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Episode 3. 或る始まりの日に

私の中では、当たり前のようでいて

実はとても不思議な事が起こっている。

それに気付いた時からはじまる責任と覚悟。

でも、それは一人で抱えるものでもない。

だって、それは・・・

2本線が出た。

「あっ、えと・・・」

確かに最近すごく眠くて、なんか微妙に体温高くて、だるくて、

だから、これを買ってきて試してみたんだけど・・・

実際にこういう結果が出ると、どうしたらいいのかよくわからない。

とりあえず、体調不良の原因は特定できた。

・・・でも、

手にした妊娠検査薬を見つめたまま、私はため息をついた。

まずは、トイレから出よう。


パソコンを起動し、検索サイトのテキスト欄に『妊娠』という文字を入れ、

『Enter』ボタンを押す。

瞬時に大量の該当件数と、所要時間、数件のリンクが表示される。

いつも思うんだけど、該当件数と、所要時間って必要なのかな?

とりあえず、有名な妊婦向け雑誌が運営するサイトを選んでみる。

週数毎の、胎児のエコー写真の下に、状態の説明と、

母体の状態の説明の文章が表示される。

それをじっくりと、そして何度も何度も読み直し、頭に刻み込んでいく。

人間の体の中で、人間が出来ていく。

その当たり前のようで、理解不能な不思議な現象。

その製造過程の瞬間が、今ディスプレイに映し出されている。

目に見えないほど小さい丸い物体から、頭や手足が判別できるようになり、

出てくるまでの間に、小さな小さな赤ちゃんがだんだん大きく育っていく。

そして今、私のお腹の中でそれが起こっている。

目から一筋涙がこぼれた。

「あれ?」

この涙は何だろう?

嬉し涙? 未知への恐怖?

たぶん両方。

この体の中の大きな出来事に、心が着いて行けずに戸惑っているのだろう。

しばし呆然としたものの、ふとある事に気付いた。

乱暴に袖で擦い、涙を拭く。

そうだ、電話しなきゃ!

この子は、私だけの子供じゃないんだ。

この子の父親は、絶対喜んでくれる。

あのバカとは付き合って10年以上の仲だ、そう確信できる。

携帯を開いて、1件の履歴から電話をかける。

コールは2回。

「朋花どした?」

「航、話があるんだけど、空いてる?」

この所、仕事が忙しくてなかなか会えない。

昔・・・学生時代はいつも一緒で、

夢追っかけてる暇な時期はいつでも会えて、

夢を掴んで成功したら忙しくて会えなくなった。

でも、あのバカはマメなやつで電話もメールも、鬱陶しいほどよこしてくれて、

どれだけ私が嬉しかったか知ってるか?

悔しいから絶対言ってやらないけどさ、

「もちろん時間あるよ。だから今下まで来てる。」

「は、下?」

「上がるから待ってて、じゃ、」

切れた。

不意打ちか?

ちょっと待て、心の準備ってものがあるんだぞ!

・・・とりあえず深呼吸だ。

驚かせて、泣かせてやる。

絶対あいつは、感激して泣くんだから。

さあ、来るなら来い!

Next Episode.

或る朝の食事風景

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