三十話「試験打ち合わせ」
大変遅くなってしまい申し訳ありません。
今日はDランク昇格試験のメンバー顔合わせの日だ。今回は3パーティでの試験になるとのことで護衛中の陣形や見張りの順番等を打ち合わせるとのことだ。
途中で町をいくつか経由するとはいえ一月近い護衛なのでルートや次の町への日数を考慮して平等の負担になるよう、うまく回していかないとならない。うまく回せられるかどうかも審査の基準になっているのでひとつのパーティに任せっきりになることは避けなければならない。
試験の報告は護衛対象の商人がすることになっている。これのおかげで見張りの時間を増やされたり辛い役目を押し付けたりするとすぐにバレてしまうので不条理なことになることに対して抑止力になっている。
商人に賄賂などを送り嘘の報告等をするパーティなどが現れそうなものだがここに関してはほぼ無いと言ってもいい。もし虚偽がバレてしまえばギルドからの信用を無くし、護衛依頼や冒険者の納めた素材の買取が一切できなくなり商人としての道が断たれてしまうと言ってもいい。
それに加え、今回のような護衛はあくまで試験なので護衛達成の報酬が俺たちには全くない。つまり通常は安くはない護衛料をギルドに支払らなければならない所をタダ同然でやってもらえるのだ。
これだけのメリットとデメリットを上回る金額をEランクの冒険者が払えるわけもなく、そもそも払えたとしてもバレでもしたら即登録取り消しなのでこんなことをするやつは余程のアホしかいないだろう。
なので試験で合否を決めることになるのは単に実力が足りているか、複数のパーティで護衛に対してうまく立ち回れ、余計な揉め事を起こして全体を混乱させていないかとなっている。
前者に対しては大丈夫だと思う。たぶん。なんか最近変な通り名がついてきたくらいには認知されてるし。
問題は後者なんだよなぁ……。変な奴が来ませんように……!
「パーティの一つが来たみたいね」
うわぁ、ついに来ちゃったかー。ってアレ?
「君たちも今回のDランク試験のメンバーか?」
なんか見たことある人達だ。なんて人だっけかな。
「ええ、そうよ。あなた確か……クルトと言ったかしら」
ああ、そうだ。確か”満月の森”とかいうパーティだったっけ。……自分たちで名前考えたんだろうか。
「名前を覚えて貰っているとは光栄だな。”満月の森”のリーダーをやらせてもらっているクルトだ。今回はよろしく頼む」
「こちらこそ、よろしく頼むわ。私はイレーヌ、隣りにいるのがクロエで・・・」
「ああ、君たちは有名だからな。紹介してくれなくても大丈夫だ」
なんかすごい良い人そうじゃん!長身で茶髪で二枚目な感じの人だ。
クルトさん達も4人でパーティを組んでいて今年で冒険者登録して6年目とのことだ。ちなみに全員男である。
メンバーは同じ村に住んでた幼馴染で成人してから冒険者として活動し始めたとのこと。
なんでも普段は自分の村の畑仕事を手伝っていてやることがなくなった時に冒険者として活動しているらしい。
「冒険者にしては物腰が柔らかいな……。まだ分からないが思ったよりはスムーズに進みそうだな、主」
イリスさんが小声で話しかけてくる。
確かに幸先不安だったけどなんか全然いけそうな感じになってきた。そもそもこの街、柄は悪いけどそんな態度に問題がある人はいないもんな。問題があるレベルで態度が悪い人達はギルドで厳しく指導されるし、そんな人だとそもそもGランクでの下積みで諦めるからな。なんだ全然いけそうじゃん!
「そういえば、もう一組はこの街の冒険者じゃないらしいな」
おうふ。マジですかクルトさん。
「この辺りでここ以外にも冒険者ギルドってあるんですか?」
「そりゃあるわよ。どこだって魔物からの被害の可能性はあるんだから。少し大きい程度の村ならあるわね。小さい村にはないけど必ず数日でいける距離にギルドのある村や街があるように配慮されているわ」
それもそうか。自分の村とこの街しか知らないからか視野が狭すぎる。しかしイレーヌさんは意外となんでも知っている気がするな。
「あら、あなた達も来ていたのね。もう挨拶も済ませたのかしら」
「こんにちわ、ユリアさん。先ほど済ませたわ」
「もう一つのパーティも着いていて別室で待っているから今から案内するわね」
ユリアさんについていくと会議用なのか長い机のある部屋に案内された。そこには3人の男がすでに居てだらしなく椅子に座っている。結構若そうな感じの3人で早くもこちらを値踏みするような目で見ている。
部屋に入りクルトさん達と一緒に3人に挨拶をする。
「今回、君たちと一緒にDランク試験を受ける”満月の森”のリーダーをしているクルトだ。よろしく頼む」
「同じくDランク試験を受けるイレーヌよ。他のメンバーは右からクロエ、ハルト、イリスよ」
3人は最初驚いた顔をしてから嘲笑の顔を見合わせる。
「”満月の森”さんはともかくよ、そっちのやつらはなんだ? 女子供じゃねぇか。そんな奴らがDランク試験を受けるなんざ、この街のギルドはよっほど優秀な奴がいないみたいだな。でかいだけかよ」
「……性別は関係ないと思うが? それに見た目で判断しない方がいい。この子は見た目は子供だがこの街では”首狩り”と言われていて知らない者がいないほどの実力だ」
首狩りってひどくない? 確かに人型の魔物を倒すときはだいたい風魔法で首を飛ばして倒してるけどさ。だって分かりやすく即死するし血も抜けるしで便利じゃん。
「それはこの街のレベルが低いだけだろ? そもそもあんた達の実力だって怪しいもんだ。登録してから何年目なんだ?」
「……6年目だが」
「6年! 聞いたかよ、6年だってよ!」
3人は向き合ってゲタゲタ笑い出す。
「それで、6年でやっとDランクを受ける”満月の森”さんが実力のあるって言うお前たちは何年目なんだ?」
「私とクロエは2年目よ。こいつはまだ1年目だけどね!」
「……なんだそりゃあ、俺たちだって3年近くかかってるっていうのに1年だと? ここのギルドはレベルも低い上に審査も甘いのかよ」
「……ギルド側として言わせてもらいますが当ギルドの基準は他のギルドに対して甘くしてはおりません。特に冒険者への素行の教育に対してはここら一帯で一番と自負があります」
あれ、ユリアさんキレてない? 滅多にしない怒り顔をしていらっしゃる。そして私の横にも殺気を放つ方が二人ほど。わかりやすく怒っているイレーヌさんと表情は変わらないが密かに殺気を放っているクロエさん。とりあえずイレーヌさんは右手をいつでも剣を抜けるように構えるのをやめて下さい。流石に我慢してくれるだろうけど怖いです。イリスさんは怒ってはいないし殺気も放ってはいないが好戦的な笑みをしている。
これ試験厳しくない? というかもうすでに無理な感じがヤバイんですけど。とりあえずこの空気をどうかしたい。……けど、なんて言えば場が収まるか全然思いつかない。とりあえず正論っぽいこと言ってみよう。
「とりあえず、打ち合わせしませんか? もうこのメンバーで決まっているのですからここでグダグダ言ってもしょうがないでしょう。ギルドに言って変えてもらえるならそれが一番なんでしょうけど無理でしょうし」
「それは無理ね。そんなことをしたら試験の意味がないわ」
「ギルドの方もこういっていますし、今回は運が無かったと思ってやるしかないでしょう。お互いに」
なぜかちょっと煽ってしまった。だってあいつら見た目とか前世のDQNみたいで色々と言われてちょっとムカッとしたし…。俺の一言に一瞬怒りを顔に見せたがギルド員の目もあるしこれ以上もめるのはマズイと判断したのか、苛立った表情で打ち合わせに加わる。
気まずい雰囲気の中、なにか無茶を言われるかと思ったがそんなことはなく普通に打ち合わせが進んでいく。まぁ分担が偏ると試験の評価に関わってくるし、そこら辺はちゃんとわかっているのだろう。というかそれが分かるなら最初から煽ってこないでくださいよ。それとも何か高度な心理戦だったんだろうか。
その後打ち合わせが終わり、解散となった。
「今回の試験、大変そうだがお互い頑張っていこう」
「ええ、よろしく頼むわ。私たちは良好な関係でいられると信じているわ」
「交友も兼ねてこの後、食事でもどうだろうか」
「……ナンパなら悪いけどお断りよ」
「勘違いをして貰っては困る。俺たちは全員、妻帯者で嫁一筋だ」
全員リア充かよ! 爆発しろ!
「……まぁ今後はどうせ試験で一緒にご飯食べるようになるだろうし、別に問題ないかしら。みんなも
それでいい?」
「私は問題ないわよぉ」
「僕も大丈夫です」
「私は主の行く所についていくだけだ」
「問題ないみたいね。場所はこっちが決めていい? 私たちが泊まっている宿の食堂なんだけど」
「ああ、了解だ」
「親父さん、8名だけど大丈夫?」
「おお、大丈夫だがずいぶん大人数だな。お前らが誰かと食事をとるのは珍しいな」
「今度、Dランクの試験受けるでしょ? そのメンバーなのよ」
「じゃあ、遠征の前に美味い物くってもらわねェとな。まぁいつも通りオーク料理なんだが」
「えー、またオーク料理? たまには別の物が食べたいわ」
「お前らが余るほど持ってくるせいだろうが」
「定期的に仕入れてくれっていったの親父さんじゃない。それに最近はほとんどギルドに買い取ってもらってるし」
「それでも多いんだよ……。お前ら最近、持ちきれない分が勿体無いとか言ってリヤカー引きながら依頼行ってるそうじゃないか。そのせいでギルドにも供給過多になりつつあるそうだぞ」
あれいっぱい運べるし、筋力のトレーニングにもなるしでめっちゃ便利なんだよね。そのせいで最近”運び屋”とか言われてるけど。
「君らがオークを狩りすぎたおかげで最近、オークの姿をあまり見ないんだ。治安としてはいい事なんだが、同じ冒険者としては苦笑いをせざるを得ないな」
そうクルトさんがぼやく。
「じゃあ、調理にとりかかるから飲み物でも飲みながら待っててくれ」
オイゲンさんがエールとジュースを持ってきたので自分の分を冷やす。
「飲み物、冷やせますけど皆さんどうしますか」
「頼むわ!」
「私のもー」
「今日は常温の気分なので遠慮しよう」
「ほう、噂の冷えた飲み物か。せっかくだ、私たちの分もお願いしよう」
「では、今後の試験の成功を祈って。乾杯!」
木製のジョッキを合わせてから中身をあおる。
「ふむ、冷やすとまた違った味わいだな。この喉越しが癖になりそうだ」
エールは意外と冷やす派と常温派に分かれていてイレーヌさんとクロエさんは断然冷やす派でイリスさんはどっちでもいける派、ギルさん達は常温派だった。
「そういえば結婚していらっしゃるそうですけど、ご家族はこっちに住んでいるんですか?」
「いや、村の方だな。レオやマルクスはこっちで嫁さんを作ったが俺とトーマスは村の娘と結婚したんだ」
「もしかして幼馴染ってやつかしら!」
「ま、まぁそうなるな」
なんだろう。イレーヌさんが食いついてきた。年頃だしやっぱそういうのに興味あるのかな。レオさんとマルクスさんトーマスさんというのはクルトさんのパーティメンバーでクルトさんとレオさんは剣、マルクスさんは槍、トーマスさんは斧を使うらしい。
「どっちから結婚を申し込んだの?」
「俺からだな。告白は向こうからだったが」
「へぇー、いいわね。少し憧れるわ」
「……だが君たちは、その、アレなんだろう。ハルト君とその…なんだ…あれだろう」
「ちっ、ちがうわよ!私達は……っ! す、少なくとも私は違うわ!」
なぜクロエさんをチラッと見て言い直すんですかね。
「だが、色々と噂がな……。それに住んでいる宿も一緒だと言うし」
「あくまでその方がパーティとして都合がいいからよ! パーティとしてね!」
「クルトさん、本当に僕たちはそういった関係じゃないんです。あれはあくまで噂でして」
「そうよ! ただの噂で事実なんてないわ!」
イレーヌさん顔真っ赤すぎィ。とりあえず話題変えよう。
「もう子供とかいるんですか?」
「ああ、いるぞ。可愛い女の子でな、まだ2歳なんだがこっちにいることも多くてあまり構ってやれていないんだ。そのせいか俺より親父に懐いてしまって俺が抱こうとすると泣きそうな顔になるんだ。……まぁそこも可愛い所なんだが」
あかん、これも長くなるやつだ。なんだかここの親父と近い匂いを感じる。
「そ、そういえばDランクの試験は護衛ですけどCランクの試験はどんなことをするんでしょうね」
「なんだ、気が早いな。……Cランクの試験はまずBランクの冒険者と手合わせをして実力が認められた後、ギルド指定の依頼を完遂することでなるとは聞いているが依頼の内容まではわからんな」
「へぇ。……ギルさん達大丈夫かな」
「彼らか、彼らなら大丈夫だろう。漆黒もいるしな」
「漆黒ですか?」
「ああ、彼らは最近まで3人でパーティを組んでいたんだがいつの間にか4人メンバーになっていたらしい。その増えたメンバーが漆黒という者だ。なんでも全身黒ずくめでいつの間にか居て、いつの間にか居なくなるらしく、服装ぐらいしか情報が出回ってないんだ」
「……へぇ」
「初出の情報は、王都でとある貴族の令嬢が誘拐された事件らしいんだが、いち早く情報を集め犯人の根城を割り出して仲間と共に侵入していたとの話だ。相手もいつの間に侵入されたかもわからず、気づけば組織のボスを拘束され令嬢を救い出されていたらしい。身にまとっていた服装と使っていた武器が黒いことから漆黒と呼ばれているんだ」
……すごい心当たりがあるんですが。あの人なんなの? 忍者より忍者しすぎだろ。
「その功績があったから今回Cランク試験の話が出てきたみたいだな。もちろんこれまでの功績も評価されてだが」
今回のCランク試験にはそんな裏話があったのか……。なんだか俺がなんとなく教えてしまったことが予想外の出来事を起こしてる気がするけどこれからギルさん達大丈夫かな。漆黒の正体を暴こうと変な奴に狙われたりしないだろうか……。
ま、まぁとりあえず今は自分のことだな! 今日の段階だとDランク試験は不安しか感じないけど頑張るぞい!
いつもお読み頂きありがとうございます。
現状頑張って書いておりますがいかんせん時間が足りない感じです。
最低でも週1投稿を目指します。