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第四十話「新たな同僚」

「わあ!これが噂のラゴモーフ系の新人さん?かわいい!」


明るい声と共に現れた金髪の女性は、ユナギを見るなり目を輝かせた。身長はユナギより少し高く、活発さを感じさせる細身の体つきで、小さなオーロラ型のイヤリングが光を反射して揺れていた。彼女の隣には黒髪のセミロングの女性型AIが立っている。


「紹介しよう。彼女がイングリッドとパートナーのリンだ」


カミロ所長が言った。


「初めまして!イングリッド・ハンセンです!イングリッドって呼んでね!」


金髪の女性はそう言うと、勢いよく駆け寄り、ユナギの手を掴んで握手した。その握手は予想以上に力強かった。


「よろしくお願いします」


黒髪のAIが丁寧に頭を下げた。


「イングリッド、こちらが新人のユナギとパートナーのアルクだ」


カミロ所長が続けた。


「初めまして。ユナギと言います。よろしくお願いします」


ユナギは少し緊張しながら挨拶した。長い耳が微かに前傾している。


「会いたかったよー!」


イングリッドは両手を合わせて嬉しそうに言った。


「所長から聞いてずっと気になってたの!正直わたし遺伝子融合型人類とかラゴモーフとか聞いたことなかったんだけど、ウサギみたいなかわいい見た目の新人さんって聞いてすっごい楽しみにしてたんだから!これからよろしくね!」


その無邪気な熱意にユナギは少し圧倒されたが、悪意は感じられず、思わず微笑んだ。アルクは隣で黙って状況を観察している。


「ほかにも調査官や職員がいるのだが、外に出ているものが多いので紹介はおいおいだな」


カミロ所長は席に着きながら言った。


「それで、聞き取りの結果はどうだった?」


イングリッドは表情を少し引き締めた。報告モードに入ったようだ。


「そうですねー、目撃者によって少しずつ違うことがありましたけど、やっぱりすべて同じ現象と考えていいと思います」


彼女は両手を小さく動かしながら説明を始めた。


「突然目の前に雪景色が広がったけど、地面を見ても雪が積もってないどころか濡れてもいなくって、それほど寒くないのに不思議だなーって思ったそうです。それで、その景色がとってもきれいで懐かしいような、寂しいような気持ちになったみたいです」


「これまでの調査のとおりだな」


カミロは顎に手を当てながら言った。


「ほかに何か特筆すべき点は?」


「うーん、他に確かなことはまだわかってないんですけど、でもこの件、ただ雪景色を何かで投影しているだけじゃないかもしれません」


イングリッドの声には少し緊張感が混じっていた。


「どういうことだ?なぜそう思う?」


カミロが身を乗り出して尋ねた。


「目撃者の話では、その風景を1時間ぐらい眺めてたはずなのに時計を見ても5分しかたってなかったとか、方向感覚がおかしくなったとか、自分がどこに向かっていたのか少しの間わからなくなったとか、精神的に何らかの影響があったと思われることがいくつもありました」


イングリッドは少し早口になりながら、手元の資料を指差しながら説明を続けた。ユナギは彼女の言葉に耳を傾けながら、その奇妙な現象を想像していた。時間感覚や方向感覚の乱れは、単なる幻覚とは思えない。


「ふーむ、もし精神に影響を与えることが目的だとするならば危険かもしれんが、そんなことが果たして…」


カミロは眉を寄せた。


「PMNには私から報告しよう」


「一番ヤバそうだったのは、これは誰かからのメッセージだって感じた人がいたことです」


イングリッドは少し声を落として言った。


「わたしも所長と同じで危険を感じました」


「目撃者のAIパートナーは何と言っていた?」


カミロが尋ねた。


「AIパートナーたちも目撃者と同じものを見たみたいですけど、人間と違って特に影響は受けなかったみたいです。ただ、自分のパートナーのバイタルサインに少し変化が見られ、そのことが気になったと言っていました」


イングリッドは説明し、一息ついた。


「いま報告できそうなことはこれぐらいですね」


「わかった。この短時間でご苦労だった」


カミロはうなずき、ユナギとアルクの方を見た。


「ユナギ、アルク、何か気づいた事はあるか?」


「まだ何もわかりませんね…」


ユナギは率直に答えた。


「精神に影響を与えるだなんてなんだか恐ろしいですが、そういった案件ってよくあるんですか?」


「いや、これまで私も経験したことがない」


カミロは首を横に振った。


「ほかの地域の希少存在調査局でも取り扱ったことがあるかどうか…」


アンソニーが一歩前に出て言った。


「私のほうで類似例を探しましたが、明確に精神操作を目的とした事案は存在しないか、私たちには開示されていません。今回の調査は私たちだけではなくほかの機関と連携しながら慎重に取り掛かかったほうがよいですね」


イングリッドは元気に立ち上がった。


「わかりました!アンソニーさん!わたしはこれから現場を見て回ろうと思います」


彼女はユナギに向き直り、笑顔で言った。


「ユナギくんも一緒に行く?」


「はい!よろしくお願いします!」


ユナギは思わず勢いよく返事をした。長い耳が嬉しそうに前傾している。


「くれぐれも気を付けるんだぞ」


カミロ所長は真剣な表情で忠告した。


「とくにユナギ、何か思いついても行動する前に必ずイングリッドに相談するように」


「わ、わかりました」


ユナギは少し狼狽えながら返事をした。前回の任務で少し無謀な行動をとってしまったことを思い出したのだろう。


「それと、君の例の力の件だが、もしかすると今後研究者から声がかかるかもしれん」


カミロはユナギに向かって言った。


「ただ、どうするかは君次第だ」


「何かわかりそうなんですか?」


ユナギは少し不安そうに尋ねた。


「どうだろうな。現状ではまだ何とも言えないそうだ」


カミロは肩をすくめた。


「え、何の話ですか?」


イングリッドが好奇心いっぱいの表情で割り込んできた。


「まだイングリッドには内緒だ」


カミロは茶目っ気たっぷりに言った。


「な、なんでですか!」


イングリッドは口をとがらせた。


「私はユナギと仲良しだから知っているんだ」


カミロはからかうように笑った。


「初対面のお前にはまだ教えられんよ。な、ユナギ?」


「な!?ふーんだ!いいですよ!」


イングリッドは突然ユナギを抱き寄せた。


「これから所長以上に仲良くなっちゃうんですから!」


「ちょ、ちょっと!」


ユナギは驚いて耳をピンと立てた。


「わー、ふわふわ!」


イングリッドはユナギの体毛に頬ずりをしながら嬉しそうに言った。


「あ、全身からシャンプーのにおいがする!いい香り!ねえ、私のおすすめのシャンプー使ってみない?とってもいい香りだよ?」


「イングリッド、それ以上はセクハラですよ」


リンが冷静に忠告した。


「えー、これぐらい大丈夫だよ。ねえ?」


イングリッドはまだユナギを離そうとしない。


「イングリッド、もしあなたがそれを所長に言われたらどう思いますか?」


リンが少し厳しい声で問いかけた。


「う、…すみません」


イングリッドは渋々ユナギを離した。


「リン、君の発言こそ私へのハラスメントではないか?」


カミロは片眉を上げて言った。


「所長はこれぐらい気になさらないでしょう?」


リンは落ち着いた声で返した。


「仕方ない、そういうことにしておいてやろう」


カミロは笑いながら言った。

部屋の中は和やかな雰囲気に包まれた。ユナギは少し混乱していたが、この新しいパートナーシップが悪いものではないと感じ始めていた。



調査局を出て、ユナギとイングリッドは最初の目撃現場に向かうためのトランスポッドに乗り込んだ。アルクとリンもそれぞれ光球の形で彼らに同行している。


「ごめんねー、さっきはちょっとはしゃぎすぎちゃった」


イングリッドは少し申し訳なさそうに言った。


「わたし、新しいものを見ると興奮しちゃうタイプなんだ」


「いえ、大丈夫です」


ユナギは微笑んだ。


「慣れていないので少し驚きましたが」


「それにしても、カミロ所長が言ってた"力"って何?」


イングリッドは好奇心に満ちた表情で尋ねた。


「なにかスゴイことができるの?」


「それはまだ…」


ユナギは言葉を選びながら答えた。


「僕自身もよくわかっていないんです」


実際のところ、ブルーグロウ調査の最終局面で、ユナギは不思議な力を使ってセキュリティロボットを壁に叩きつけていた。しかし、その力をどうコントロールするのかは全くわかっていなかった。


「そっか」


イングリッドはあっさりと納得した。


「でも、気になるなー。いつか教えてくれたらうれしいな」


トランスポッドが最初の目撃地点、セントラル・ウィンターヘイブンの商業区に近づくにつれ、イングリッドは少しずつ真剣な表情になった。


「ねえ、さっき報告したこと以外にも、気になることがあるんだ」


彼女は窓の外を見ながら言った。


「目撃者全員が"雪の中に青白い光が浮かんでいる"って言ってたんだよ。それも規則的なパターンを形成していたって」


「パターン?」


ユナギは興味を持って尋ねた。


「うん。六角形とか円形とか」


イングリッドは手で形を描きながら説明した。


「でもね、全員がその光を見た後に"懐かしさ"を感じたんだ。しかも全身に鳥肌が立って、涙が出てきたっていう人もいた。普段は感情表現が苦手な人まで」


「精神に影響を与えるなんて…」


ユナギは眉を寄せた。


「それだけじゃないんだ」


イングリッドはさらに声を低くした。


「目撃者が現象を見ていた時間にも不思議なことがあった。彼らが"雪景色"を見ていたと思っていた時間はバラバラだったけど、実際の記録によると、全員がほぼ同じ時間—約17分間—その状態だったみたいなんだ」


「時間の知覚が狂う…」


ユナギは考え込んだ。

トランスポッドが目的地に近づき、減速し始めた。窓の外には賑やかな商業区の風景が広がっている。


「さて、最初の現場を調査しよう」


イングリッドは元気を取り戻したように言った。


「何か手がかりが見つかるといいね」


ユナギはうなずいた。この不思議な現象の真相を探る調査が、ここから本格的に始まるのだ。

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