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第十八話「新たな一歩」

シーラの言葉に部屋の空気が少し軽くなったのを感じた。彼女は僕の興味を真剣に受け止め、端末を操作し始めた。


「希少存在調査官という道に進みたいとのこと、本当に素晴らしい選択だと思います」


シーラは端末に何かを入力しながら言った。


「あなたの適性検査結果を見る限り、その道で素晴らしい才能を発揮できるでしょう」


「具体的にはどんな手続きが必要なんですか?」


僕は少し身を乗り出した。耳が期待で少し前傾している。


「まず、希少存在調査局への正式応募書類が必要です」


シーラはデスクサイドのプリンターから出てきた数枚の白い書類を手に取った。


「これが基本申請書で、適性検査の結果と併せて提出します」


僕は書類を受け取り、目を通す。フォームはシンプルだが、いくつか専門的な質問も含まれている。


「一般的には高度な専門教育を受けた方々が応募するため、かなり詳細な経歴欄がありますが…」


シーラは少し言いよどんだ。


「あなたの場合は特例市民としての特別枠での申請となるので、こちらのセクションに記入してください」


彼女は書類の特定の部分を指さした。「特別応募資格」という欄だ。


「特別応募資格?」


僕は首をかしげた。


「はい。ノヴァスフィアでは、独自の価値や才能を持つ市民に特別な機会を提供する制度があります」


シーラは説明した。


「あなたのような希少な背景と能力を持つ方は、標準的なルートとは別の経路で専門職に就けるようになっています」


「そういうものなんですね」


僕は少し驚きながらも、納得した。

書類の記入を進めながら、いくつか質問が浮かんだ。


「『希望配属区画』とありますが、ノヴァスフィア全体を対象に活動するんじゃないんですか?」


「基本的にはそうです」


シーラは頷いた。


「しかし、調査官はホームベースとなる区画を持ちます。あなたの場合、寒冷環境への適応性が高いので、ウィンターヘイブンが自然な選択でしょう」


「ウィンターヘイブンを第一希望、次点でマウンテンレンジ区画はいかがでしょう。山岳地帯の多様な生態系があり、調査経験を積むのに適しています」


アルクが静かに提案した。


「良いアイデアですね」


シーラも同意した。

残りの項目も一つひとつ丁寧に記入していく。僕の特殊な状況を考慮して、シーラは通常より詳細なガイダンスをしてくれた。


「これで基本申請書は完成です」


僕は最後の署名を済ませた。


「あとは行政センターの希少存在調査局窓口に提出するだけです」


シーラは書類を整理した。


「通常は審査に1週間ほどかかりますが、あなたの場合は特例申請なので、おそらく3日程度で結果が出るでしょう」


「そんなに早いんですか?」


「はい。特例市民支援プロトコルの一環として、手続きが優先的に処理されます」


シーラは微笑んだ。


「それに、率直に言って、あなたのような特殊能力の持ち主は希少存在調査局にとって大いに価値があります」


書類一式を専用のフォルダに収め、シーラから受け取る。これが新しい人生への一歩目だ。


「本当にありがとうございました」


僕は心からの感謝を込めて言った。


「こんなに詳しく教えてもらえて助かります」


「いいえ、こちらこそ」


シーラは立ち上がり、再び握手を求めてきた。


「あなたの今後の活躍を楽しみにしています。希少存在調査官としての道が、あなたにとって実りある旅となりますように」


アルクも丁寧にお辞儀をして、僕たちはブリーフィングルームを後にした。廊下に出ると、少し緊張が解け、大きく息を吐き出す。


「さて、次は行政センターに行きましょうか」


アルクが言った。


「行政センター?書類の提出かな?」


「それもですが、あなたの住居の引き渡しが本日予定されています」


アルクの表情が明るくなった。


「新しい住まいを確認できますよ」


「そうだった!」


思わず耳がピンと立つ。


「引っ越しだ!」


適性検査センターを出て、行政センターへ向かう。空は明るく晴れ渡り、春の兆しを感じさせる暖かさがある。それでもウィンターヘイブン区画特有の清々しい冷気が肌に心地よい。


「アルク、この職業、本当にやっていけるかな」


歩きながら少し不安を口にした。


「自信を持ってください」


アルクは優しく言った。


「あなたの直感と認知能力は非常に特殊です。それに…」


彼は少し声を落とした。


「私も全力でサポートします。希少存在調査官専用のアシスト機能も提供されるはずです」


その言葉に少し勇気づけられ、行政センターに到着した。前回来た時よりも少し落ち着いて周囲を見渡す余裕がある。


「まずは市民職業登録課の窓口に行きましょう」


アルクが案内した。

行政センターの中央ホールから専用エレベーターで5階に上がり、「特殊職業申請課」というセクションに入る。アルクが窓口で手続きを済ませた後、僕が書類を提出した。


「特例市民のユナギさんですね」


窓口の職員が確認した。


「希少存在調査官への応募書類、確かに受け取りました。審査結果は3日以内に登録されているコンタクト先に通知されます」


「ありがとうございます」


僕は軽く頭を下げた。


「次は住居管理課ですね」


アルクが言った。


「1階の西側エリアです」


再びエレベーターに乗り、1階に戻る。住居管理課は比較的広いスペースで、いくつかの窓口があった。アルクが受付で手続きを進めると、驚くほど迅速に対応された。


「お待ちしておりました。すぐに担当者をお呼びします」


わずか数分後、中年の女性職員が現れた。温かな笑顔が印象的だ。


「ユナギさん、私が住居割当担当のエレナ・ジンです。こちらの個室でお話しましょう」


小さな会議室に案内され、席に着くと、エレナは半透明のデータパッドを取り出した。


「まず住所についてご説明します」


彼女はデータパッドから3D地図を表示させた。


「あなたの住居は『ノーザンテラス』と呼ばれる地区の3214号室です。ウィンターヘイブン区画の北東エリアで、比較的静かな住宅地です」


地図上で位置が強調表示される。行政センターからそれほど遠くなさそうな場所だ。


「この住居は基本的な1LDK構造ですが、特例市民支援プロトコルに基づき、ラゴモーフ系の生理的特性に合わせた改築を施しています」


エレナは住居の3Dモデルを表示した。


「特に浴室設備は専用のケア設備を導入し、天井高も標準より15%高く設計されています」


「ありがとうございます」


僕は感謝の気持ちを込めて言った。


「配慮していただいて」


「何か不便なことがあれば、いつでもご連絡ください。追加の改築も検討可能です」


エレナは微笑んだ。


「次に鍵と身分証についてですが、あなたには既に暫定IDが付与されています。これを正式な市民IDに統合するプロセスを今から行います」


彼女は小さな装置を取り出した。


「手のひらを上にして、この上に置いてください」


言われた通りにすると、装置が青く光り、僕の手のひらに暖かい感覚が広がった。数秒後、かすかな光の跡が手のひらの中心に残った。


「これがあなたの個人認証マークです。暫定IDのすべての情報が移行されました」


エレナは説明した。


「このマークは肉眼では72時間後には見えなくなりますが、認証システムでは常に読み取り可能です。住居のドアや公共施設、購入時の認証など、あらゆる場面で使用できます」


「これが…鍵なんですね」


僕は手のひらを見つめた。


「未来的だ…」


「正確には、あなた自身が鍵です」


エレナは笑った。


「住居のセキュリティシステムもこの認証に紐づけられています。玄関のパネルに手をかざすだけでセキュリティ設定ができます」


彼女は身振り手振りを交えながら操作方法を説明してくれた。基本的なジェスチャーで警戒レベルを変更したり、来訪者を許可したりできるらしい。


「AIパートナーのアルクさんも既にシステムに登録されています」


エレナはアルクの方を見た。


「あなたも同様の権限を持っています」


「ありがとうございます」


アルクは丁寧に頭を下げた。


「周辺施設については、アルクさんのデータベースに地域情報をアップロードしておきました」


エレナは続けた。


「何か特定の施設をお探しの際は、アルクさんに尋ねてください」


話は住居の管理や引っ越しの手続きに移った。将来的に違う区画や大きな住居に移りたい場合の手続き、必要なクレジットの目安なども詳しく説明された。


「そして重要なお知らせですが」


エレナは少し声のトーンを変えた。


「ノヴァスフィアの全市民に適用される『ホーム・バイオダイバーシティ・イニシアチブ』に基づき、住居での植物育成が強く推奨されています」


「植物育成?」


「はい。各家庭は少なくとも3種類の植物を育てることが期待されています。四半期ごとに査察があり、植物の健康状態に応じてグリーン・クレジットが付与されます」


エレナはデータパッドをスクロールした。


「あなたの住居にはベランダがあり、植物育成用の基本設備が整っています」


「それは…楽しそうですね」


僕は少し興味を持った。植物との親和性が高いという検査結果を思い出す。


「基本的な日用品や家具は既に用意されていますが、必要なものは適宜購入してください」


エレナは続けた。


「また、アルクさんが手配された荷物は既に住居に届いています」


さらに生活支援の説明が続いた。特例市民としての基本生活保障、各種クレジットの初期付与額、公共サービスの利用方法など、覚えきれないほどの情報が次々と提供される。


「何か質問はありますか?」


エレナは一連の説明を終えて尋ねた。

頭がいっぱいで、どこから質問していいのかわからない。アルクが助け舟を出してくれた。


「後日、不明点が出てきた場合の連絡先はどちらになりますか?」


「住居に関するすべての問い合わせは行政センターの住居管理課が窓口です」


エレナは連絡先情報を転送した。


「24時間体制で対応していますので、どんな小さな疑問でも遠慮なくご連絡ください」


最後に、住居の位置情報と基本的な操作マニュアルが入ったデータチップを受け取った。


「これで手続きは完了です」


エレナは立ち上がった。


「ユナギさん、ウィンターヘイブン区画での新生活が実り多きものになりますように」


「ありがとうございます」


僕は深く頭を下げた。


「ご親切に感謝します」


行政センターを出ると、心地よい疲労感と期待が入り混じった気持ちになった。一度にたくさんの情報を受け取り、頭がくらくらする。


「少し疲れたね」


僕は正直に言った。耳が少し下がっている。


「無理もありません」


アルクは優しく言った。


「今日は重要な一日でした。これから新居に向かいましょうか?」


「うん」


トランスポッドに乗り込み、「ノーザンテラス」へと向かう。窓の外の景色を見ながら、これからの生活に思いを馳せた。希少存在調査官としての道、そして新しい住まい。未知の可能性に満ちた日々が始まろうとしている。


「新しい始まりだね」


僕は小さく呟いた。


「はい」


アルクは穏やかに微笑んだ。

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