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咆哮のグラゴス

テストを全て終え、誠一たちは教室へと戻った。


クラスメイトたちは、収まりきらない興奮のまま、話をしている。


もちろん話題は誠一についてだ。


「身体能力向上の悪魔に魂を売った」

「宇宙人に肉体改造をされた」

「異世界転生した室伏広治と中身が入れ替わった」


などと、そんな突拍子もない噂で、教室はにわかに騒然としていた。


「よかったのぅ誠一よ。すっかり人気者じゃな。ん?どうした?浮かない顔をして」


定位置のように誠一の肩に乗っているアマテラス。


「いやー。正直やりすぎちまったかなって。つっても、全然コントロール出来なかったんだけどな」


誠一は、バツの悪そうに頭をかいた。


「あーでもこれどう説明すんだ?神様の器になったから強くなりましたって。見えない神様のことなんて誰が信じるっていうんだよ」


「そんなことで悩んでおったのか?簡単な話じゃよ。相手の手を握って、『見せる』と宣言すれば、それだけで我の姿もそやつに見えるようになる」


「えっ、マジで?それだけ?」


「ああ、それだけ“なら”な。神の世界ではな、『宣言と握手』は、それだけで契約成立とみなされるんじゃ。

だが、契約というのは強力な力をもたらすが、そのぶん、そう簡単に破棄はできん。

だからこそ、信頼できる相手とだけ結ぶべきものじゃよ。

特に人間というのはな……裏切るように、最初から設計されとる生き物じゃからな」


「怖えこと言うなー。まあ後で電太か国人にでも試してみて……」


「誠一ぃぃいいいいいいい!!!!!」


その瞬間、教室の後ろから熊の咆哮と人間の絶叫を足して二で割らない声が響いた。

もはや音圧は怪獣クラス。


この学校でこの音量に耐えられる喉を持つのは、グラゴスただ一人。


誠一が振り返るや否や、怒り狂ったグラゴスは続ける。


「運動の出来ねえてめえのために作ったルールだってのによぉ。なんで俺が奢る羽目になんだよ!てめえ、なんか卑怯な方法使ったんだろ?じゃねえとあんな化け物じみた成績残せるわけねえ!」


「卑怯って言われたら何も言い返せねえけど……」


誠一は肩をすくめ、苦笑いを浮かべながらも、急に声を張る。


「とにかくおめえは負けたんだから諦めろ!あー何食おっかなー。グラゴスの金で食う豚キムチはさぞ美味いんだろうな!」


「てめえ!馬鹿にしてんじゃねえぞ!」


グラゴスは机を弾き飛ばしながら誠一に突進。右拳はブロック塀も粉砕しそうな勢いで握られている。


拳の目標地点は、誠一のド真ん中。顔面直撃、間違いなし。


「昨日みてえに、ぶっ飛ばしてやる!」


叫びと同時にグラゴスは腕を後ろに引いた。その軌道は、風を切って机のプリントを舞い上げるほど。


だが、それを見据える誠一の瞳には、焦りも怯えもなかった。むしろ、不思議な感覚に驚いていた。


(なんか、グラゴスの動きがすげえゆっくりに見える)


誠一は、グラゴスの拳をまるでスローモーション映像のように見つめ、その動きに沿って静かに身をずらした。


そのまま、バランスを崩したグラゴスの顔面に自らの拳を合わせると、グラゴスは教室の後方へと吹き飛んだ。


「ぐへぇ」


壁にぶつかると、グラゴスは情けない声を上げながら倒れた。


「うわっ、やっちまった。まじか……」


グラゴスの巨体は、壁にもたれたまま、ピクリとも動かない。


誠一は慌てて駆け寄った。


「おい!大丈夫か?わりいわりい……」


「くそう。今日はなんだってんだよ。スポーツテストでも負けちまうし、喧嘩ですら勝てねえなんて……。なんだってんだよー」


グラゴスは鼻をすすり、ついには大声で泣き出した。まるで遠吠えをあげるアザラシ。いや、むしろ海で迷子になった子グマ。


一部始終を見ていた国人は、呆れ顔でぼそっとツッコんだ。


「ほんとさ、喧嘩っ早いくせに負けたらすぐ泣く。それに一回泣き出したら死ぬほど長い。とんだガキ大将さんだよ、全く」


そして誠一を見て、鋭い視線を向ける。


「でもお前、本当にどうなってんだよ?」


誠一は頭をかきながら、困ったように笑った。


「あー……後で説明するよ。色々あってさ……」


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