第97話 バルザック艦隊
やっぱり戦闘描写とか苦手だなぁって改めて思う。
自衛官同士の連絡の仕方とかもあんまり分かりません(泣)
ーーイール王国 沖合部
皇国が未曾有の大災害に見舞われているとは夢にも思っていない、アクアス提督率いるバルザック艦隊は、他の艦隊群と合流して更に強大な兵力をもってイール王国へと攻め込もうとしていた。
500隻の砲艦と200機の飛行戦艦、複葉戦闘機が艦隊と併用しながら大空を飛んでいる。
その大艦隊の中でも一際目立つ大きさの砲艦が一隻……ハルディーク皇国最強の砲艦『ヘカトンケイル』である。唸る魔導蒸気動力音、煙突から出る黒煙、そして通常の砲艦の倍以上の砲塔が聳え立つソレはまさに、神話に出てくる巨人『ヘカトンケイル』を思わせた。
そんな最強砲艦の艦橋から、大艦隊を眺めていた1人の男……ハルディーク皇国海軍提督のアクアスがいた。彼はハルディーク皇国の技術力にして列強国の底力とも言えるこの大艦隊が、これから日本の軍艦を打ち破り、イール王国を日本攻略の為の戦略拠点にせんとするという当初の目的について考えていた。
(先遣隊からの報告を考えると…正直な話、勝利のイメージが見えない。これは決してよくない兆候だ。)
そこへ彼の側近であるエルガン中佐が来て、アクアス提督に敬礼をした後報告する。
「もうすぐ先遣隊とニホン国との海戦が起きた海域に到着します!」
アクアス提督は手すりに掴まりながら、大艦隊を見て呟く。
「見ろエルガン中佐、この壮大な景色を……ほんの数ヶ月前までは燃費の悪い未熟な蒸気動力をのせた木造と鉄が混ざった戦列艦しかなかったというのに…これ程までの進化を遂げるとは…誇らしいと思うだろ?」
アクアス提督は敢えて自身の心中とは逆の思いを伝えた。その問いに対し、エルガン中佐は敬礼を崩さないまま答えた。
「ハッ!まさに超高度な文明国家の力の結晶かと!これ程までの大艦隊なら、ヴァルキア大帝国を相手にしても負ける事はないかと!」
真っ直ぐと…自信に満ちた瞳で答える彼の目を見つめた。
「そうか……だが相手は先遣隊をボロボロに追い返した奴等だぞ?その点についてお前はどう考える?」
「先遣隊は油断しきっていただけだったかと思います!その油断によって、多大なる損害をもたらした……だからこそ、あのような大袈裟な報告をしたと考えています!これは許されない事であります!しかし!今回は我ら真の列強国である、ハルディーク皇国の力を誇示する時だと考えてます!この最高かつ最強の艦隊を前にしては鎧袖一触…ニホン軍の大敗は動かぬかと!」
アクアス提督は彼の言葉を聞いて、やはり先遣隊の報告はデタラメだと捉える兵が多い事に危機感を覚える。
(ニホンの力は……恐らくその様なモノでは無いはず。前回と…いやそれ以上の実力を…。)
しかし、そう思っていながらも彼の心の奥底ではホッとしていた。アクアス提督は、自分に自信が無かったからである。ハルディーク皇国こそが最強だと、日本が現れる前はそう考えていた。しかし、今はそういった認識が少しずつ変わっていた。
この国が敗けるかもしれないという考えに…。
「私も同じ気持ちだよ。」
「ハッ!恐縮です!」
この考えを部下に話すわけにもいかず、自分の胸中の中に留めた。しかし、あれ程の艦隊を有していれば、彼の言う様に勝利は間違いないと捉えるのは無理もない。
『飛行部隊より入電!ニホン軍の軍艦らしき艦隊を遠方ではあるが肉眼で確認したとの事です!!!』
突如として鳴り響く声にアクアス提督は、再び視線を水平線へと向けた。
「む…来たか。」
まだ小さな影すら見えない。しかし、確かに敵はあの水平線の奥にいる。
「全艦へ報告!射程距離に入り次第一斉砲撃を開始せよ!捕虜は要らない!徹底攻撃だ!!」
「ハッ!」
「更に飛行戦艦及び戦闘機部隊には、敵艦隊へ向けて直ちに出撃し、空撃を与えよ!」
「ハッ!」
ウゥゥゥゥゥーー!!!
鳴り響くサイレン音。
同時に艦隊全体が慌しくなり始めた。空の飛行戦艦と戦闘機部隊は、隊を組みながら、全速力で水平線の彼方へと進んでいった。
「今度は上手くいく事を願おう。」
アクアス提督は心の中で勝利を祈った。
ーー
バルザック艦隊の飛行戦艦部隊と戦闘機部隊は、編隊を組み真っ直ぐと日本の軍艦がいる方向へと向かっていた。
『飛行戦艦ニムカより、戦闘機部隊は前進せよ!ニホン軍の軍艦へ向けて攻撃を開始せよ!』
『戦闘機部隊1号機より了解。これより攻撃を開始する。』
ハルディーク皇国の戦闘機は三枚の翼で、機首には勢いよく回るプロペラ式蒸気エンジンとエンジン部分に片側3本ずつ伸びる小さな煙突からは、蒸気が勢いよく噴き出している。
その150機を超える戦闘機は、一糸乱れぬ編隊飛行で目標へ向けて飛び続けている。
「どうだ!マザラ!敵は見えるか⁉︎」
「後部の機銃をしっかり掴んでろ!マードット!」
2人の飛行兵、後部の銃座に座っているマードットと操縦士のマザラは兄弟である。2人は今回の戦争で大きく名を挙げる事を夢に見ていた。それは、貧しいながらも一所懸命に2人を育ててくれた母のため…少しでも暮らしを楽にさせたいが為であった。
劣悪な環境のせいで肺を患っており、医者からは助からないの一言だけで、何の治療もしてもらえなかった。だからこそ、彼らには時間が無かった。少しでも早く恩返しを叶える為には、軍へ入隊する事が手っ取り早いと考えたからだ。
「なんとしても俺たちが真っ先に敵をぶっ潰すんだ!」
「へっ!言われなくてもッ!」
彼らの胸には期待と興奮で満ち溢れており、恐怖など微塵も感じなかった。
ーーイール王国 沖合 約120㎞地点
大海原を悠々と進む海上自衛隊の艦隊がそこには居た。
第1・第2護衛隊群の2個護衛隊群で、今回のハルディーク皇国海軍『バルザック艦隊』に対応をしようとしていた。上空にはP3C対潜哨戒機が飛行している。胴体部には対潜爆弾対潜短魚雷や空対艦ミサイルを装備している。
そして遂に、索敵範囲が数十㎞にも及ぶP3C対潜哨戒機のレーダーがバルザック艦隊の飛行部隊を探知した。
「北東約100㎞にて多数の飛行物体を探知、ハルディーク皇国の航空機と思われます。」
「了解確認。至急、空母『あかぎ』へ情報を送信。」
ーー第1護衛艦隊 空母『あかぎ』
日本国で戦後初めて建造された空母『あかぎ』は全長295m、全幅65m、排水量7万tという最大の海上自衛隊の艦である。
『ひゅうが』や『いせ』以上のヘリコプター運用能力とF-35Jが40機搭載されている。
また災害時にはその莫大な格納庫を生かした活躍も見せている。
初めはヘリコプター搭載型護衛艦とする予定ではあったが、第二次朝鮮戦争の勃発により、日本にも空母打撃群が必要と判断し、建造されたという事実はあまり知られていない。
「P3C哨戒機より入電。ハルディーク皇国艦隊と航空戦力と思われる大群が此方へ向かっているとの報告あり。また、潜水艦は確認できず。」
「了解。F35Jは直ちに発艦せよ。」
「了解。」
空母『あかぎ』の発着艦指揮用の艦橋から送られた伝令により、空母内が一層慌しくなり始める。昇降エレベーターより上ってきたF35Jが、次々と発艦準備に取り掛かる。
そして、準備ができたF35Jから1機ずつ蒸気カタパルトによって、勢い良く射出された。
ーー
一方、ハルディーク皇国バルザック艦隊の戦闘機部隊は、日本軍がいたとされる場所へと向かっていた。
「第3機から電信で、南西方面に飛行する物体があったって聞いたが本当か?」
マードットは操縦席のマザラに聞いた。
「アァ!そうらしいぞ!」
「撃ち墜とさなくていいのか⁉︎」
「上からは『今は船を沈めろ』との命令だ!もしコッチに向かって来たら迎撃できるが、その飛行物体はコッチを見てるだけらしい!」
「ケッ!ニホンにもサヘナンティスみたいな戦闘機がある事に驚いたが、向かって来ねぇなら怖かねぇよ!根性無しだな!」
「うるせえぞ‼︎それよりも今はー」
2人が言い争いを始めそうになっていたその時、別の機から電信が入る。
『こちら53号機!前方から複数の影がー』
ボォォォーーン!!!
突如通信が切れると同時に、マザラ達よりも前方を飛んでいた複数の戦闘機から爆発が発生した。機体は爆煙を上げなら粉々となり、大海原へと落ちていく。
「な、何が起きた⁉︎」
「わ、わからねぇよ!」
マザラとマードットは混乱した。2人だけではない、通信機を通じて各戦闘機から何が起きたのか、分かる奴はいるかの声と同様の声しか聞こえなかった。するとそこへ更に、数機の味方の戦闘機が撃ち落された。
ボボボォォォーッ!
それと同時に、彼らの上空を何かがとんでもない速さで通過した。
「ッ!今のは何ー」
ゴォォォォォォォォーー!
上空を通過した後に聞こえてくる轟音。
空母『あかぎ』より発艦したF35Jである。
『こ、こちら32号機!矢じりの様な形をした何かが上空を通過!』
F35Jより放たれた空対空ミサイルが、彼らの遥か射程距離外から襲い掛かっていた。更に別方向からやって来たF35Jの航空部隊が、飛行部隊へ襲い掛かる。
『103号機!反対方向から正体不明の機体群が此方へー』
ヴゥゥゥゥーー!!!
今度はF35Jの25㎜機関砲が火を吹いた。
ハルディーク皇国の戦闘機は回避行動を取る暇も無くバラバラにされてしまう。
『うわぁーー!』
『此方27号機!だ、だれか助けー』
『速すぎる!!!』
『れ、列を乱すな!バラけるな!』
まるで蜘蛛の子を散らす様にバラけてしまった飛行部隊は、次々とF35Jの餌食となってしまう。中には反撃を試みようと、F35Jへ向けてやたら滅多と機関銃を撃って来るが、圧倒的な機動性とスピードのF 35Jの前では余りにも無力だった。
『ち、畜生!!!』
最早いとも容易く裏を取られてしまった戦闘機は、F35Jから放たれた空対空誘導弾に捉えられてしまった。
『ま、また変なものを撃ち込むのか⁉︎』
アレが何なのか彼らにとっては全く理解できなかったが、アレに当たれば間違い無く全てが終わる事は理解出来ていた。彼はなんとか期待をギリギリ限界までハンドルをきって、回避しようする。しかし、放たれた空対空誘導弾は外れる事はなく、そのまま機体の後を追うように軌道を変えた。
『なッ⁉︎何故付いてくー』
ボォォォーーン!!!
彼の疑問に答えてくれる訳もなく、機体は空対空誘導弾によって爆散してしまった。
「な、何だよ…これ。」
マザラとマードットは運良くF35Jから現在まで捉えられる事なく生き残っていた。しかし、気が付けば周りに居たはずの200機近くいたハルディーク皇国が誇る最強のバルザック艦隊の飛行部隊は、飛行戦艦も含め約50機程だけだった。
機動力のある複葉戦闘機ですらまったく歯が立たない日本の戦闘機相手に、飛行戦艦はその愚鈍な動きと攻撃の遅さから、成す術無く、瞬く間に次々と迎撃されて行く。業火の爆炎に包まれ、船体が真っ二つになりながら、ゆっくりとその巨大な空飛ぶ戦艦は、墜落して行く。
一隻…また一隻と。
「おいおいウソだろ……こんな化け物だなんて聞いてねぇぞ!」
「じょ、冗談じゃねぇ!やってられるかよ!!!」
気が付けばまた1機の飛行戦艦が大きな炎を発生させながらゆっくりと落ちていく。そして遂に、1機のF35Jに見つかってしまったマザラとマッドードの2人は、急速旋回でその場から離れる。
「や、ヤベェ!!!」
「早くここから離れー」
ふとマードットが後ろを振り返ると、もう目と鼻の先まで来ていた。あまりのスピードに2人は度肝を抜かれていたが、直ぐにF35Jの機関砲が火を吹いた。
ヴヴゥゥゥゥー!!!
2人を乗せた複葉戦闘機はあっという間にバラバラとなった。そして、F35Jは、次の目標を探しに向かった。
2人を乗せた戦闘機は、運良く操縦席部分だけが殆ど機銃を浴びずに住んでいたが、墜落するほどの損傷を受けている事に変わりわなかった。
「お、おい…マードット…マードット!」
後部にいたマードットにマザラは声を掛けるが、返事が聴こえてこない。痛む身体を無理やり動かし、後方に目を向ける。
そこには、ほぼ全身血塗れたマードットの姿があった。ダラリと下がった両腕と頭から、既に事切れているのは明白だった。
「あぁ…そんな、嘘だろ兄弟。この戦争で手柄を立てようって言ったじゃねぇか。…馬鹿野郎。」
兄弟の死にひどいショックを受けるマザラ。
彼は、懐へ手を伸ばし、内側ポケットから小さなアクセサリーを取り出した。
「ごめん母さん…本当にごめん…ごめん。」
それは母が2人の為に作った御守りであった。
愛する息子たちが、無事に戦地から帰ってくる事を願って……しかし、その願いは叶わぬモノとなってしまった。
『敵航空戦力の排除を確認。味方航空機の被害0。』
『了解。全機帰投せよ。繰り返す全機帰投せよ』
『了解。これより帰投する。』
日本の戦闘機F35Jの空対空誘導弾と25㎜機関砲によって、ハルディーク皇国の飛行部隊は全滅となった。
そして、航空自衛隊が引き上げた後、次に狙われるのはバルザック艦隊であった。
ーー
自身の飛行部隊が全滅した事を聞いたアクアス提督とその幹部達は、ヘカトンケイルの艦橋にて驚愕していた。自国最高にして最強の部隊が全滅……日本は自国よりも遥かに優れた兵器を用いている。この事実を無理やり思い知らされたそのショックはかなり大きかった。
「空からの攻撃は全くと言っていいほど裸同然となった。オマケに敵は未知の兵器と来たものだ……。」
アクアス提督は頭を抱える。
他の幹部達はその場で思い付いたかの様な発言を口に出す。
「こ、ここはひとつ降伏するというのはどうでしょう。」
「馬鹿者!既に日本へ宣戦布告をしたのだ!今更聞き入れる筈がない!」
「やはり徹底抗戦か…?」
「だが、どうやってこれ以上抗戦すると言うのだ⁉︎敵の飛行部隊は恐らく我々の元へ向かってくるぞ!圧倒的な戦力でな!」
「これはありえない!あってはならない事だ!」
一方では抗戦だ!一方では降伏だ!という意見が出てくる。アクアス提督は何とか落ち着かせようと声を出した。
「みんな落ち着ー」
ウゥゥーーーー!!!
突然艦隊中に鳴り響くサイレンの音。
それが四方八方から聞こえ、何重にも重なっていた。
「あ、アクアス提督!!!」
1人の水夫が凄い勢いでやって来た。その表情と状況から決して良い報告では無いのは明らかであった。
「に、ニホン軍の軍艦が急速に接近中!!!まだ射程距離外ですが、真っ直ぐ此方へ向かって来ております!!!」
この報告を受けたアクアス提督は、一滴の冷や汗をかいた。
(い、幾ら何でも速すぎる!……やはり我々の常識を遥かに凌駕するチカラを…)
ニホンの軍艦は既にバルザック艦隊まで約30㎞地点まで近づいて来た。バルザック艦隊の砲艦射程距離は約4㎞……まだまだ射程距離外ではあるが、既に砲撃の準備は整っている。
「こ、この『ヘカトンケイル』のチカラを見せつける時ではないのか⁉︎」
1人の将校が強気の発言をすると、ほかの幹部達も鼓舞されたかのような発言を口にする。
「そ、そうだ!!!この圧倒的な火力をもってすれば、幾らニホンの軍艦であろうと敵うはずがない!!!」
「ええい!こうなればやるしかない!!!今こそ列強国の意地を見せる時よ!!!」
「アクアス提督!!!ここまで来たからにやるしかありません!!!」
アクアス提督はこれまでの戦況から何故そこまでの自信が出てくるのが理解できなかった。しかし、この流れに戦局を任せるワケにはいかず、皆んなに『降伏』の意を伝えるべきである事を話そうとした。しかしー
ドドドドォォォーーー!!!
「ッ⁉︎」
大きな轟音と僅かながらに聴こえる悲鳴……それだけで一体何が起きたのかは、瞬時に理解できた。
「バカなッ⁉︎まだ30㎞近くもあるはず⁉︎」
アクアス提督は身を乗り出すように艦橋甲板から艦隊前方を眺めた。そこには、燃え盛る多数の砲艦が所々に見えた。
射程距離が30㎞にも及ぶ日本の護衛艦から撃ち放たれた艦砲が、バルザック艦隊に襲い掛かっていた。未だにバルザック艦隊の射程距離外では、成す術は無かった。一方、日本の護衛艦隊は敵艦に向け、艦砲射撃を続ける。
次々と爆発が発生し、多くの艦が沈んで行く。アクアス提督達は、艦橋デッキからその光景を唖然とした様子で眺める事しか出来なかった。
「い、幾ら何でもこれは……早く降伏の意図を伝え無くてはー」
『敵艦より再び発砲確認!!!』
「ッ⁉︎」
伝令管からの報告を聞いた次の瞬間、突如彼の乗っていた艦が激しく揺れ始めた。
突然の出来事と揺れに、アクアス提督達は転倒してしまう。彼は床に激しくぶつけた身体を何とか起こし、何が起きたのか確認しようとする。
「な、何だ一体…。」
所々で聞こえる大きな爆発音。それが彼の居る要塞砲艦『ヘカトンケイル』から聞こえる事に気が付くのに、そう時間はかからなかった。
遂に護衛艦の艦砲が『ヘカトンケイル』に襲い掛かったのである。
他の砲艦と比べて圧倒的に巨大な艦である『ヘカトンケイル』は、日本の護衛艦にとって絶好の『的』でしかなかった。
「これ程までの破壊力…そして射程距離とは……は、話にならないではないか⁉︎」
アクアス提督はその圧倒的な射程距離と精密性、そして破壊力に絶望していた。艦内から無数の炎が立ち登り、乗組員達の悲鳴も聞こえる。
『う、右舷と艦尾に被弾!!!』
『艦内にて多数の火災発生!!!近くの乗組員は消火作業に移れ!』
『第2魔道蒸気動力室がやられてる‼︎』
『第1魔道蒸気動力室にも火がッ!こ、このままじゃあ爆発しちまう!!!』
次々と伝令管を通して聞こえてくる被害状況。その報告は、時間が経つごとに酷くなっていた。
『うわぁ!!!右舷艦内に浸水!!!ふ、塞ぎきれない!!!』
被弾を受けた要塞砲艦『ヘカトンケイル』の右舷には、大きな穴が空いていた。そこから多量の海水が浸水し始める。艦は少しずつ傾きながら沈み始めた。
最早これまでッーー
そう悟ったアクアス提督はフラつきながらも何とか伝令管を掴み、乗組員に向けて退避命令を下した。
「ぜ、全乗組員に告げろ!艦を捨てて海へ飛び込め!!!」
艦内に総員退避命令が下ると、乗組員達は次々と艦から飛び降り始めた。脱出用ボートなど降ろす暇もない。アクアス提督達も何とか艦から飛び降り脱出する。
その後、間も無く要塞砲艦『ヘカトンケイル』は大爆発を起こし、海の藻屑となっていく。アクアス提督達は、漂流していた艦の一部に掴まりながらその光景を見ながら歯噛みしていた。
(……ま、まさかここまでとは…降伏する時間すら与えない程の猛攻……ば、バケモノか⁉︎次元が違い過ぎる!)
ボボボボォォォ……
ドドッ!……パパパパーー…
沈み続けながら崩壊と爆音を響かせる『ヘカトンケイル』。近くにいた砲艦が海に飛び降りた乗組員を引き揚げようとしていた。
ーー
空母『あかぎ』
戦闘指揮所(CIC)より入電が入った。
「護衛艦『ひご』より、敵艦隊の旗艦と思われる巨大戦艦の撃沈を確認したとの報告がありました。」
「第2護衛隊群旗艦空母『しなの』より入電。迎撃部隊としてF35Jの発艦準備完了しているとのこと。」
空母『あかぎ』の艦長は落ち着いた口振りで命令を下す。
「待機指示を送れ。敵は航空戦力を失い、更に旗艦であり主力と考えられる艦も失った。今回は必要最小限の労力で敵を制圧する事を主としている。……敵艦隊の動きは?」
「…………ッ!敵艦隊の撤退行動を確認!動きにバラツキは見られますが、旋回を始めてます。」
「うむ……恐らくは要を失って戦意を喪失したのだろう。上手くいくかは分からなかったが、作戦勝ちだな。」
戦闘指揮所(CIC)から安堵の溜息が聞こえて来た。彼らも恐ろしかったのだ。未知なる敵のチカラ…ましてや異世界なら尚更である。
「気を引き締めろ!……まだまだこれからだ。完全に敵が撤退を確認するまで警戒を厳とせよ!」
「「ハッ!」」
先程まで紐解かかった緊張の糸が2人張り始める。
「いやはやッ!あまりにも凄すぎて言葉に出来ませんなぁ!噂以上で大満足ですよ!」
そこへ艦内の現場には相応しくない煌びやかな服装をした人達が、戦闘指揮所(CIC)へと入って来た。1人は大口を開けて笑い、1人は見たことない物だらけの場所にビクビクと怯え、1人は落ち着いた様子であったが、先程の人と同じ様に落ち着きない動きが見られた。
艦長は彼らの元へ移動し、目の前に立ち敬礼した。
「艦橋デッキの固定望遠鏡から御覧に頂けましたか?」
彼の問いに大笑いしていた人が満面の笑みで答える。
「満足も何もッ!……貴国の力を間近で見てみたいとずっと思っておりましたので…大満足です!あの憎たらしいハルディーク皇国をこうも蹂躙される光景を見る事が出来て、暫くはコレを肴に酒が飲めそうですよ!」
「ありがとうございます。しかし、敵も祖国を想って戦いに来ております。出来ればその様な発言は…」
「ん⁉︎お、おう。そうかそうか…貴国はそういった国であったな……申し訳ない。」
そこへ怯えていた人が声を掛けてきた。
「た、タダでさえこの船だけでも驚いているのに……あんな兵器を見せられたら……め、眩暈がしてくるよ、ハハハ。だが……良いものを見せてくれた。貴女様もそう思いますでしょう?」
彼が声を掛けた女性が静かに口を開く。
「え、えぇ……ニホンのチカラを知る良い機会でありました。本来であれば重役である私たちが、『観戦武官』として活動するのは異例中の異例ですが……それに見合うモノを見ることが出来ました。感謝致します。」
3人は軽く頭を下げ、礼を述べた。艦長も同じように頭を下げる。
「いえ…此方こそ、本艦にご乗船頂きこうえいであります。『サヘナンティス帝国』外交長官ロラン様、『リトーピア』議長代行官ルドルフ様、『ヴァルキア大帝国』外務大臣オルネラ様。」
???「戦いは数だよアニキ!」
↑これを否定するかのような結末でしたね。




