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三十二話「試験、最初の村」

大変遅くなり申し訳ありません。


前回までのあらすじ


Dランク試験が始まり、”満月の森”、”魔天狼”のメンバーと港町セトノスまで護衛を行っている道中、飯が味気なかったり、”魔天狼”のメンバーがちょっとDQNっぽかったり夜にいろんなものに襲われないかと初日から割と不安だったりした

 羊の数を数えるのに飽きて魔法の改良等を考えていたらいつの間にか眠ってしまっていたようで気がついたら朝だった。

 体を起こし、テントの中を確認するが特に異常はない様だ。あるといえばクロエさんがイレーヌさんを抱き枕のように大好きホールドしてるくらい。普通そこはお約束的に俺のポジションなんじゃないだろうか……。まぁそうなるのを危惧したイレーヌさんがクロエさんと俺を端に設置したんだけども。


 イリスさんもまだ寝てるようだったが俺が体を起こした際に一度起き、安全を確認した後また寝に入った。3人を起こさないようテントを出て地面から刺さっていたナイフを抜き、落とし穴を埋めておく。

 ”満月の森”の面子もまだ起きてないようで外では”魔天狼”の3人が意外にも真面目に見張りをしている。


「おはようございます」

「おう」


 一瞬だけこちらに視線を向け、また周囲の警戒のために視線を戻す。


「見張り中に何か来ました? 僕らの時は何も来なかったんですけど」

「……でかい蜘蛛が2匹にオークが1匹来たな。もちろん俺らが瞬殺したけどな」

「オークが来たんですか。というかでかい蜘蛛ですか? 僕らの街の近くじゃ見たことないですね……」

「俺らも初見だな。素早いわ、糸吐いてくるわで苦労したぜ。ま、俺らの敵じゃなかったけどな」


 瞬殺してねーじゃん。それにしても蜘蛛かー。前世で苦手だったんだよな……。

 そういえば打ち合わせの時に毒を持つ魔物が何種類か出現するって話だったけどこいつかな。


「具体的な大きさってどんなもんだったんですか」

「あー、この先進んだ所に死体あるから直接見て来いよ」


 言われた場所にいくとだいたい全長で1メートルくらいの蜘蛛が倒れていた。

 うわぁ、キモい。こんなのが高速で動いてくるの……あまつさえ飛びかかってきたりすんの……。でかすぎない所が逆に無理。もっと大きければ発見も早いだろうけどこの大きさだと木の上に潜んでたら気づかない可能性もありそうだ。とにかくキモい。


 鑑定で見るとポイズンスパイダーの死骸と出ている。まんま毒蜘蛛ですね。解毒薬はちゃんと用意してたけど噛まれたり拘束されただけでショック死しそう。

 見つけたら速攻で遠距離魔法叩き込むことを心に誓いながら自分たちのテントに戻る。


 テントに戻るとイリスさんとイレーヌさんがもう起きていた。ただ、起きて身支度をしているイリスさんに対してイレーヌさんはまだクロエさんの抱き枕状態だ。


「おはようございます」

「おはよう、主」

「おはよ、あいつらちゃんと見張りしてたみたいね」

「ええ、さっき会話してきたんですけど途中、オークと大きい蜘蛛が出たみたいです」

「大きい蜘蛛……。ポイズンスパイダーの事かしら」

「し 知っているのか、イレーヌさん!」

「え、ええ。突然どうしたのよ」


 様式美です。


「実物は見たことないけど毒を持った蜘蛛で噛まれることで毒を注入されるみたい。毒自体はそこまで強いものじゃないみたいで毒自体で死んだりはしないけど身体能力に影響が出るからそのまま糸に拘束されてゆっくり殺されるらしいわ」


 そんな殺された方絶対に嫌だ……。


「解毒薬もすぐ効くようなものじゃないから噛まれないことを第一に考えて行動ね」

「うむ、気を付けよう。しかし良いアドバイスだったがこの状況だといまいち締まらんな」


 苦笑いするイリスさん。いまだに抱き枕状態ですもんね。


「仕方ないじゃない。力あるから私の力じゃ離せないのよ。……でもそろそろ起こした方がいいわね。この子起きるのに時間かかるから」


 クロエさんをなんとか起こし、女性陣は着替え等の身支度をするのでテントの前で待機する。

 ”満月の森”のメンバーもすでに準備は出来ているようでテントを片付け始めていた。女性陣の身支度も終わったのでこちらもテントを片付け朝食の時間となる。

 ”魔天狼”の倒したオークを調理して食べるかどうか話になったけど、ちゃんと調理できる人がいない現状不確定要素はとらない方がいいという結論に。無念。

 順番に見張りと食事をとり、その後簡単な打ち合わせをした後に出発する。昨日はほとんど魔物からの足止めが無かったため大分早く進んでいるらしく今日の深夜近くまで進み続ければ村につくとのことだったので途中で夜営することなくそのまま村に向かうこととなった。


 道中だけど、昨日はふざけていた”魔天狼”のメンバーが今日は真面目に周囲を警戒しながら進んでいる。まぁポイズンスパイダーみたいにまだ戦ったことないような魔物がまた来る可能性あるから当然だし最初からやれと言いたいけど。


 その日も日中はほとんど魔物とは遭遇せず、たまにオークを見かけたが気づかれないよう進んだり迂回したりしていたので戦闘は1回しかしなかった。しかし夕方過ぎについに奴が現れる。そう、ポイズンスパイダーである。死体だけでもキモかったが動いているとなおキモイ。遠距離から魔法で迎撃してるけど当たらずにどんどん近づいてくる。こいつら素早い上にジグザグに進んで来たり急にピョンと跳ねて方向転換してくるから遠距離魔法がほんと当て辛い。あぁ^~蜘蛛がぴょんぴょんするんじゃぁ(泣)


「遠距離だと当たりにくいみたいだしもっと近づいてから攻撃すれば?」


 イレーヌさん、アレが近づいてくるのを待てというのですか。しかし遠距離魔法が当たらないとなるとそれしかない。仕方なくナイフを抜いて構え、蜘蛛が近づいてくるのを待つ。ちらりとイリスさんの方を見るとクロエさんと2体の蜘蛛と応戦している。くそぅ、イリスさんに前衛してもらおうとしたけどダメか。標的としては小さめだから混戦してる場面だと狙いづらい、とことん嫌な敵だ。


 ああ、そんなこと思ってたらもうこんな近くまで来てるのか……。覚悟を決めてナイフを一閃する態勢で射程範囲にくるのを待つ。おおよそ3メートルという地点で全力でナイフを一閃する。しかしナイフの長さだと当然届かない、がそれでいいのだ。そもそも俺のナイフの振りはお世辞にも鋭いと言えず、もし当たったとしても致命傷を与えることはできないだろう。だが実際にナイフを振ることで斬撃を発生させるというイメージが固まりやすくなり魔法の発動と精度の上昇につながる。結果、ナイフは空振りしたもののそこから発生した風の刃で蜘蛛の胴体が両断される。


 この魔法、剣のように振るうことができれば何にでも適用できるのが利点でそれこそ木の棒や杖でも使える。ただ剣の軌道をイメージの元にしてしまっているので横に振るったら横にしかでないし遅く振ったらそよ風程度のものしか出ない。あくまで射程と威力を水増しにしているだけなので縦に振って横の風の刃を出したり遅く振って鋭い風の刃を出したりは今の所出来ない。それでも便利すぎる技だけど。



 自分に向かってきた蜘蛛は倒したがそれで安心してはいられず、他に向かってくる敵がいないか確認し周囲を見渡すとイレーヌさんが2匹の蜘蛛と戦っていた。

 助太刀しようとした瞬間、イレーヌさんが素早いステップを踏み蜘蛛の後方に回り込み俺では見えないほどの剣速で2匹とも両断した。あの速さはたぶん身体強化を使ったんだろうけどそれにしてはMPが減っていない。


「イリスさん達も倒せたみたいですね。……あの、今のって身体強化を使ってましたよね?」

「使ってたわよ。私なりに少し改良しているけどね」

「改良……ですか。もしよかったらでいいんですけども教えてもらえませんか」

「元々あんたの技なんだからもちろんいいわよ。……今のは、身体強化を一瞬だけ使ったの。私たちは身体強化を維持するのには魔力が足りなすぎるしずっと維持し続ける意味もないんじゃないかと思ってね、前々から練習してたのよ」

「維持し続ける意味が無い、ですか?」

「意味が無いわけじゃないんだけど……なんていうのかしら。例えばジャンプするときに腕を強化してもほとんど意味がないでしょ。空中にいる時だって体を強化してる意味が無いわよね。そういう無駄をなくして必要な時に必要な部位だけ強化するって感じで使っているの。ある程度自分の体の動き方を理解してないと使うのは難しいけどMPの消費量は比較にならないくらい楽になったわ」

「それって今の僕でも使えるでしょうか」

「ジャンプするとか簡単なことに対しては出来ると思うけど、武器を使って攻撃するとかだと今の所ちょっと無理だと思うわ。なんらかの武術を習得して体の動かし方のコツが解ればなんとなくどのタイミングで発動すればいいか理解できるようになるとは思うわ。でもこれってあんたみたいに魔力が多い人から見たらある意味、劣化した技みたいなものなのかもね。常に発動していれば不慮の事態に対応できるし安全性が違うもの」


 聞けば今の所ちゃんと使えるのはイレーヌさんだけでクロエさんはまだうまく使えないらしい。クロエさんは強化の使いどころはわかっているけど瞬間的に発動させるのがなかなか出来ないらしいだけで多少の無駄にはなっているが維持して使うよりはずっと少ない消費で使えてはいるとのことだ。

 ちなみにイリスさんはまだ俺の補助がないと使えない。これはまだ訓練を開始してからあまり日が経ってないからで、やはり元々魔法を使っていた家系だからなのか魔力操作の習得の速さは二人より速めだと思う。


 その後も2度ほど、ポイズンスパイダーとオークの襲撃があったが誰も負傷することなく村に着いた。すでに深夜だったのですぐにギルドから指定された宿屋に向かい体を休めることにした。この村はギルドが無く、村の守備隊で対応できないような件は近くの街から冒険者を呼ぶらしいがここ数年は実に平和で年に数回冒険者を呼ぶ程度、それも簡単な討伐依頼のみとのことらしい。


 この村では二日ほど物を卸したり、必要があれば仕入れをするとのことだったので護衛任務から外れゆっくり過ごしたり、必要なものをそろえる時間にして良いことになっている。なので明日は久々にちゃんとした食事をとって以前話していた調理器具や調味料などを買いに行くことにした。


 与えられた部屋はそれぞれのパーティに一つずつだったが、もう一度同じテント内で寝たからか特に意識せずに寝る態勢に入れた。ベッド自体はいかにも安物といった寝心地だったがそれでも野宿よりは比べることなく快適ですぐに意識がまどろんでいく。


 次の日、十分に睡眠をとってから起き午前中は全員でぼんやりしながら過ごし午後から買い物に出かけた。買い物の途中で店番をしてるおばちゃんにここら辺に生息する生き物や特産を使った簡単なレシピを教えて貰った。その中にポイズンスパイダーの足の肉を使った料理なんかもあり、淡白な味で意外と美味しいとの話だったがそんな物は絶対にNOだ。ギリギリの状況になってもそんなものは食べない、絶対にだ!


 朝と昼は宿屋で軽食しか食べていなかったので夜は村で聞いたおすすめの食事処に行くことにした。二日間、簡素な食事だったこともあってボリュームのある肉料理が食いたい。ただし、蜘蛛テメーは駄目だ。オーク肉はないようだったので適当に鹿の肉を使った料理を頼んだ。明日の昼は自分たちで作ってみようということになっているが今食べている料理までとは言わないがせめて食べられるものを作りたいものだ。


 まぁ結論からいうと普通でした。みんな普通に焦がしたり半生だったりしたけど爆発したりポイズンなクッキングになったり聖バレンチヌス様が降臨したりすることにはならなかった。レシピも単純なものだったし当然と言えば当然だけども。味も普通、半生なのは怖くて食えなかったけど可もなく不可もないって感じ。俺も前世知識でハンバーグっぽいものを作ってみたけど肉を挽肉状にするのがめちゃくちゃ大変な上にソースがないので味気ない感じになってしまった。挽肉状にするのに魔法使えばって思われるだろうけど風魔法とかをそこまで細かいことに使うのって結構難しいんだよね。そんな器用に使えるならNAR○TOゴッコとか言って魔物相手に螺旋○放ってるよ。


 夜も自分たちで作ろうかという話になったけど美味しいものが食べたいという理由で昨日の食事処に行くことに。ちょっと志低すぎる気がするけど、まぁでも明日からまた護衛始まるから多少はね?



 食事処で食べていると”満月の森”と”魔天狼”のパーティも食事をとりにきたのでそのまま打ち合わせに入り、なにか気になることはないかという話になった。


「それにしてもこの村なんかちょっとおかしくねぇか」

「……そう? 特におかしな所なんかなかったと思うけど」


 ”魔天狼”のリーダー、カールの言葉にイレーヌさんが返事を返す。


「村自体はおかしくはないんだが、村の周辺にいる魔物が少なすぎる」

「それがなに? いい事じゃない」

「そうなんだけどよ。なんか違和感があんだよな」

「関係あるかないかわからんがこの村ではここ数年、女性が行方不明になることが起こるようになったらしい」

「……魔物の被害なんてほとんどないって聞いているし人の手による仕業かしら」

「それだと魔物が少ない理由には繋がらないだろ」

「逆の可能性もあるじゃない。魔物が少ないからこそ、そういった行動がしやすくなった……とか。その場合、何故魔物の数が減ったかという疑問もあるけど単に魔物が少ない時期ってだけかもしれないし」

「そもそも本当に魔物の数が少ないんですか? 僕の村、ブロン村って言ってちょうどここから真南くらいにあるんですけどそこでもこの村と同じくらい魔物からの被害はありませんでしたよ。僕はこれくらいが普通だと思ってたんですが……」

「お前の村でも女が行方不明になることがあったのか?」

「……いや、聞いたことないですね。そんなことになれば騒ぎになるはずですけど」

「村の方でも人攫いにあって奴隷にされてしまっているのではというのが一番あり得る話となっているようで捜索依頼を各町に出しているとのことだが」

「やっぱり人為的なものじゃないかしら。ともかく私たちがここで考えても仕方ないと思うわ。明日の朝にはもうこの村を出ちゃうんだし……」


 そこでこの会話は終了し、明日に向けて解散ということになった。この時はまだ誘拐されて奴隷とかにされちゃうこともあるのか、怖いなー程度にしか思ってなかったがまさか後にあんな事態に発展しようとはつゆほどにも思っていなかった。











いつもお読み頂きありがとうございます。


仕事の区切りが未だになかなかつかず今後も投稿が遅れる可能性がありますが出来るだけ早く投稿できるように頑張ります。

誤字脱字対策にMicrosoftwordの活用をお勧めして頂いたのですがまさかのwordが入っていないという事態。


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