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炯眼のリアン  作者: 霧雨
第一章 黒の少年
8/40

8エレメントとLEAP

『エレメント』

物、最近では生き物に憑いた例も見られ、憑かれたものは自然ではありえない能力を発揮する。


何らかの武器に憑いたとして、タイプは3つ。


Α(アルファ)

いわゆる変形型。宿ったその物自身をなんらかに変化させる。


Β(ベータ)

生産型。宿った物の中、あるいは表面付近で何かを生産。それは自在に遠隔操作することが出来るが、生産には所持者のエネルギーを使う。


Γ(ガンマ)

操作型。その物を持つ所持者は『周りにあるもの』を自在に操ることが出来る。



そして、全てのタイプにおいて大切なことが2つ。


一つは“想像力”。

何に変えたいのか、何を作りたいのか、何をどう動かしたいのか。全ては所持者の意思によって決まる。

その“想像力”が最も必要になるのはΓ(ガンマ)だ。物を直接変化させたり、自分で一から作るのと違い、周りのものをうまく利用するには絶対的な集中力が必要になる。


そしてもう一つは、『エレメント』との“親密度”。

生き物でないものと親密関係などおかしな話だが、いかに自分の意思を的確に伝えられるかが重要なのだ。


“想像力”と“親密度”。


それが力の大きさに密接に関係する。






「すみません。何年も前の話なので、これくらいしか覚えてないです。もっといろいろ聞いた気もするんですけど」


俯いて聞いていたカールが静かに首を横に振る。

リアンが知っていることを話そうと提案した時、猛烈な勢いでお礼を言ってからは、話し終わるまで静かにただただ耳を傾けていた。


しばらく押し黙っていたが、ある程度頭の中で整理がつくと深いため息をついた。


「……なるほど、うん」


それから、カール達が考えていた『エレメント』についてもリアンに話した。


「ここでの考え方の一つだ。一応頭に入れておいてくれ」



様々なデータから、力を五属性に分けている。

【火】、【水】、【風】、【土】、【木】。特に深い意味など無く、見れば分かる。


そしてエレメントとの“親密度”と似たような考えはあった。それはどちらかというと“愛情”に近い考えだったらしい。自分の武器に名前を付けていたのがその例だ。人は自分で名付けたものには他のものより愛情を持つものだそうだ。子供、ペット、所持品、作品にいたってもそうだろう。『名』というのは、大きなキーポイントになる。





「それにしても、一体君の師匠は何者なんだろうね?」

「なんなんでしょうね」


淡々と返したものの、リアンは落ち込んでいるようにも見えた。唯一の家族のような存在が急に消えてしまっては無理もないとおもうが、他にも想像できないほどのものを抱えているのかもしれない。そう思わせる重たい雰囲気があった。


手をとると、リアンは目を見開いてカールを見た。


「本当に、話してくれてありがとう。とても大きな情報だ。感謝する」


リアンは両親を知らない。だが、こんな人が父親ならいいと素直に思った。

カールが深く頭を下げ、再び頭を上げたときには真剣な顔つきは消え、誰かと似たようにへらへらと笑って頭の後ろで手を組む。


「やることがたくさんありそうだなぁ。おーーい、うぃーず君?」


扉に向かってそう呼び掛けると、ぱっと開いてウィズが顔を覗かせた。眼を一度パチクリとさせると、ニヘラと笑ってヒラヒラと手を振る。


「やっほーリアン。昨日ぶりー、元気?カール、いつから気が付いてたの?」

「最初からだよー。ほら、僕やることできたから、あとお願いね」

「はいはーい」


軽やかに部屋に入ってきたウィズと入れ替わりに、カールが立ち上がる。

見上げると、優しく笑ってまたリアンの頭を撫でた。


「リアン君。僕は君に、ここにいてもらいたい。君に力を貸してもらいたいというのもあるが、ただ気に入ってね。でもまだここのことも知らないだろうし、これは君が決めることだ。少し考えてくれないかな?ゆっくりしていってくれ」


パタン、と扉が閉まる音が響いた。

カールが部屋を出ると、残されたのはウィズとリアンだけだ。少しの沈黙の後、ウィズが頬に手を当てて、もじもじしながら上目遣いでリアンを見た。


「二人っきり……ドキドキする?」

「しない」

「あら?残念ー」


そこにはあの夜と同じ、いたずらっ子の笑顔があった。だいたい狼達に囲まれたのはこいつのせいもあるし、俺が倒れたのだってこいつのせい……と思うも、本当に嫌いにはなれない。不思議な奴だ。


「今何時?」

「もう昼だよ。結構寝てたねー」


悪びれもせずに笑って、カールの座っていた椅子を引きずってきた。その上にあぐらをかいて座る。


「カール、どうだった?」

「……どうだったって?」

「見てて面白くない?」


それは思った。あの強面の顔と体に似合わない温和な性格。

必死な時はメンチ切っているようにしか見えなかった。とここでもリアンは自分のことを棚に上げている。


「あれで人見知りなんだよ?ありえなくない?」

「確かに」

「おーーーい」


ビクゥッ


いきなりの声に二人してそーっと振り向くと、カールがいた。先程のウィズと同じように扉を少し開いて顔だけ覗かせ、満面の笑みで二人を見ている。

だから、脅迫している人にしか見えないんだってば。


「ウィズ君?くれぐれも不用意な発言はしないようにね?」

「はぁーい」

「よろしい。ではリアン君、ごゆっくり」


バタン。


「「…………ふぅ」」


普段のしゃべり方があぁだからか、こういう時になると迫力が増して見える。本人としては普通に語りかけているだけだなんて、誰にも理解してもらえない。



カールは状況報告をするために連絡室へ向かった。


一応あの呑気なウィズに釘を指しておこうと戻って部屋を出てから、カールは先程の話を思い返していた。リアンのエレメントについての話は、既に案としては出されていたものだ。ただ分別が一目見ただけでは難しく曖昧なものであったために見送られていた。これがきっかけに正式に採用されるだろう。しかしこの考えを6年前に持っていた師匠とは一体……このことはまだ知らせないでおこう。


そして全て踏まえると、『あの現象』について説明ができなくもない。



昨晩、倒れた二人を運んでリアンを部屋へ寝かせるまでは特に問題は起こらなかった。それはベッドへ寝かせて手を離した瞬間のことだ。

何か壁のようなものがリアンから向かってきて、カールは部屋の隅にまで押しやられたのだ。それは質は違うように思われるものの、ウィズの『風の防護壁』にそっくりだった。よく見ると、上掛けの下にある剣が青白く光っていた。


その場に居たのがカールだけだからよかったものの、他の人がいたら大事になっていたかもしれない。リアンが『害』としてみなされる可能性もあった。しかしカールは、誰にも言わなかったしまだ言うつもりも無い。何故か。

単にリアンに興味を持ったからだ。この子は面白い、と思った。だから誰にも、本部にも奪われたくなかった。


リアンがウィズの防護壁に似た技を知っていたというのはのは考えにくい。ウィズから技について聞かれたと聞いている。何より驚いたのは、意識が無い状態にもかかわらずエレメントが発動したということだ。


たださっきの話を踏まえて考えてみよう。


リアンの記憶として今日初めて見た光景、つまり今はウィズの防護壁が人並み超えた“想像力”と共に思い出されているのだとしたら?

意識がなくても繋がっている“親密度”、それに剣が応えているのだとしたら?


「……ははっ」


ただの想像だ。が、説明はいくのではないだろうか。


「まぁ細かいことはね、いいでしょ。うん。」


これはあくまでカールの推測。妄想の域だ。毎晩あぁなるのだとしたら本当に大変だが、とりあえず今は様子見だろう。


何故かこの時、カールはリアンがここに居座ることに確信を持っていたのだ。


(じっくりゆっくり、行こうじゃないか)





ウィズは堂々とお腹を鳴らした。さすりながらリアンに提案する。


「リアン、せっかくだからご飯食べに行かない?」

「外に?」

「いいや、(うち)の中に食堂があるんだよ。アイリークの作るご飯はまじで絶品……」

「よし、行こう」


アイリークとやらが誰か知らないが、美味しいご飯と聞いて一気に空腹感が襲ってきた。朝を抜いているし、かなり期待してしまう。


部屋を出ると、リアンは目前に広がる光景に目を疑った。


家だと?これが?そう思えるほど大きな空間。廊下の手すりに手を掛けて下を見ると突抜になっていて、下には何もない敷地が広がっている。何をする場所なのだろうか。円柱に掘られた場所のようで、淵には廊下が円を描き、無数の扉が並んでいる。どこにも窓が無いことに納得がいった。向かいの部屋まではかなり距離がある。ちなみにここは三階。最上階である。


「下は訓練場だよ」


ウィズも手すりに体重を預け、下を覗きこんだ。そのままお腹でバランスをとり、ぶらーんと足を浮かせている。押せば落っこちそうだ。


「今は誰もいないみたいだね。やっぱ昼時だからかなー。僕らも早く行こう」


ウィズとリアンは並んで廊下を進むが、この広い空間で誰ともすれ違わない。これも昼時の影響なんだろうか。


そして歩いていると、何の拍子かふと『クレイドル』の名を思い出した。


「ウィズとカールは親子なのか?」

「んー、どうなんだろ……まあ親子かな!血は繋がってないけどね」


一瞬間があった。その裏になにがあるのか分からないが、親子だと言ったウィズの顔は嬉しそうだった。頭の後ろで手を組みながら、リアンに笑いかける。


「というか、ここにいるのは皆家族なんだよ。それが『LEAP』。」

「りーぷ?」

「そう。この場所の、僕らの名前」


そう言うと、長い長い廊下を歩きながらウィズは独りでに話し始めた。




初めはカールとあと二人、その三人で始まった小さな活動だったらしい。


『エレメント』というのは数十年前突如現れた。最初は妙な力を持った武器として。生き物に憑き出したのはもっと最近のことだ。


エレメント武器を悪用する輩が出てきて数々の問題が起こり、『エレメント』の存在が世間で認められるも謎の多いそれを解決しようとする者はいない。誰もどうしていいか分からないからだ。そこでカール含む三人がエレメントを自ら手にし、戦った。


その過程では助けてくれる人がいた。出会い、知り、仲間となってくれる人もいた。しかし問題解決の際、犠牲者が出ることは避けられない。それを批判する人もいる。

それでも辛抱強く活動していると信頼も得られた。今まで放置されてきた問題も、情報が寄せられるようになり、カールは膨大な量のそれにかける手間を惜しまなかった。今では一つの大きな組織になったらしい。




「ほら、あの人お人好しだからさ」


確かに、知らない相手を自分の家へ運び、寝かせ、一晩中側に居てやるほどのお人好しだ。リアンはスースーと寝息をたてて椅子に座るカールの姿を思い出して、ふっと笑った。


「『LEAP』はチームで、仲間で、家で、家族なんだよ」


ウィズはここのことを誇ると同時に、大好きだ。それははっきりとリアンにも伝わった。


「だからリアンがここにいてくれれば、嬉しいんだけど」

「……なんで」

「何で?うぅーん……だって、リアンのこと好きだしね!それが理由じゃダメなの?」


あまりに率直な言葉に、気まずそうにリアンは顔を背けた。決して不機嫌になったわけではない。こういうのにどう反応したらいいか分からないのだ。


「それに……」


くすくすと笑い声が聞こえ、ウィズを見ると、またいたずらっ子の笑顔で爽やかに言った。


「リアンとジルの言い争いって面白いんだよー。低レベルでぇんふっ!」


ジルという名を聞き、思いっきり後ろからラリアットをきめた。一瞬しまったと思うも、昨晩ジルに跳び蹴りされても大丈夫だったのだ。うずくまるウィズを無視してスタスタと歩き出した。


(大事なことを忘れてた)


苛立ち眉を寄せる。ここにはあいつがいるんだった。もちろんここに住まないかというカールやウィズの誘いは嬉しい。森に一人で住むというのは進んで選んだことではない。しかしここに住むということは、ジルと同居するということ。この広い空間でも会うときには会う。そう考えただけで嫌になる。


「うぅー、りあーん」

「なに」


不機嫌丸出しで振り替えると、離れたところに涙目で首の後ろをさするウィズが廊下の手すりの方を指差していた。


「食堂こっちだけどー?」

「…………」









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