Episode 2. 或る人を想う
目の前にいるやつは、見ててイライラする。
枠の中で安心して、人を羨んでるだけのやつ、
人の話を聞いてるようで、聞いていないやつ、
あー腹立つ、何でこいつはいつも私に絡んでくるんだ?
・・・今日は、バイトに早めに行こう。
「木嶋さん、最近よく本読んでるね?」
新刊の小説から目を外し、声のした方に向けると、
クラスメートの下田君がいた。
何でいつも笑顔なんだ、こいつは?
「あぁ、本屋でバイトしてるから、これも勉強かな?」
最近POPを任されている。
デザインは自由にしていいのだが、本の紹介文は指示通りに書くだけだ。
そこが、なんとなく悔しい。
「すごいなー、僕なんか漫画ばっかだよ?」
何がすごいんだ、私なんかすごくない。
すごいのは店長だ。
あの人だってまだ若いのに、店を取りまとめて、仕事をこなして、
色々忙しいはずなのに、新しい本をいちいちチェックしてて、
さらっと、見事な紹介文を書いて渡す。
あの完璧人間は一体何なんだ?
「漫画もいいけど、他も読んでみなよ、色々幅が広がると思うよ。」
受け売りだ。
バイトを始めた頃に、店長に言われた。
『違うジャンルも読んでみなよ、色々と人間の幅が広がるかもよ?』
冗談めかしていたが、本当にそう思う。
枠に収まっていると、似たような発想しか出てこない。
自分の中に無い考えに触れる度に、新しい世界が広がるような気分になる。
そして、そこから別のアイデアが生まれてくる。
「えー、僕は漫画だけでいいよ。字ばっかだと面白く無いじゃん。」
だから、こういう枠の中にはまりきって、他を表面上だけで羨むやつは、
見ててイライラする。
だから、碌な物が描けないんだよ!
そう、心の中で叫ぶが、声にはしない。
・・・決め付けも良くないんだ。
一方的な見方は間違っているかもしれない。
きっと、彼にもどこか良い所があるはずなんだ。
今の私には分からないけれど、いや、特に分かりたくはないんだけど。
「文章読んでると、頭の中で登場人物とかさ、イメージが動くんだよ。」
文字の並びから、物語の中の世界が広がり、人物が動き、声が響く。
そして、その世界に溶け込んでいくような感覚。
それが小説の醍醐味だと思う。
「へー、よくわかんないけどすごいねー。」
もう無理だ、全く交わろうともしない、想像力を働かせようともしない、
こいつと話えいてると、傘の表面を流れ落ちる雨粒のような気分になる。
何となく虚しい。
それ以前に、別に話したくもないのに、しょっちゅう絡んでくるのは何でだ?
・・・ったく、面倒だ。
「私用あるから行くね、じゃ。」
本をカバンに押し込んで、肩に担ぎながら立ち上がる。
本当は、もう少し時間があるからここで、本読んで時間を潰してたのに、
こいつのおかげで台無しだ。
「あ、そうなんだ、じゃまた明日ね。」
何がまた明日だ?
別に彼に用なんか無い、明日になっても特に話す事はない。
振り返りもせずに、教室を出る。
あーどうしよ、バイトまで1時間どこで時間潰そうかな?
歩きながら、考える。
・・・たまには早く行ってみるのもいいかな?
Next Episode.
或る始まりの日に
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(2010.11.18)サブタイトルミスってたので修正しました。




