2.最強の剣士
メルが、いなくなった…
置き手紙には、
『今までありがとう。』
とだけ書かれていた。俺は、現実をうまく受け止められない。班長を失い、メルはいなくなってしまった。そこからは俺の記憶はほとんどない。俺のメンタルがよっぽど傷ついていたのか、この日はいつもは飲まない酒をたくさん買って飲み散らかしていた。あの日の後悔と、1人の寂しさを押し殺すように…
気づいた頃には、もう朝だった。二日酔いで頭が痛い。酔い覚ましに味噌汁を作ろうと台所へ向かう。
「メル、味噌汁飲むかー?」
と聞くが、返事はない。そうだ、メルはもういないんだ。1人でいると、嫌なことばかり考えてしまう。今まで当たり前で気づかなかったけど、1人になってようやくメルの存在の大きさに気づく。1人は、こんなにもさびしいのだと…。
味噌汁を作り終わり、テレビをつける。テレビはちょうどセロの攻略のニュースをやっていた。セロの話を聞くと、未だに身体が震えるが、少しづつ治ってきている。そろそろ復帰できるかもなと思いつつも、戻りたくないなという思いの方が強くもある。そんなことを考えていると、テレビから聞こえたある言葉に、俺は驚きを隠さず、味噌汁を手にこぼしてしまった。
「あっつ!!」
と大きな声が出てしまい、「ドンッ!」と隣の部屋から叩かれてしまった。
驚くのも当たり前だ。なぜならば、テレビに出ているアナウンサーはこう言ったのだ。
「剣聖 桐生正宗が、大型セロの一つ『ミナストロジー』の攻略に成功しました。」
と。
大型セロ、ミナストロジー。
18年前の災厄の日に現れた大型セロの一つで、今まで何人もの攻略者が挑み続けていたが、誰一人として攻略できたものはおらず、怪物が増え続けた結果、攻略不可として侵入することを禁じられていたような場所であった。
そんな場所を攻略したのが、桐生正宗である。
彼は、現代最強の武聖として知られている。多くのものは、彼の戦う姿を見たことはないが、どれほど強いのかというのは皆が知っている。なぜならば彼は、人類で唯一、セロを破壊した男だからだ。
5年前、とあるセロが一晩で攻略され、町を覆っていた結界が崩壊したのだ。この出来事は多くの者が拡散し、エルピスは彼を剣聖という称号を与えたのだ。
俺ももちろん知っている。なぜなら、エルピスに入った理由の一つは、彼に憧れていたからなのだ。彼のように人々の平和の象徴になりたいと思っていた。
しかし、今ではセロに入ることすらできない臆病者になってしまった。
ただ、今回のニュースを見て俺は、もう一度セロに挑もうと思った。やはり彼は、いつも俺の原動力になってくれる。俺は、3年前の勘を取り戻すべくいつもの場所へ向かった。
しかしこの時俺は知らなかった。この行動が、俺の転機になるということに…。
かなりダークな物語になってしまいました。
当初はもっと明るい感じでユウキとメルのラブコメ要素も入れようと思ったのですが、色々考えているうちに、ダーク展開に…
少し違う路線へ走ってしまったので、メルさんには一度出ていただきました。しかし、自分はメルというキャラクターが好きなので、いつかは復帰させるつもりです。皆さんが忘れた頃に…
早い路線変更ですが、皆さん何卒よろしくお願いします。