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第二十五話「光る果実の追跡」

「パラダイス・ガーデン」という優雅な名前が付いた店舗の前で、僕たちは立ち止まった。ウィンターヘイブン区画の高級住宅街に位置するその店は、凝った装飾が施された入口と、窓越しに見える色鮮やかな果物の陳列が印象的だった。


「ここだ」


カミロ所長が言った。彼はいつもの制服ではなく、洗練されたビジネススーツに身を包んでいる。


「作戦の確認をしておこう」


所長はいつもの大声ではなく、抑えた声で説明を始めた。


「私は成功した投資家を装う。希少な存在に目がないコレクターで、例の青く光るストロベリーに興味を抱いたという設定だ」


彼はニヤリと笑って、僕の方を向いた。


「そして君は、私がこれまで"収集"してきた希少存在の一つという役だ。珍しいラゴモーフ系の市民とね」


「え?」


僕の耳が驚きで上向きになる。


「僕も展示品みたいな扱いなんですか?」


「ただの変装さ」


所長は肩をすくめた。


「君の特徴的な外見を隠すより、むしろ前面に出した方が説得力がある。私がエキセントリックな富豪というのも納得してもらいやすい」


アルクも普段の学生風の装いから、一転してビジネスライクな服装だ。


「私は所長のアシスタント役です」


アルクが補足した。


「店内の電子システムへの接続も試みますので、可能な限り多くの情報を集めましょう」


カミロ所長は僕の肩を軽く叩いた。


「大丈夫だ、自然に振る舞うだけでいい。初めての潜入捜査、楽しむくらいの気持ちでね」


そう言いながらも、彼の瞳には鋭い光が宿っていた。所長の陽気な態度の裏には常に冷静な判断力が働いていることを、僕はこの短い付き合いでも理解していた。


「では行きましょう」


アルクが言い、僕たちは豪華な装飾が施されたガラスドアを押し開けた。

店内は予想以上に広く、温度や湿度が緻密に管理されているのが感じられる。壁際に設置された陳列棚には、僕が見たこともないような形や色をした果物が並んでいる。それぞれが透明なガラスケースで保護され、小さなプレートには産地や特性が書かれていた。


「まるで宝石店のようだな」


カミロが小声で言った。

中央のカウンターでは、中年の男性が接客している。彼はきっちりとしたスーツに身を包み、来客に対して丁寧に対応していた。客が立ち去ると、彼は私たちに気づき、わずかに目を細めた。


「いらっしゃいませ」


彼は礼儀正しく頭を下げた。


「パラダイス・ガーデンへようこそ」


カミロ所長は堂々と前に出た。


「やあ、噂に聞いたんだが、君のところで特別なストロベリーを扱っているとか?」


店主は一瞬、表情を固くした。


「どのような商品をお探しでしょうか?」


「ほら、暗闇で青く光るという変わった品種だ」


カミロは声のトーンを少し下げ、親しげな様子で言った。


「友人のパーティーで噂を聞いてね。どうしても手に入れたくなったんだよ」


店主は僕とアルクを交互に見た後、カミロに視線を戻した。


「申し訳ありませんが、そのような商品は現在在庫がございません」


「そうか、残念だ」


カミロは本物の失望を装って肩を落とした。


「特別に取り寄せることもできないのかい?私はコレクションに情熱を傾ける男でね」


彼は僕の方を手で示した。


「この珍しいラゴモーフ系の若者も、私のコネで見つけたものだよ。希少なものへの目利きには自信があるんだ」


僕は演技とはいえ、商品のように紹介される状況に耳が恥ずかしげに下がった。店主の視線が僕に集中し、特に長い耳に対する興味が隠せないようだった。


「なるほど…」


店主は僕を値踏みするように見た。


「確かに遺伝子融合型人類の市民は非常に珍しいですね。私も初めてお会いしました。」


カミロはその反応に乗り、話を続けた。


「だろう?だから特別なストロベリーも、きっと素晴らしいコレクションになると思ったんだ。価格は問わないよ」


店主は少し考え込むような素振りを見せた後、声をさげて言った。


「申し訳ありませんが、その商品は予約制で、特定のお客様にのみ提供しております」


「なるほど、会員制というわけか」


カミロは理解したように頷いた。


「入会方法はあるのかい?」


「紹介制となっております」


店主は丁寧だが断固とした口調で答えた。


「現時点では新規のお客様へのご案内は控えさせていただいております」


カミロはさらに粘り強く交渉を続けた。時に冗談を交え、時に真剣な顔で語りかける。その間、アルクは店内をさりげなく観察し、僕はスペクトラムを使って店内の生体反応をスキャンしていた。

スキャン結果によると、バックルームの方向から微弱だが特異な生体シグナルが検出された。通常の果物とは明らかに違う波長だ。


「そうか、残念だ」


最終的にカミロは諦めたように言った。


「もし状況が変わったら連絡してもらえないだろうか」


彼は高級名刺入れから一枚の名刺を取り出し、店主に手渡した。


「マックス・ヴェントゥーラだ。いつでも連絡してくれたまえ」


店主は名刺を受け取り、丁重に頭を下げた。


「機会がございましたらご連絡差し上げます、ヴェントゥーラ様」


店を後にした僕たちは、通りを少し歩いてから人気のない場所で立ち止まった。


「やはり簡単にはいかないか」


カミロ所長はネクタイを緩めながら言った。


「アルク、収集したデータは?」


アルクの目が一瞬青く光った。


「店内のネットワークにアクセスできました。予約システムと顧客データベースの一部を取得しています」


「スキャン結果では、バックルームに生体反応がありました」


僕も報告した。


「通常の果物とは違う特殊な波長です」


「よし、期待通りだ」


カミロは満足げに頷いた。


「アルク、顧客リストを分析してくれ」


アルクは空中に半透明のデータスクリーンを展開した。


「顧客リストを分析中です…」


彼の指が素早くデータを整理していく。


「計37名の富裕層顧客が登録されており、うち15名が『ブルーグロウ』の購入履歴があります」


「名前を見せてくれ」


スクリーンに並ぶ名前の中から、カミロ所長の指が一つの名前を指した。


「リン・シンジュ教授…オーロラ・セレスティアル大学の植物遺伝学者じゃないか」


「はい」


アルクが確認した。


「希少植物研究の第一人者です。最近の購入履歴によると、7日前に『特別商品』を受け取っています」


「これは興味深いな」


カミロの目が輝いた。


「彼女なら話が通じるかもしれない。大学に行こう」

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