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Episode 7. 或る書店の出来事

実はお客さんの観察が、趣味なんだよな。

別にどうって事もないんだけど、色んな人がいて面白い。

思わぬ事で、ちょっとしたドラマが起こったりしてね、

さて、今日もそれを励みにもう少しがんばろう。

「店長、明日の新刊のPOPこんなのでいいですか?」

バイトの木嶋さんがピンクの紙切れを持って寄ってきた。

明日発売の小説の、宣伝用POPが出来たらしい。

デザインの専門学校に通っているという理由で、毎回彼女にこの大役を任せている。

こういうものは、センスのある人に任せた方がいい。

今回出来上がったそれも、かわいらしく目立つ文字で、帯の宣伝文句が並び、

内容に微妙に触れた簡潔な宣伝文が、やや小さめのきれいな文字で並んでいる。

その文章を考えたのは自分なのだが。

「うん、いいんじゃない? よく目立つし、かわいくて本と並べてもいい感じの色だし。」

「やった、じゃぁそっち置いといて下さい。」

俺は、客への応対が無い間、レジの奥で明日出す本の準備をしていた。

手元の本を眺めながら口を開く。

「ああ、店終わったらここの本と一緒に並べなきゃな。」

「はーい、がんばります。」

閉店後も、色々と忙しい。


「すみません。」

おっとお客さんだ。

ショートヘアに、明るい色の眼鏡の長身の女性が、

1冊の文庫本を裏向きに置いた。

「いらっしゃいませ、お預かりします。カバーはどうされますか?」

「あ、お願いします。」

客の要望に応え、店の広告でもある紙製のカバーをかける。

BL…か、確かにカバーかけたいかもしれないな、

そんな考えはおくびにも出さず、笑顔で輪ゴムで留めた商品をカウンターに置く。

代金を受け取り、お釣りを返したら。

はい、一丁上がり。

「ありがとうございました。」


「いらっしゃいませ。」

次のお客さんは、お得意様だな。

Tシャツの上に、チェックのシャツを羽織り、黒いリュックの男性。

まだ大学生くらいだろう。

毎月1~2回、新刊のコミックスを数冊まとめて買って行く。

彼の家は漫画本だらけだろうな。

・・・あるいはどれだけ古本屋に流れているんだろうか?


「すみません、これお願いします。」

「いらっしゃいませ」

お次は、ローカル雑誌を1冊。

カジュアルなワンピースにジャケットを羽織った、勝ち気そうな女性だ。

何か良い事あったのかな?楽しそうな感じだ。

「あっ」

チャリンチャリンチャリン

しまった、お釣りを渡すのを失敗してカウンターにこぼれ落ちる。

「すみません、大丈夫ですか?」

カウンターの上で、とっさに抑えたものの、一枚逃してしまった。

硬質な高い音を立てて床に落ち、転がって行く。

後ろにいた会社帰りらしい、スーツ姿の男性が拾う。

「ありがとうございます…」

「いえ、いえ、はいどうぞ。」

少し顔を赤らめて、礼を述べる女性に、笑顔で100円玉を渡す男性。

ミスしてしまったが、叱責もなく丸く収まりホッとした。

いやいや、観察に意識が行きすぎていた・・・反省反省。

お次は拾ってくれた男性だ。

「ありがとうございました。」

小銭を拾って頂いた事に対して、まずは感謝を述べる。

彼はくすぐったそうな顔で謙遜する。

「お預かりします。」

今日発売の新刊『黄昏の騎士団』の15巻。

これはお薦めですよ。

固定ファンだろうから、俺が薦めるまでもないんだろうけど、

同士を見つけた気分で、少し嬉しくなる。

「丁度ですね、ありがとうございました。」


次の客がいなかった事もあり、男性を何となく目で追いかけた。

出入口に先ほどの女性が待っていて、出てきた男性に頭を下げていた。

しばらく話をした後、二人連れ立ってどこかに向かって行く。

「店長、どしたんですか?」

木嶋さんに声をかけられて、はっとした。

「あぁ、ちょっと面白いなって思ってね。」

「外に何かあるんですか?」

弾む声で、どこか期待した顔を外に向けるものの、既に二人はもういない。

「袖摺り合うも多少の縁って言葉を実感してたんだ。」

「はい?」

何の事だか分からないといった面持ちで聞き返してくる。

別にそれでいい。

この先の事は、俺には分からない。

それでいい、詮索するのは野暮だ。

俺は、そう思っている。


読んで下さった皆様、ありがとうございました。


さて、如何だったでしょうか?

これで完結です。


元々頭にあったのは、5、6、7の3本だったのですが、

そこに4と、1,3を加え、さらに2を追加してみました。

登場人物1話目に出てきた1名を除いて、それぞれ2つの話に登場してます。

「オムニバスで書いてみよう!」

という単純な動機で始めたのですが、書いてて楽しかったです。


6話の男性の母の言葉が広島弁なのは、私が広島の人だからです。

余所の方言出しても、私がわからないって事で(^^;


次はいくつか書きかけの物があるのですが、もう少しかかるので、

間が開きそうです。

出来上がったら、毎日更新なんですが・・・

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