3炎の剣
爛々と光る黄色の瞳。そして灰色、いや、こちらもいやに輝く銀色の短髪。
いきなり斬りかかって来た男は暗闇の中でも存在感を放っていた。獣のように鋭い眼は敵対心丸出しで黒髪の男を睨み付けている。
互いに剣を押し返し、一度距離を取った。
黄色い眼が動くと、それを見て影も動く。影が動くと、その気配を感じて銀髪が揺れる。互いに互いの様子を伺い、しばしの時が過ぎた。
銀髪の男の武器は剣だ。しかし黒髪の男の細いものとは違い、大きく幅のある両刃の剣。かすかな月光を反射している。
―――いちいち存在がうるさい。
一方、銀髪の男も黒髪の男に感想を持っていた。
―――全部が陰気臭ぇ野郎だ。
少し前の空気の振るえと言い、上空を漂っていた葉を乗せた風とそこに倒れる狼の傷を照らし合わせてみても、ここでこいつとやり合っていたのは明らかだ。そしてこいつが『エレメント』を持っているのも……しかし。
「何をして来ようが関係ねぇ」
銀髪の男は低く構えた姿勢のまま、剣を持った両手をだらんと脱力させた。
「殃牙ぁっ!」
そう叫んだ途端、剣から炎が吹き出す。黒髪の男はその様子に目を見張った。爆発したように燃え上がりすっと小さくなったかと思うと、炎が刀身を包み込んでいた。その光は辺り一帯をこうこうと照らし出す。
その剣で再び、銀髪の男が斬りかかった。黒髪の男は素早く反応し、多少の火傷覚悟で正確に首を狙って来た横振りの剣を受け止めようとする。
しかし、出来なかった。自分の黒剣が炎の剣をすり抜けたのだ。それを間近で見てとっさに仰け反る。間髪居れずに炎が目の前を通り、前髪の先が焦げるのを見た。首筋を冷や汗が伝う。
さらに回転しながら、跳びながら、次々と炎の斬劇が繰り出される。野生動物を思わせる軽やかな身のこなし。黒髪の男はギリギリのところもあったが、それらを全て避けてみせた。
Α(アルファ)か、と黒髪の男は内心呟く。
最初の一撃には驚愕の色を見せたが、既に元の無に近い表情に戻っている。
避けるだけ、しかし確実に避けてくる男に苛立ちを感じていたが、ある斬撃を機に猛スピードで斬りかかってきた。
真っ直ぐ突き出された剣を伏せて避ける。
そこからは防御のない殴り合い、ならぬ斬りあいだった。
炎の剣は防御されない代わりに防御出来ない。それを把握した黒髪の男は五分五分の状況で戦うことに迷わなかったのだ。
銀髪の男は少々疑問というか、不満を抱いていた。先ほどの竜巻のように剣の能力を、『エレメント』を使わないのかと。事実、今自分は使っている状態だ。その能力的に相手を不利にするものではないが、自分をただの人間だと思って遠慮しているのならこの上なく気分が悪い。
しかしそんな感情はすぐに吹き飛んだ。黒い長髪の間に覗く眼に、確かな殺意が見られたからだ。
それならば問題ない。自分も本気で殺れる。
相手の剣を避けつつ、一瞬の隙を突こうと神経を尖らせる。いつの間にか両者、至るところに切り傷、火傷の跡があるものの、どれもうまく致命傷は避けられている。戦いは一向に終わる気配がしなかった。
どちらにも全く退く気は無く、ただ少しでも優位に立ち相手を追い詰めることだけを考え、動きを止めることなく剣を振り続ける。
両者の頭にはもう『何故戦っているのか』と言う問い掛けは無い。
あるのはただ、『今俺の目の前にいる奴が気に入らない』と言う感情だけだ。
「おーい、なにしてるのー?」
その場に似つかわしくない呑気な声が聞こえた。その声に向かって叫ぶ。
出てきた言葉は戦闘に巻き込まれる可能性のある三人目を心配するものではなかった。
「「邪魔するな(すんな)!」」
声が重なり、黒髪の男と銀髪の男は互いの顔を間近にして眉間に皺を寄せ、頬をひきつらせる。
「「あぁ?」」