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四章 断頭

「あの」


「なんだい?」


月歌の呼び掛けに、頬杖をつきながら答える雨田。


「テレビを見てもいいですか?」

「うん」

「テレビをつけますね」


月歌は主電源に指を近づけつつ、これは雨田の物なので一応は確認をとる。


「…別に聞かなくても好きに見ていいよ」

「ですが…」


月歌には雨田が神経質そうな性格に見える為だった。


その他に、テレビの音が推理の妨げになるのは申し訳ないとも。


月歌が、“ではつけますね”と言う。

嬉々とし、テレビのボタンをパチりと押した。


{たった今入ったニュースです}

「事件でしょうか?」


月歌は少しどころか、とても興味津々で画面に近づいた。


「月歌さん、目が悪くなるよ。

近代のLED電球や液晶テレビ、携帯やノートパソコンは特に。

蛍光灯やブラウン管の倍、ブルーライトが強いからね」


雨田の話を聞いて、月歌は一先ず画面から適切な距離をとる。


{続いてのニュースです}

「しまった…ニュースの内容を聞きそびれた」

「あまり大したことではなかったようですね」

「そうだね」


案外早く切りかえたということで、殺人事件や事故ではないと、二人は考える。


{二日前、あやまって車のドアに挟まった女性が死亡していました

車内から指紋や毛髪が出なかったため、警察は事故死だと断定したようです}


女性アナウンサーが深刻な顔でニュースを読み上げる。


「雨田さん、ドアに挟まって死ぬなんて変ですよね?」


月歌はニュースの内容よりも、それが事故死と言うことに違和感を覚える。


常識的に、軽くドアに挟まって、死ぬことはありえない。


{窓ガラスに血とかべったりついてて、頭部がなくなってました…}

{不思議なこともあるもんだね…}

{こわかったです…子供達が悲鳴をあげてて気づきました}


現場付近に住んでいる目撃者たちの証言が流れる。


{事故死とありましたけど、窓ガラスに挟まるなんて…}


コメンテーターはおかしいと指摘する。


「別のチャンネルも観てみよう」


雨田がチャンネルを変える。


{昨夜、ひき逃げがありました。現場には砕けたウィンカーの破片が…}


同じように車の事故についてやっていたが、別件のようだ。


「現場を見に行こうか」


新たな事件の幕開け―――――。


二人が頭部切断の事件現場に訪れると、警察が圧されるほど、人だかりが出来ていた。


‘keepout’と書かれたテープが張り巡らされている。

二人は遺体を確認しようにも近づけけない。


「参ったね。暇だしドライブにでもいこうか」

雨田は右ポケットから、車のキーを取り出した。


月歌は事務所を放置していいのか、尋ねようと思ったが、どうせお客は来ないと、気がついて止めた。



「車を持っていらしたんですね」

「意外だったかな?」

二人は無数の車が止めてある駐車場を歩く。


「どうぞ」

雨田がキーのロックを解除した。


「あら?」

月歌は車内に乗ろうと右側に手をかけ、ハンドルがあるのに気がつく。

前方から回り、左側の助手席に移動した。


「すみません、ついくせで…」

「君の家の車は左ハンドルなんだね」

「はい」

月歌は頬を赤くして、うつ向いた。


「……どうしてそこで赤くなるんだ?」

雨田は一人言を呟く。

彼が何を言ったかは、月歌には聴こえなかった。



雨田はしばらく無言で車を走らせる。

月歌はその間、カーナビでテレビを見ていた。


それから一時間ほど経過して、目的の場所に着いたのか、運転を止める。


「着いたよ」

「はい、では降りますね」


月歌がドアを開き、景色を見る。

そこはおそらく、ニュースでやっていたであろう事故現場の近くだった。


「やはりこっちもダメか…」


月歌は周りを観察していた。


その中で、怪しい動きを見せる若い女がいた。


普通は冬に着るであろう薄茶のロングコート、サングラス、マスク。


「あ、いいものが落ちていたよ」


雨田は道路に落ちていたピアスを、ピンセットで拾い、ビニールに入れた。


「雨田さん」

「どうしたんだい?」


月歌が指をさす方向に、雨田の視線がうつる。


「犯人は現場に戻るっていいますよね!」


月歌は自身たっぷりに言う。


「…雨田さん?」


返事がないので、月歌は不安になった。


「ドラマの見すぎですよね…」

「尾行しようか」

「え?」


月歌は先導する雨田の後ろを、ついていくことにした。


女は事故現場から住宅街へ移動した。

地面を見ながら、何かを探している。


雨田と月歌は、餡パンと牛乳を両手に、電柱に隠れながらの尾行を続けた。


女は地面を異常なほどくまなく探している。

二人が後をつけていることには、気がついていないようだ。


やがて女は裏の路地にまで入り、行き止まりの壁に頭をうった。


「いたた……」


帽子がずれて、茶の短い髪がのぞく。

女はそれを直して、立ち上がった。


そのまま何事もなかったように、平然と二人を素通りする。


「まってください」

「!…なに」


雨田に声をかけられ、女は動揺し、そわりそわりと手を細かく動かした。


「…探しているのはこれですか?」


雨田は、右ポケットからとりだしてピアスをとりだして見せる。


「…!」


女は息を飲む。サングラスとマスクに隠れ、表情は見えない。

しかし、何かうしろめたい事があるに違いないと二人は確信した。


事故現場で拾ったという事で、考え付くのは、この女は事故の関係者。


それが見つかると、この女にはまずいのではないかと月歌は推理した。


「よっ寄越しなさい!」


女は刃物をとりだして、雨田の腕を狙う。


「危ない!!」


月歌は背後から女の右腕を蹴り、刃物を地に落とした。


すかさずふところに入り、右手で鳩尾を軽くうつ。


その後、足元の刃物を奪い、首筋に突きつけた。


雨田は呆気にとられながら軽く手をパン、パンと打つ。


「あら…意識を失っていますね。雨田さん。怪我はありませんか?」


雨田の方を向き、たずねると、月歌はナイフをハンカチでくるむ。


「ああ、大丈夫だよ」


雨田は微笑んだ。


「じゃあ車にのせて、警察に…」


二人がかりで女を引きずって、車を止めておいた場所へいく。



しかし、その場に車はなかった。




「大変です…!!レッカーされていますよ」


月歌は深刻な顔で、雨田を見た。


「これは非常事態だ…」


雨田は今、手ぶらで、金を持っていない。


「警察に連絡しましょうか?」

「いや、できればそれは避けたい」


警察を呼んで事情聴取されている時間がもったいないと雨田はためらう。


「そうだ!こんなときこそ彼がいるじゃないか」


雨田が携帯で連絡をした。




「一体なんの用だ?」


ほんの一分ほどしたところで、電話の相手が現れた。


「片瀬さん」

「いやー早かったですね」

「あそこで事故があってな」


「警部!こいつが犯人です!」


月歌は警部補になりきって背負っていた女を差し出した。


片瀬は目を丸くした。


「なので車を返してください警部」


「…車?」



詳しい話をしに、二人は警察署へ向かう。



車に乗るまでの道中、女のサングラス、帽子、マスクをとる。


「あら…この人」

「どこかで見たような…」


「ニュースキャスターじゃないか?」

「それです…!」

片瀬の言葉に、今朝のニュースを思いだし、二人は納得した。


取り調べの結果、女が事件の関係者だと判明した。



二人は片瀬に案内された空き部屋で話をすることになった。


「刃物を向けてきたときはさすがにダメかと思いましたよ」

「相手が女性とはいえ、無傷とはすごいな」


片瀬は、雨田の状況説明を聞き、驚く。

普通に考えて、雨田が倒したのだろうと、片瀬は勘違いをしているからだ。



「いや、倒したのは月歌さんですよ」

「…そうなのか?」

「はい、護身術は幼い頃から習っていました」



「それに…向こうにいたときに比べたら、あれくらい普通ですよ」

「何か言ったかい?」

「いいえ」



自動車事故について、色々と判明した。


まず彼女は主犯と思われる男性の運転する車でドライブをしていたそうだ。

てっきり助手席に座っていたのかと思いきや、彼女の痕跡は後部座席にあるらしい。


それなら、助手席に別の誰かが座っていた可能性もある。


という事から痕跡を調べるも、車に二人を除いた人間のいた形跡はなく、警察犬でも、判断がつかないそうだ。



「なぜ、彼女は助手席に座らなかったか?」

「後部座席はよくて、助手席に座れない事情…」


彼女はテレビに出ている。

マスコミや週刊誌に写真を撮られるとまずい。

そう判断したのでは、と月歌はいう。


「それもあるだろうけど…その車に二人しか乗っていないのは不自然だよ」


「もしかしたら、二人は親密な関係でしょうか?でなければ友人を連れてくるはずですし」


なぜ、リスクをおかしてまで二人でドライブをするのか、月歌は疑問を抱いた。


「親密だというなら、助手席でサングラスをかければいいのにね」

「…はい?」


助手席に座ったらパパラッチの餌食ではないだろうか、月歌は雨田の言葉の意味が理解できない。


「なぜ週刊誌にパパラッチされる?芸能人はなぜそんなにも馬鹿なのか、答えは簡単さ。

後ろめたさから、他人に罪を暴かれたい。売名。

相手を愛しており理性よりも、本能でそばにいることを望むから。のどれかだよ」


雨田の例えはあくまで助手席に座った女性の話。

彼女は後部座席に座っていたのなら関係のない話だ。


「そうですかね…」


月歌はこれからどうするか考える。


「車といえば、類似する事象が同時期に起きるなんて不自然だと思わないかい?」


雨田の問いかけに、もう一つの事件を思い出す。

彼女のかかわった事故にくらべれば、あちらは死人が出ておりそれは残忍で重い。


事件か事故か、断定されてはいない。

しかし、二人はそれを他殺と判断している。



「現場に行ってみましょう」


二人は現場へ来たはいいが、テープに遮られ、現場へ近寄ることはかなわなかった。


「やはり、現場は立ち入り禁止のようですね雨田さん」


月歌は残念そうな顔で、雨田を見た。


「でも、案外近くから視ることは可能のようだよ」


雨田はにこやかに目を細め、テープギリギリまで身体を近づける。


「もう遺体はないようですが、生々しい血の後かありますね」


車の窓からドアを一直線に流れた血の赤。


(断頭――)


「雨田さん」

「どうしたんだい?」


「なんだか腑に落ちないのです。車のガラスで断頭など可能でしょうか?

鋭利なギロチンでもない限り、脂肪や骨を包む

人の身体を綺麗に断てるはずがないと思うのです」


月歌は違和感を覚えたこと、同時に自分の考えを話した。



「そうだね、君の推理は正しいと思うよ。よく血を見てごらん」


その朱は綺麗に、まっすぐ降りている。


「血液の飛沫がありません」

「ということは、車は彼女の死因とは関係ない」


「つまり事故死、ではなく他殺ですね」

「ああ、そうなるね」


「犯人はやはり、彼女ですか?」

「……推理小説の読みすぎだよ」


雨田、月歌は片瀬のもとへ、推理した結果を報告に行く。


「わかった。殺人に切りかえた捜索を始める」



雨田と月歌は、事務所に帰る。


「いかにも通り魔が出そうな雰囲気ですね」


道は暗がり、恐怖や好奇をあおる。


「こんな人通りの少ない場所は危ないから早く帰ろう」

「そうですね」



翌日、事件の真相が明らかになった。


車に乗っていた男性は兄だと判明した。

なぜ、助手席に座らなかったのか、という疑問はこれで解決した。

そして犯人は月歌の言う通り彼女だった。

被害者は彼女の兄の婚約者だった。


被害者と兄は結婚目前で不仲になり

兄のほうが被害者に付きまとわれ、困っていると言う。

彼女は兄のため、被害者を殺害後、遺体を事故死に偽造した。


「美しき兄妹愛かな……」


けれども謎はいまだ残る。



―――――これで今回の事件は幕を閉じた。

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