白い森
辺りは一面真っ白だった。
この世界に残っているのは二人だけだった。
男の子と女の子。
二人はいつの間にかそこにいて。いつからそこに居るのか覚えては居なかった。
「真っ白だね」
「そうだね」
「ここはどこだろう」
二人は森の中に居た。
大きな大きな森は、小さな二人を覆い隠すように生い茂っていた。
空は灰色で、陽の光が差すことはなかった。
ここは、一日中明るくないけれど、暗くもならない。
ただただ、同じ時間が流れている。
見渡す限りの森と女の子と男の子。
終わりを待っている世界。
それが、ここだった。
ほかの生き物はもう全部いなくなってしまった。
死んでしまったのか、消えてしまったのか。それは誰にもわからなかった。
残っているのが全てなのだから、昔のことは、もう関係なかった。
二人は、一日中一緒にいた。
手を繋いで、世界の終わりを待っていた。
世界が終われば二人は居なくなってしまうけど、ここではない、もっと広くて、もっと楽しい場所でまた会えると信じていた。
だから終わりを待っていた。
長い、長いあいだ……。
どれほどたっただろう。
それは、いきなりだった。
すっ、と今まで森に立ち込めていた霧が晴れた。
一本の光が二人に向かって伸びていた。
二人は手を繋いで、その光の下へと向かった。
光の根元には、黄金色に光った鍵があった。
鍵を手に取った二人の心に、ほのかな明かりが燈った。
やがて鍵の光は二人を包み込んで、空へと昇った。
「死亡、確認しました」
「こちらも、同じく。死亡確認しました」
二人の医師が、男の子と女の子の親に、そう告げた。
「こんなことも、あるんですね」
「そうですね、二人同時になんて」
二人の顔は笑顔に満ちていて、まるで寝ているように穏やかだった。
きっと、今でも二人は幸せに暮らしているだろう。
たくさんの幸せに囲まれて。
終わり。