3.種瀬流剣術
俺は、セレンの外にある小さな森に来ていた。ここの近くにはセロがあり、人が寄りつくことがほとんどない場所で、トレーニングするにはうってつけの場所だった。しかし、今日は違った。先客がいた。
刀だ。それが第一印象だった。刀を使う流派は少ない。昔は多かったが、セロの長期戦闘において刀はコストがすごくかかってしまう。それだけではなく、刀の扱いは難しいためか、ほとんどの人々は剣を扱う。その結果、今の流派の多くは剣が多い。剣聖である桐生正宗も、剣の使い手である。
その刀を持った剣士は、刀を振り上げ、静止する。そして、振り下ろす。すると、ガサッと葉が揺れる。決して速い振りだったわけではない。それなのに、その一振りは凄まじい威力だ。俺も隊員だった頃は剣を使っていたからわかる。この人は、ものすごく強いということが。それに、ただ刀を振っているのではない。ただの剣術ではないと、俺はそう思った。
「そこに隠れているやつ、出てこい。」
やばい、気づかれてた!と思い逃げようとしたが、一足遅かった。
「はい、捕まえた。」
終わった。俺はそう思った。この世界の流派は、外に技が漏れることを極端に嫌う。なので、よその流派のトレーニングを見るのは御法度である。
「ごめんなさい!いつもここでトレーニングしてたんですけど、今日はあなたが素振りをしていて…。盗み見るつもりはなかったんです!ごめんなさい!」
と言い、俺は土下座をする。しかし、俺の想像とは違う反応が返ってきた。
「違うよ。別に何かしようってわけじゃないよ。遠くにいてもわかんないだろうから、近くに来なよって言いに来ただけだよ。」
予想外だった。この人も、どこかの流派の人だろう。なのに、近くで見てもいいと言われるなんて…。
「本当にいいんですか?」
と俺は彼に聞く。
「別にいいよ。どうせ近くで見ても俺の剣術を理解できると思ってないから。」
俺は相当舐められているようだ。確かにもう2年は剣から離れていたが、これでもまだ相当強い剣士だという自負がある。
「それは俺を舐めすぎじゃないですか?」
と言い返す。
「別に舐めてはないよ。事実を言っただけ。」
正直ムカッときた。絶対技を盗んでやると、俺はやる気になった。そして、彼の横に座って彼の素振りを見る。
近くで見ていると、一振りするたびに凄まじい風を感じる。遠くで見ていた時よりもさらに、この人が相当な化け物であることを理解する。
そして、俺はあることに気づいた。これは、剣術じゃなくて…
「気術?」
咄嗟に口から出てしまった俺のその言葉に、彼はとても驚いた表情でこちらを見ている。
気術とは、体を循環しているエネルギー、すなわち氣を使って技を放つ流派だ。この世界の大きな流派の一つである気術は、そのほとんどが格闘技だ。だが、この人の気術は全く違う。体に巡らせた気で身体を強化し、刀を振る。それはただの剣術のようだが、剣術では氣を使うことがない。なのに、この人は氣を使っている。それはまさに、剣術と気術の両方の性質を持つ、今まで聞いたこともない流派だった。
「お前、気づいたのか?」
としゃがみ込んで俺に詰め寄る。
「なんとなく、そう思って…。」
と俺は答える。すると、彼は立ち上がって少し考え込んでいた。しばらくすると、彼の表情は明るくなり、そして俺にこう言った。
「お前、俺の弟子になれ。」
「はい?」
俺は戸惑った。
「お前には才能がある。俺が世界で2番目の剣士にしてやる。」
と言われた。だが、
「なんで2番目なんですか?」
なぜ2番目なのか?そこは、世界一の剣士にしてやるとかじゃないのか?
「だって、世界で一番強い剣士は俺だからな。俺より強くなれるわけがないだろう。」
と彼は自信満々に答えた。俺は呆れた。でも同時に彼に惹かれた。彼ほど強い人の弟子になれば、俺はきっと変われると思った。そして俺は答えた。
「俺を、弟子にしてください。」
「よし、いい返事だ。安心しろ。俺の弟子になったからには、俺以外の誰にも負けない剣士にしてやる。」
彼のその言葉は俺に安心感を与えてくれた。あぁ、この人についていけば間違い無いと、そう思った。
「俺はユウキです。それで、あの…。お名前はなんでしょうか?」
忘れていた。俺は彼の名前を知らない。
「自己紹介を忘れてたな。俺は、種瀬流剣術師範代のハルトだ。」
種瀬流剣術という名を聞いてとても驚いた。種瀬流剣術は、剣術の流派の中でトップ3に入るほど有名な剣術だ。だからこそ驚いた。これほど有名な剣術なのに、気術と剣術の両方の性質を持つ流派だと知られていなかったことに。