三十四話「(物理)」
控えめに言って投稿めちゃ遅れました。申し訳ありませぬ。
深夜テンションで書き上げたので後日読み返して編集する可能性があるのでご了承頂けると幸いです。
ギルドでの面談を終えてギルド指定の宿屋に入った後、適当な食事処に入り魚料理を堪能した。お刺身とかあるのかなって思って聞いてみたけどここら辺では生食の文化はないみたいだ。
ご飯を終えた後は今日はもうゆっくり休みましょうというイレーヌさんの案に賛成して現在宿に戻っている所だ。
「魚の煮つけ美味しかったなぁ」
白いご飯が恋しい、あと味噌汁な。
「あっちじゃ海の魚なんて干物以外食べられないものね」
「どうにかしてあっちまで運んで貰えないかな……」
「どう考えても腐るでしょ……」
「いやほら水に入れたまま運ぶとか」
「どれだけ距離あると思ってるの? 仮に出来たとしても手間賃かかりすぎてあっちじゃ金貨数枚の価値になるんじゃない」
まぁそうなるな。いやまぁ自分でもそんなこと出来るとは思ってないんだよ? でもここ異世界じゃん? 容量関係無しに詰められて鮮度も保てる皮袋的なものとかそういうのもっと身近にあってもいいと思うんだよね。
というか魔法とかある世界なのにその技術について全然情報入ってこないんですけど。ギルドで聞いても教えてくれんし、知りたいなら魔法学校に行ってくださいとしか答えてくれない。結局、魔法学校行くしかないのかな。
「あんたの魔法で凍らせればもっていけるんじゃない?」
「まぁ少量ならいけますね」
そういって手のひらに意識を集中させ人の頭大の水球を作る。この中に魚を入れて凍らせればいい。
「ただ氷を維持するのがかなり大変そうですけど」
溶けかけたら作り直すだけだけど、護衛中にそんなことしてる余裕あるのかって話だ。
まぁそれもそうね、と頷くイレーヌさんがまじまじとこちらの手のひらとその上に浮いている水球を興味深そうに見てくる。なんだろう、水球なんて何度も見せたことあるはずなんだけども……。
「ええと、どうかしました?」
「今更なんだけども……それどうやって浮いてるの?」
「えっ?」
「いやだからその水。手のひらで浮いてるじゃない? どうやってるのかしらと思って」
「……えっ」
言われて改めて水球に目を向ける。えぇー……どうやって浮いてんのコレ。
漫画とかアニメとかだと普通にこうやって浮いてるのをイメージして使ってたから何も疑問持たずいたけれど改めて言われると何がどうなって浮いてるのか全く分からない。そもそもいつ頃からこの形で定着したんだっけ?
「重力魔法・・・とかか?」
思わず自問自答してしまう。いつの間にそんな最強っぽい魔法覚えたんだろうか。
「もしかしてさ、私も浮かせたりできないかしら」
なんて言い出すイレーヌさん。いやそんなキラキラした目されましても……。
「意図的に使うの初めてだし、人に使って大丈夫かわかんないから怖いんですけど」
そもそも本当に重力を操っているかすらわからないんですけど。
「大丈夫よ。何が起こっても自己責任だから」
「なんでそんなに全力なんですか……いいですけど何が起こっても怒らないでくださいよ」
イレーヌさんを浮かすイメージをして魔力を走らせる。が、いくら魔力を注いでもイレーヌさんの身体が浮かぶ予兆はない。
「若干の浮遊感とか感じたりしてません?」
「今の所、ないわね」
「うーん、対象が(水球に比べて)重すぎたのかなぁ……グハァッ」
「だ、誰が重すぎるってぇぇえ!」
「……そういう意味じゃないのにぃ」
腹を抑えてうずくまっていると視界に石ころが見えたので今度はこれを浮かせようと集中するもこちらも微動だにしない。どうやら重力を操って浮かしているわけじゃなさそうだ。
別の方法となると空間に固定しているのかとも考えるが重力を操れて無い以上、同程度に難しそうなこちらの可能性も相当低いだろう。となると後考えられるのは……。
試しに先ほどの石ころに向かって思いついた方法で試してみると今度は石ころが浮いていた。いや正確には浮いたんじゃないのだけど。
「なんとなく、わかりました。これ浮かばせてるわけじゃないみたいです、ただ単に魔力で持ち上げてるだけですね」
「それって浮かしてるってことじゃないの?」
「まぁ魔力が見えないんで見た感じだとそうなんですけど、イメージとしては伸縮する土台を使ってるって感じですね」
「でもそれなら実際浮いているのと変わらないんだから問題ないじゃない」
そう、確かに問題ない。機能としては、だけど。だが俺にはこの事が発覚したことである懸念が浮かんでしまったんだ。
「ちょっと確かめたいことが出来たので先に戻っててください」
「いいけど迷子にならないでよね」
「もちろん、私はついていくぞ。主に何かあったら困るからな」
「えっ、来んの」
あんまり見せたくない事だったのでつい尖った言い方になってしまった。
「それはそうだろう。主が出かけるというのに護衛もしないで部屋で寝てる従者なんていないだろうに」
まぁいいんだけど……。
「それでどこへ行くのだ、主」
「とりあえず人がいなくてある程度開けた所ですね」
「では町から出た場所になるな」
町から出てある程度離れた所にちょうどよく開けた場所があったのでそこで検証を開始することにした。
さて、まずは何から試しましょうかね。
「戻りましたー」
「おかえりー。後で前半お疲れさまってことで合同で食事会することになったから」
「……あんまり飲みすぎないで下さいよ」
みんな飲むとしたら一番大変なの俺じゃん。
「大丈夫に決まってるでしょ! ちゃんと節度を守って飲むわよ」
飲み比べとかで挑発されてべろんべろんになるのが目に浮かぶんですがそれは。
「それで結局なにしてきたの?」
「現状確認と新しい魔法っぽい何かの開発ですね」
「魔法っぽい何か?」
だって現状そうとしか言えないんだもん。それどころか今まで使っていた魔法についてもそうだ。風の魔法だと思っていたのはただ単に魔力を飛ばして鋭くしたものを物質化してただけだし、土魔法と思っていたのだって魔力で形を整えた上でコーティングしてただけだった。
要するに今まで魔法だと思っていたのは魔力を使った攻撃(物理)だったわけですよ。それに気づいたときはショックで項垂れそうになりましたよほんと。これって魔法って言えるんですかね……。
「主の新しい魔術は凄かったぞ。なんせ空中を歩けるのだからな」
「ほんとに!?」
「ああ、最初はいつも使っている魔術を使っていたんだが急に手と膝をついて項垂れたと思ったら急にシャドーボクシングをし始めてその後に空中を歩きだしたんだ」
「凄いけど傍からみたらただの変人ね……」
ちょ、ドン引きした目で見ないで! ちゃんと理由があるから!
「意味もなくシャドーをしてたわけじゃないんですよ。ちょっとイレーヌさん僕の顔に触れてみてください。そうすれば理由がわかるので」
イレーヌさんが俺の顔に向けて手を伸ばす。しかしその動きは俺の顔に触れる直前で止まってしまった。
「えっ、なにこれ?」
今度は両手を伸ばしてくるがやはり直前で止まってしまう。
「なんか壁っぽいのがあるんだけど……」
「魔力で作った壁です。防御に使えないかなって思って耐久を試してたんですよ。斜めにして乗ってみたりしましたけど大丈夫だったので込める魔力の量によっては結構頑丈になるっぽいです」
空中歩いてたのはただこれに乗ってただけだ。ほんとそれだけ。ただこれはかなり使い勝手がよさそう。無色透明である程度耐久があるのだ。自分の足場にしてもいいし相手の足場におけばトラップにもなる。
「他にも利用方法ありそうなので今後いろいろと考えていくって感じですねぇ」
「連携で使えそうな物があったら報告よろしくね」
イレーヌさんと会話をした後はさすがに疲れがたまっていたので夕食の時間まで仮眠をとることを伝えてベッドにダイブした。おやすみー。
「よし揃ったな。とりあえず全員エールでいいか?」
「いや、さすがに子供なんでジュースでお願いします」
「なんだよ、今日くらいいいじゃねぇか。大人の味を楽しんでみろよ」
単純にその味が嫌いだし、未成年者の身体にお酒は悪影響でしょうが。身長伸びなくなったらどうしてくれる。
「大人になった時の楽しみにしますのでジュースでお願いします」
「まぁいいか。林檎のジュースでいいよな? そこのお姉さーん! 注文ー!」
「じゃあ飲み物は揃ったな。では前半無事に終わったことと後半も無事に終わることを祈って、乾杯!」
「「「 乾杯! 」」」
乾杯をして林檎のジュースを一口飲む。ってこれって……。
「酒じゃねぇか!」
「アルコール入りの林檎ジュースだ」
「飲まないって言ったのに……」
「飲んだことないんだろ? 何事も経験だぜ」
まぁ確かに前世じゃ弱かったけど、元々日本人はそこまで酒に強くない体質だったらしいし身体はこっちの世界の物だから試してみないとわからないかも。この林檎酒ならアルコール度数低そうで美味しいし……。
「未成年にお酒はあまりよくないんですよ」
「俺は成人する前に飲んでたけど大丈夫だったぞ」
「あまりうちの子を虐めないでくださいます?」
クロエさんもっと言ってやってくださいよ。
「でもよぉ、こいつが酔ったらどうなるか興味ねぇか? 年相応の反応になるかもしれねぇだろ?」
カールさん(魔天狼のリーダーだよ!)がクロエさんに耳打ちしてるけど何て言ってるんだろ。
「今回は特別に許可します」
あれぇ!? あの野郎、本当に何言いやがった!
「まったく、この一杯だけですからね!」
味は結構おいしいな。あんまり酒精を感じないからジュース感覚で飲めちゃう。
「どう?」
「いや、どうって……。美味しいですけど」
「甘えたくなってきた?」
「いえ特に、というかなぜそんな質問に?」
「じゃあもう一杯飲もうね」
えぇぇ、どういうことなの。野郎の言うことなら断りやすいけどクロエさんからだと何か断りにくい。
「……まぁ後一杯くらいなら。そんな強くないみたいだし」
このまま飲まされ続けたらどうしようと思いながら味方になりそうな人を探す。”満月の森”の面子は……駄目だな、もうすでに酔いが回って嫁自慢してる人と娘に長期間会えなくて咽び泣いている人しかいない。嫁自慢の話に捕まってるイリスさんが逆にこちらに救援の視線を送ってきている。頑張れ。
イレーヌさんはというと時々こちらの様子を見ながらお酒と料理を楽しんでる。助けろ。
「そういえばハルトは魔法学校に通う資金のために冒険者やってるんだよな」
「まぁそうですね」
「予定じゃ来年から通うんだろ? そしたらパーティはどうするんだ?」
「まだ決まってないんですよねぇ。一緒に王都に行くっていう手もあるんですけど普段は学校に通うことになるから休日しか動けないし」
「私たちとしてもハルトとイリスが抜けるのは相当痛いわね。普段を二人でやるんだったら慣れてない王都より慣れているこっちでやった方が安全かしら」
「新しいメンバーを集めたりしないのか?」
「そりゃ集まればそれに越したことないけど、この二人レベルかつ女性の人が集まるかって言われたら望み薄じゃない?」
「男じゃダメなのか?」
「んー、やっぱりまだ抵抗あるのよねぇ」
「ハルトだって男じゃねぇか」
「こいつはほらアレよ。大丈夫だから」
あれですよね。信頼されてるってことですよね。
「まだ子供だからってか。子供だからって男には変わらないんだぜ。なぁハルト」
ちげぇよ信頼だよ信頼。男として見られてないとかじゃねーから。
「いや男ですけど、このパーティは俺にとって家族みたいなもんだし」
不純な関係は求めません。
「家族ねぇ」
「そうねぇ、家族よねぇ。お姉ちゃんって呼んでいいからね」
「流石にこの歳でそういうのはちょっと......」
「あんたまだ10歳じゃない……。もう11だっけ?」
確かに11歳ですけども。精神的には年上ですからね。しかし悲しいことに死んだときから精神年齢は成長してない気がするなぁ。
「まぁ今後のことは試験終わってから考えればいいんじゃないかな。そんなすぐ解散ってわけじゃないんだから早めに募集かけとくとかすればなんとかなるんじゃない?」
「そうね、無事に帰ってからちゃんと話し合いましょう」
「ま、先の事考えすぎると今が疎かになったりするからそれでいいかもな。どっちかというとお前らの過去の話が気になるぜ。どういう経緯でパーティ組むことになったとかよぉ」
「別に特別な経緯でもないんだけどね、まず私とクロエが……」
「おっとその前に飲み物が空だぜ、まだ全然飲めるだろ?」
「あったりまえじゃない!」
「じゃエールと林檎酒追加で! まだ夜は長いんだからどんどん飲むぞ!」
その後はそれぞれのパーティの過去の話に花を咲かせながら飲み続け、閉店の時間が近づいていたので宿に戻ることになったが全員見事に酔っ払い状態である。一番まともなイリスさんが会計を済ましている所だがイレーヌさんとカールさんは完全に千鳥足でフラフラしている。
クロエさんはまだまともっぽい気がするけど、いつもよりふわふわしてる感じ。斯く言う俺も後から聞いた話だといつもと違う感じで喋ってたらしい。
「ハルト君、どうかした? 甘えたい? お姉ちゃんがぎゅってしてあげようか?」
その案はとても素敵だけども! 子供扱いされるのはやっぱりちょっとなぁ。なんて返そうか悩んでいると横にいたカールさんがふらふらと前に出てくる。
「よぉしハルトがいかねぇならあのメロンは俺が頂くぜぇ。クーロエちゅわ~ん」
カールさんがクロエさんに向かってダイブしたその瞬間、クロエさんの顔が真顔に戻る。さらにクロエさんは右足と右手を後ろに引き、体重を乗せた右フックをカールさんの顎に思い切り撃ちはなった。
「くふぅ」
「カ、カールゥゥウウ!?」
撃ち抜かれてから一拍した後、膝から崩れ落ちるカールさん。
なんだろうこの光景すごい既視感があるんだけど。あっ、あれだホー○ーランドの噛ませ役の人だこれ。まるで銃口をつきつけられてるみたいだぜ(ゴクリ てシーンの前のあれだ。ええと、身体強化は使ってないよね? もし使ってたのなら下手したら顎砕けてますよこれ。
「ほら、ハルト君」
笑顔に戻ったクロエさんが両手を広げてカモンって感じで待ってるんだけどはっきり言ってこええよ! だって横にまだ意識戻ってないカールさんとなんとか意識を戻そうとしている仲間がいるんだよ。そんな場面を見てイレーヌさんが机バンバン叩いて爆笑してるし、もうなんなのこの人。
クロエさんから発する空気が分かってるよな? みたいにしか感じない。いやカールさんみたいにアホなことしなけりゃクロエさんはそんなことしないと思うけどなんというか行かないといけないみたいな場が出来つつある。
抱き着きにいくとか普通に恥ずかしいんですけどもどうしよう。空気を無視して断るか、羞恥心を捨てて抱き着きに行くか……。でもせっかくだからあえて攻める方を選ぶぜ! 甘やかされるだけが俺じゃない。イクゾー。
クロエさんの横を素通りして後ろに回りつつ、身長差があるので魔力の壁を階段のように形成させて上り自分の顔がクロエさんの頭より高い位置に移動する。えって感じになっているクロエさんの猫耳をとりあえず撫でてみる。
めっちゃふわっふわやでほんま! うわぁなにこれすごい。ふわふわのもふもふですわ。そういえばケモ耳初めて触ったわ。あかんわ。こんなんあかんわ。似非関西弁になっちゃうくらいあかんわ。思考もふわふわしてるから感想もふわっふわだわこれ。
あ、やばい。感動しすぎて一心不乱に触ってた。今更だけど無遠慮に触りすぎた気がする。いきなり自分の耳を一心不乱に触られたら流石に不快すぎるだろ。俺だったら殴っちゃうかもしれない。結果的にカームリスペクトみたいになってるけどやばないこれ。急速に酔いがさめていき冷や汗をかきながらクロエさんの様子をうかがってみると顔を赤くして少し困っているような顔をしていた。
「こう言う所はむやみに触っちゃだめなんだからね。他の女の子にはやっちゃだめだよ?」
「アッ、ハイ」
「じゃあ、お会計も済んだみたいだし宿に戻ろうね?」
そういって先にお店からクロエさんが出ていく。予想外の反応でこちらもどう反応していいかわからないんですけども。後で謝った方がいいかな?
カールさんはまだ意識が戻らないようで二人に手足を持たれて運ばれていた。……あの運び方って大丈夫なのか? あんまり頭揺らさない方がいいんじゃ……。
「イレーヌさんも行きますよー」
「……スケベ」
ええぇ……。抱き着くよりマシじゃない? 駄目? 駄目か。
「頭いってぇ……。あとなんか顎もいてぇな」
顎が痛くて非常に喋りづらい。
「お、カール起きたか……」
「おう、もう昼か? 昨日結局どうなったんだっけか。確かあいつら酔わせて情報集めようとはしてたはずなんだが」
「お前最後の方に意識失っちまったんだよ」
「まじかよ。意識失ったってどんだけ飲んだんだよ俺」
「いや、確かにいつもより飲んではいたが倒れるほどじゃなかったんだがな」
「……? どういうことだ? 酒のせいで倒れちまったんだろ?」
「まぁ、ほぼな」
「ほぼ?」
「まぁ酒のせいだな……」
「どういうことだよ、わけわかんねぇ……」
それにしてもなんだこの顎の痛みは……。頭痛よりひでぇぞ。
いつもお読みいただきありがとうございます。
意外と待ってて頂いた人いたみたいで感謝の極みです。
本当にありがとうございます。




