧めたのも…『ユートピア』建設の責任者も…お前達だったな……。」


「貴方はいずれレムリア共和国を出し抜こうと考えていましたが……そんなもの裏の裏までお見通しですよ。……事が上手く進んでいれば、貴方はどの道消されてましたけどね。まぁ兎に角、間接的に『こちら側』を支配するという我々の目論見は大失敗。実に不愉快な結果ではありましたが、予想外の収穫もありました。」


「し、収穫…だと?」


「……新たに現れた転移国家『ニホン国』、いずれは我々の脅威となる国は、ヴァルキア大帝国かサヘナンティス帝国のどちらかと考えてました。しかし、ここに来てまさかの……いやはや本当に驚きですね。これも偉大なるメルエラの神々の御導き。」



トニーは再度標準をオリオン皇帝に合わせる。



「ま、待てッ!頼む!頼むぅー!!!」



鳴り響く銃声…


オリオン皇帝は眉間から血飛沫を撒き散らしながら倒れ込み、二度と起き上がる事はなかった。




「貴方がいると色々と不都合なのでね…我々の関係とか……。今までお疲れ様でした。」



トニーが秘密の隠し扉から出ると、直ぐ目の前にソニーが立っていた。



「おや?ソニー、そちらは済みましたか?」


「クワンドゥア氏は何とか無事帰国の途に着きました。例のモノと一緒に…。」


「わかりました。……ところで先代皇帝のヴァルゴは?」


「先ほどの崩落に巻き込まれたのでしょう……生き残っていた者達と一緒に仲良く瓦礫に潰れてましたよ。」


「ふむ…残ったのはキャサリアスだけですか……殺しますか?」


「いや、構わないでしょう。さて私達も退散しましょう。」




トニーとソニーはその場を後にする。その後、2人の姿を見たものは誰もいなかった。生き残った衛兵達が必死にオリオン皇帝の行方を捜したが見つかる事は叶わず、結果先代皇帝と同じように崩落に巻き込まれて亡くなったと受け止められてしまう。


ハルディーク皇国は、日本の知らない所で混乱と破壊の渦に呑まれていた。そして、これから起きる地上にある工場への爆撃の嵐が巻き起ころうとしている事は誰も知らない。そして、その悲惨な状況下でも諦めず、真っ直ぐに民衆の前に立つ1人の存在がこれから現れる事も…。




ーー

皇都ハル=ハンディア



「政府は事実を隠蔽した!!!我々は終わりだ!!!」


「オリオン出てこい!」


「どういうことか説明しろ!!!」



皇都の大広場では多数の民衆が集まり、鍬や鉈、猟銃を持って大規模な暴動を続けている。暴動が起きている所はまだ、数カ所ではあるものの、時期に皇都中に広がるのも時間の問題である。治安を維持するための保安部隊も、段々と対処しきれなくなっている。


しかし、暴動に参加している民衆の大半は交易港へと向かっていた。




ーー

皇都の交易港に着港したバルザック艦隊は、無事に戻ってこれたは良かったものの、殺気立った民衆が先に上陸した兵達の道を塞ぐといった状況にあった。まだ負傷兵が艦に残っているが、降りたくとも降りられない。艦に乗船している魔導師でも対処できない傷を負った兵もいる。すぐに医療道具の整った場所へ移動する必要があった。



「軍人ども!!!お前達が敗けたせいで俺たちはニホンの奴隷にされる!」


「上陸させるな!」


「どう責任を取るつもりだ⁉︎」



先に降りた兵達が必死の説得を試みるが、一向に話を聞いてくれる気配は無い。それどころか益々状況は悪化していた。



「だ、ダメですアクアス提督!民衆は耳を貸してくれません!」


「仕方の無い事とはいえ……まさか此れほどまでとは…恐らく今まで政府に対する積もった不満もあるのだろう。」



頭に包帯を巻いたアクアス提督が一隻の砲艦に乗っている。彼自身、まさかここまでの混乱が起きるとは思っても見なかった。



「構うことはありませんよ!砲撃で民衆を吹っ飛ばしましょう!」



1人の将校がこのように口にする。すると、この言葉を聞いたアクアス提督は、その将校に向かい怒鳴り声を上げる。



「馬鹿者!!!皇国を守るための我らが皇国民を傷付けて良い訳があるまい!第一そんなことをすれば、益々収拾が付かなくなる!」


「その通りです!それに、先に降りた兵達にも被弾する」


「で、ではどうすればッ⁉︎」


「魔導師達の治療も限界です!早く適切な処置をしなければッ!」



片方では負傷兵の命の危機、もう片方では暴徒と化した民衆の喧騒…アクアス提督は遂に決心する。



「…やはり説得するしかあるまい!ボートを用意しろ!」


「ッ⁉︎お待ち下さい!今上陸しては危険です!ガスマスクを着けていても分かります!民衆達の目は正気では有りませんよ!」


「そうです!何か他の策をー」


「もう考えつかん!そもそもこんな事になったのは一重に我々のせいだ。相応の罰を受ける覚悟はある。さぁボートをー」



アクアス提督が立ち上がろうとしたその時ー



『皆さま!!!落ち着いて下さい!!!どうか私の声を聴いてください!!!』



交易港に備え付けられていたスピーカーから聞こえてくる1人の女性の声が響き渡る。あまりの出来事に周囲の喧騒が一瞬、静まり返りスピーカーの方へと向けられる。



「お、おいこの声……。」


「確かオリオンの妹…きゃ、キャサリアス様か

⁉︎」



民衆も兵士達もその声が、キャサリアスだと気付くのに時間は掛からなかった。


気が付けば交易港だけでなく、皇都も静まり返っている。皆んなが彼女の声に耳を傾けている。



「姫様…やはり危険です。ここは下がっていた方がー」


「アリエス、私はこの国の皇族です。父や兄が姿を見せない今、この事態を治める責任が…私にはあります。」


「……わかりました。」



大広場に溢れかえる群衆の中を進む1人の白衣姿の女性。彼女の手には音声拡張魔法具が握られていた。彼女の直ぐ後ろには、羊の獣人族の女が、音声を皇都中にスピーカーに伝える為の通信器具を持って歩いている。



「お、おい……何で看護婦があんな物持って歩いてんだ?ってか後ろの獣人族は?」


「誰だあの看護婦?」


「ッ!お、おい!スカーフとガスマスクを外す気だぞ!」


「ば、馬鹿!肺がやられちまうぞ⁉︎」



心配する民衆の声に彼女は軽くお辞儀で答える。そして、白のスカーフとガスマスクを外した。



「な、何やって!……ッ⁉︎」


「嘘だろ!!!」



その看護婦がキャサリアスであった。

周りの民衆は、何故彼女が看護婦の服装をしているのか…いや、何故此処に彼女がいるのか理解出来なかった。


キャサリアスは大広場の高台へと登り、皇都を眺めることが出来る場所から再び話し始めた。



『誇り高きハルディーク皇国民の皆様…あなた方の怒りは至極当然のこと……現皇帝オリオンに代わり……心底から深くお詫び申し上げます。』



深々と頭を下げる彼女の姿に民衆は酷く動揺した。彼女が非情な父や兄とは違い、国民を誰よりも大切に思っているのを知っているからである。昔から今も変わらない彼女の国民に対する優しさと想いは、皇国民にとって非常に慕われていた。


既に多くの民衆の溢れんばかりの敵意が冷めてしまっていた。


しかし、中にはそれでも怒りが収まらない者も居た。彼らは彼女に向かい口を開く。




「そ、そうだぞ!!!元はと言えば、兄のオリオンが戦争を吹っ掛けた事が始まりだ!」


「俺たちは『勝っている』、『戦況は優勢』だと聞かされて…信じてた!辛い環境での生活ももうすぐ良くなると信じてたんだ!!!それがこのざまだ!どうするつもりだ!」


「ニホンは間違い無く大軍を送って来るぞ!そうなれば俺たちは皆んな奴隷だ!!!傘下国からも裏切られるぞ!」


「俺たちは奴隷にされるんだ!どう責任取るつもりだ!」



次第に怒りの声が聞こえて来た。アリエスは、最後まで戦争に反対していた彼女が何故責められなければならないのか分からず、苛立ちを積もらせていた。



(何故姫様がこんな事をッ!……好き勝手言いおってッ…もう許さん!)



アリエスが腰に差してある剣に手を伸ばしかけたその時ー



『我が国の民が奴隷にされる事など絶対にありません!!!私がそんな事をさせません!!!この身を犠牲にしてでも絶対にッ!…絶対に私が…民を…守ります!!!』



スピーカーから鳴り響く彼女の強い意志が込められた大きな声が、皇都中に響いた。


普段お淑やかで物静かな彼女が、下手すれば民衆から袋叩きにされてもおかしくないこの状況で声を張り上げる事に、全員が驚いていた。


アリエスはフッと彼女の方へ目を向けると、目には涙を溜め、脚も小刻みに震えていた。もう既に限界の筈なのに、尚も民衆の前に立ち続ける姿に、再び心を打たれる。



(あぁ……知らない間にこんなにも…。大人になられましたね。)



皇都に瞬きの静寂が包み込む。


さらにキャサリアスは言葉を続ける。



『不安、絶望、悲壮、憤怒…心の中でそんな思いが混沌の如く絡み合っている事でしょう。ですが、決して見迷わずッ!共に助け合い!この困難を乗り越えて行きましょう。……戦争には敗けました。しかし、ここで立ち上がってこそ、真の幸福が訪れるのです!……大丈夫、何があっても私が名誉と命にかけて皆様を御守りします!』



拍手喝采は無かったが、怒声も聞こえなくなった。その後に聞こえたのは、民衆が武器を捨てる音だけであった。一連の声をスピーカーを通して聴いていた交易港の民衆も先程までの怒りが嘘のような状況へと変わっていた。


バルザック艦隊の艦はようやく着港、上陸する事となり、民衆の協力のもと負傷兵を病院施設へと運んでいく。



(……知らぬ間にここまで大人になられていたとは…まだまだ甘い所があると思っていたが、愚かなのはそれに気付かなかった我々だな。)



負傷した兵を担ぎながら下船していくアクアス提督。彼も共に病院施設へ向けて進んでいた。








ーー

ハルディーク皇国 皇都の交易港から南方約150㎞


イール王国の自衛隊駐屯基地より、30機にも及ぶP3C対潜哨戒機が、F35Jの護衛の元、悠々と飛行している。各P3C対潜哨戒機には多量の無誘導爆弾が搭載されていた。目的地はハルディーク皇国皇都の軍事基地への爆撃である。


更に皇都から西方約200㎞上空には、飛行機上部に大きな円盤が付けられたE767早期警戒機が飛行していた。ゆっくりと回る円盤状の3次元レーダーは、皇都の空を監視していた。



『こちらAWACS。送信した情報通り、現在も皇都上空に敵機と思われる飛行物体は確認されず。』


『了解した。引き続き警戒に当たれ。』


『了解。』



このようにE767早期警戒機から得た情報は、瞬時に爆撃編隊に送られる様になっている。



(今作戦は…絶対に必要最小限の犠牲で済まさなくては…)



ハルディーク皇国の軍事基地は皇都から少し離れた場所に8ヶ所存在している。その8ヶ所は、皇都から離れている事もあり、民間人への被害は殆ど出ないと推測されている。これらの基地の内3ヶ所は空軍基地となっている。


そして、皇都までの距離が50㎞を切ると、一斉に命令が各機に伝わる。



『各機作戦通り、指定された基地への爆撃を開始せよ!航空自衛隊創設以降初の爆撃作戦だ。気を引き締めて行け!』

広瀬の判断が今後どの様に日本が変わるのか?


何故、敵対組織と思われたヴァルキア大帝国が日本側に組する様になったのか?


今後明らかになります。


納得いくかは分かりませんが…

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