4.3つの型
弟子になった翌日、俺は昨日の場所でハルト師匠に種瀬流剣術の基本を叩き込まれていた。
「種瀬流剣術の基本は、型にある。」
「型?」
と師匠に聞き返す。
「種瀬流剣術には、3つの型がある。一番使われている型は、雷鳴の型だ。名の通り、雷鳴の如く速い、種瀬流剣術で最速の剣だ。2つ目は、蒼氷の型だ。これは、昔から使われ続けてきた型で、それゆえに最も安定した型であり、守りの型だ。3つ目は、白炎の型。この型は、ひたすらに攻撃の威力を高め上げた型だ。3つの型の中で最も修得難易度が高いが、極めることができれば、巨大な怪物相手も一撃で葬ることができる威力を誇る。」
「雷鳴、蒼氷、白炎。それぞれが、素早さ特化、防御特化、攻撃特化ってことですね。」
「そうだ。種瀬流の門下生は、この3つの型から1つを極める。ほとんどのものは、雷鳴の型と蒼氷の型の2つだ。」
「白炎の型はいないんですか?」
「いないな。」
俺は驚いた。種瀬流の門下生には、若い人たちが多い。攻撃に特化している白炎の型は、防御に特化した蒼氷の型よりも人気があるはずだ。修得難易度が高いとしても、白炎の型を学ぶという人は少なくないはずだ。なのに…
「なぜ、白炎の型は誰も教わらないのですか?」
「それは、白炎の型が俺の編み出した誰にも知られていない型だからだ。」
「師匠が…編み出した?!」
剣術の型を編み出すのは、本来は人の一生をかけて行うことだ。だけど、師匠はまだ20代だ。20年ちょっとで新たな型を作り上げるなんて、師匠は規格外の天才であると、改めて自覚した。
「どれを学ぶかは自由だ。今からそれぞれの型を見せる。自分の学びたい型を自分で選べ。お前がどの型を学ぼうとも、俺はお前を俺の次に最強の剣士にしてやる。」
そう言って、師匠は刀を抜いた。一番最初に見せてくれたのは、雷鳴の型だ。師匠は、俺が見えるように本来の速度よりも遅くしているのだろう。それでも、剣筋を追うのに精一杯なほどに速い剣だった。次に見せてくれたのは、蒼氷の型だ。
「蒼氷の型 氷華乱れ咲き」
と刀をふる。すると、氷の華が吹き荒れて木々が倒れていった。守りの型だと師匠は言っていたが、それでも凄まじい威力だった。そして、最後は白炎の型だ。
「白炎の型 枝垂れ桜」
その太刀筋には、白く燃える桜のようなものが見えた。その桜が一度触れると、全てを燃やし尽くすかのような威力で燃え盛っていた。全ての型が、完成し尽くされていた。その中でも俺が一番学びたいと思っていたのは、雷鳴の型だ。なぜなら、雷鳴の型の技を一度も見せてもらっていないからだ。
「雷鳴の型の技はないのですか?」
と師匠に聞く。
「技はある。しかし、雷鳴の型の技は神速の剣だ。無闇に使うことができる技じゃないんだ。」
と師匠が言った。確かに、雷鳴のように速く剣を振れば、その衝撃がまたまだ届くかもしれない。それを聞いて、俺の意思は一つに決まった。
「俺は、雷鳴の型を修得します。」