Episode 6. 或る男の事情
ちょっと待て、突然どういう事だ?
電話は着信拒否? メールを送っても、何も返って来ない。
こないだ会った時は、そんな素振り全く無かっただろ?
もー勘弁してくれ、自分のどこが悪かったのか情けない気分でいっぱいになった。
あーもう、俺何かしたか?
週末デートに誘う気だったのに、昼に来たメールには、
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From こずえ
Sb (non title)
私達もう終わりにしましょう。
私もう疲れたの、
あなたに合う良い人見つけてね、
部屋に置いてた荷物は
勝手に持ってくから気にしないで。
さよなら。
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この後、返信しても返事は無し、電話しても出もしねえ、
つーか、何が疲れただ? 不満があるならその都度言えっつーの。
理由も分からず、引き止めるための話しも出来ず。
…1年付き合った彼女に一方的に振られた。
飲みながら愚痴りたいところだが、
・・・こんな時に限って、同僚も友人も捕まりゃしない。
仕事を終わらせ、会社を出た所で携帯が鳴った。
期待して急いで開いてみたものの、表示された名前は『実家』。
想像のつく用件にゲンナリする。
話をしなくても分かってる。
30前の独身なら皆経験する事だろう?
鳴り止まないそれに、観念して不承不承通話ボタンを押す。
「あー出た出た、稔元気にしとんね?
あんた全然電話くれんけえ、最近どうしよん?
前言うとった彼女はどうなん?
前田さんとこの昭之くん結婚したらしいよ、
高野さんとこも年賀状きとったよね?
稔聞いとんの?
ちったあ返事しんさい。」
「…聞こえてるよ、母さんが一人で喋ってるからだろ?」
終始こんな調子でまくし立てられ、
言いたい事が終わると「はよ孫見せてよ?」そう締めくくって切れた。
溜め息しか出ない。言われなくてもそんな事、自分が一番よーく分かってんだよ。
仕方ねーだろ、また縁がなかったって事なんだろ?
イライラしながら街を歩く。
外で一人自棄酒も虚しい、家で一人缶ビールも虚しい。
一時的な癒しを求めて、風俗なんか行った日にゃ、
きっと立ち直れないほど虚しい気分に陥るだろう。
・・・ったく、何で誰もつかまんねーんだよ!
その時、本屋の貼り紙が目に入った。
『待望の新刊発売!夕暮れの騎士団15巻』
あ、やっと出たんだ。学生の時から読んでいる、遅筆作家の小説だ。
次が出るまで1年や2年はざらに開く。
そういうものだと思っているので別に腹も立たない。
ただ、毎回前巻の話を思い出すのが難儀ではあるが。
彼のファンは気長でないとやっていられない。
ラッキーな事だ。
急に気分が上向く。
あの本とつまみとビール。
今日はもうそれでいい。
俺は迷わず、本屋に足を向けた。
Next Episode.
或る書店の出来事




