七ー2
二人は当主の一郎太と共に、執事に案内されながら客間へ。
「光雄は来ていないのか?」
「ええ……ご連絡申し上げたのですが、お仕事で忙しいとのことです……」
「数日前から重要な話があると言っていたというのに……」
「重要な話?パパ、もしかしてそちらの方が……」
娘と思われる気の強そうな壮年女性が値踏みするような視線を向ける。
「月歌様、ようこそいらっしゃいました。そちらの方は……」
「フィアンセの方かしら?」
落ち着いた女性と車椅子の少女が頬を赤らめながらたずねた。
「そうです」
余計なことを説明してボロを出すわけにもいかないので、間髪入れずに即答する。雨田は流石に取り乱しそうになったが、なんとか耐えた。
「なんだぁ……光雄の婚約者かと思ったのに……」
「大変な事件でしたね」
後から入室してきた中年男性が、脈絡なく月歌の曾祖父の一件について触れる。気づかわしげに振舞っているが、そんなつもりがあるなら始めから口にしない事だろう。
「困ります!」
メイド達が招かれざる客人を止める声、一体誰が来たのかと一同が注目する。
「ガキ下ろすお金ちょうだい!」
お腹の大きな女性、考えられるのはこの家の主人か息子の内、誰かの愛人だろう。
「光雄のヤツが、逃げやがったのよ! 親のアンタが代わりに払って!」




