Episode 5. 或る女の心情
日常に不満があると、どこかに救いを求めるものなのかしら?
バンドのギタリストに一目惚れして、追っかけやって、
満たされた気分になってたけど、それは違ったのね・・・。
あーもうっ、今日はなんてついてないの!
今度の誕生日で28歳。独身、現在彼氏無し。
30までには子供が欲しい…って、思ってる。
負け犬?いえ私はまだ踏みとどまってるわよ!
認めたら負けじゃないの!
そんな私の唯一の心の拠り所が、Callingのギターのワタル君。
なのに、その彼が結婚したっていうのよ!
お昼にちょっとニュースサイト見ただけだったのに、もうその後は気力ゼロ。
「立木先輩どしたんですか? やたらテンション低くないですか?」
書類を持って来た、後輩の真奈美ちゃんが、訝しげに聞いてきた。
「真奈美ちゃ~ん、ワタル君がー!」
泣き真似をしていじけて見せると、納得した顔をして口を開いた。
「あー、ニュース見ましたよ。
立木先輩好きですもんね、まーしょうがないじゃないですか。
追っかけもいいけど、実在の良い男探しましょうよ。
あ、今度合コンどうです? 声かけたら集まるかなぁ…」
言いたい事は分かる。
一方的に憧れて、追いかけて、
でもワタル君は、私の事なんて全く知らない。
分かってるわよ!
でもね、彼も実在する人よ、真奈美ちゃん?
だから『実在の』って表現はおかしいと思うわよ。
カレンダーに目をやる真奈美ちゃんが、あくびを一つ落とした。
「どしたの? 珍しいわね。」
「朝早くに友人に呼び出されて、いつもより早く起きたもので・・・。」
少々不機嫌そうな顔で、そう言う。
その話はしたくなさそうね。
「あ、その書類預かるわ。」
「ああ、そうだお願いします。」
「真奈美ちゃんも、よろしくね。」
行動力のある子だから、きっと早いうちに『×日に合コン決まりました。』
って言ってくるわよね。
もちろんその後も、仕事に身が入らないから、定時で早々に退社したわ。
今ちょうど仕事少ないからいいわよね。
…会社にとっては良くない事だけど。
外に出たら、街頭ビジョンでもそのニュース。
もう、へこむから止めてよ!
私はどうせただのファンですよ。
彼が格好良かったから、そんなミーハーな人間の一人よ。
なのに、こんなにショックを受けるとは思わなかったわ・・・。
ある意味、依存症だったのかしら?
本当はおめでたい事なのよ、そう、祝福すべき事なのよ、
でも、そんな気になれないのは…
『負け犬』
いや、そんな言葉出て来なくていいのよ!
いくらできちゃった婚だとしても、私は私で良い人を見つければいいのよ、
彼は偶像、ファンの一人として、祝福するのが正しい在り方なのよ!
ええ、きっとそうよ!
良い男は、次の合コンに期待すればいいのよ!
歩きながら、物思いの中で自分を言いくるめるのに成功した時、とある旅行会社の看板が目についた。
そうね、旅行もいいかもしれない。
傷心旅行ってのとは少し違うかもしれないけど、気分転換にはなるわよね。
そう思いついた途端、目についた本屋に飛び込んだ。
時間とお金に余裕がある訳じゃないから、近場で旅行気分が味わえる場所をがいいわね、
そんな特集の雑誌あるかしら?
Next Episode.
或る男の事情




