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第十三話「新たな可能性」

朝の光が窓から差し込み、僕はゆっくりと目を開けた。ホテル暮らし4日目の朝。もう少し寝ていたい気持ちもあったが、体はすっかり目覚めている。耳がぴくぴくと小刻みに動いて、朝の感覚を確かめている。

部屋の隅で、青灰色の光球が少し明るさを増した。


「おはようございます、ユナギ。よく眠れましたか?」


アルクの声が柔らかく響く。

僕は少し伸びをしながら答えた。


「うん、おはよう」


「なんだか変な夢を見たような…でも覚えてないな」


光の球体が変化し始め、徐々にアルクの人型の姿になっていく。最初は輪郭だけの光の形だったのが、次第に細部が形成され、最終的には昨日と同じ少年のような姿になった。


「夢の内容は記憶に残りにくいものです。特に深い睡眠から覚めた直後は」


アルクは微笑みながら言った。


「今日の予定は?」


「そうだなぁ…」


僕はベッドに腰掛けたまま考え込んだ。


「まだ具体的には決めてないけど…」


ふと、世間の動きが気になった。この4日間、ほとんど自分のことで頭がいっぱいだったが、外の世界のことも少し知っておきたい。


「あの、ニュースとか見られる?」


僕は朝の頭をクリアにしようと尋ねた。


「この世界でどんなことが起きてるのか、ちょっと知りたくて」


「もちろんです」


アルクは手を軽く動かした。


「現在のトレンドニュースをお見せします」


部屋の中央に、半透明のモニター画面が空中に浮かび上がった。「ノヴァスフィア・ニュースネットワーク」のロゴが表示され、続いてエメラルドグリーンのスーツを着た女性キャスターが映し出された。


「おはようございます。ノヴァスフィア暦382年3月10日、NNNモーニングニュースです。本日もトゥリア・レインがお伝えします」


彼女の声は明るく知的で、表情には自信が感じられる。画面の横には今日のトップニュースを示す立体映像が浮かんでいる。


「まず本日のトップニュースです。先週報告されていた失われた地球時代のアナログゲーム・コレクションの盗難事件に進展がありました。ワンダー・コレクターの迅速な捜査により、コレクション全点が無事発見され、テラ・メモリア・アーカイブに返還されました」


画面が切り替わり、木製の駒や色とりどりのカード、そして複雑な図面が印刷された厚紙のボードが次々と表示された。


「『ファントム・シンジケート』と呼ばれる芸術品密売組織の関与が明らかになったこの事件。彼らはコレクションを『ブラックエコー・オークション』と呼ばれる違法取引市場に出品する計画でした」


次の映像では、制服を着た人々が慎重に箱を運び出している様子が映し出される。彼らの胸元には「ワンダー・コレクター」を意味するエンブレムが光っていた。


「希少存在調査官、通称『ワンダー・コレクター』のアレックス・ヌールさんが率いる特別チームが、約300年前の貴重なゲームコレクションを無傷で回収することに成功しました。このコレクションには『チェス』『モノポリー』『カタン』など地球時代後期の代表的なゲーム約200種が含まれています。特に価値があるのは、これらが地球上の天然素材—実木や自然染料、地球特有の紙材質—で作られた真正のオリジナル品であることです。現代の複製技術では再現できない地球時代特有の風合いと質感を持つ歴史的遺物として、その価値は計り知れません」


「カタン…」


僕は思わず小さく呟いた。


「ああ、あれか…」


前世の記憶がはっきりと蘇ってきた。友人たちと休日の夜に集まって、テーブルを囲んでサイコロを振り、資源カードを交換し合っていた光景。誰かが港を建設したときの悔しさや、自分が長い道を完成させたときの達成感。それは確かな記憶だった。


「カタンで遊ばれたことがあるのですか?」


アルクが興味深そうに尋ねた。


「うん、あまり詳しくは覚えてないけど」


僕は少し考えながらも明るく答えた。


「友達と集まってよくやったような気がするんだ。資源を集めて交換して、どんどん拠点を広げていくんだよね。結構頭使うけど、駆け引きが面白くて」


「興味深いですね」

アルクの瞳が好奇心で輝いた。


「ユナギの記憶が少し蘇ったのですね」


「あと、将棋も…」


僕は懐かしさで微笑んだ。


「前にやったことがあるんだよね。そんなに強くなかったけど、友達と対局したりネットで対戦したりしてた」


「日本発祥の二人用盤上遊戯ですね」


アルクが言った。


「チェスの東洋版とも言われますが、駒を取ると自軍として使える『持ち駒』システムなど、独自の特徴を持っています」


「そう、その駒の取り合いが面白いんだよね」


具体的な記憶が次々と浮かんできた。


「最初は不利でも、取った駒をうまく使えば逆転できるし」


ニュースは続いていた。


「文化遺産保存委員会によれば、来月からセントラル区画の『地球遺産博物館』でこれらのゲームの特別展示が行われる予定です。また、教育目的でレプリカが製作され、インタラクティブ体験も可能になるとのことです」


僕は少し考え込みながら、ニュースを見続けた。


「ところで、このワンダー・コレクターって何なの?」


僕は画面に映る制服姿の人々を指さした。

アルクは少し姿勢を正して説明を始めた。


「正式名称は『希少存在調査官』ですが、『ワンダー・コレクター』という通称で広く知られています。彼らは突然変異した動植物、特異な芸術的価値を持つ物品、その他様々な希少で未知の存在を発見、調査、保護する専門家です」


「なるほど…」


「彼らの使命は大きく分けて三つあります。一つ目は生態系維持の冗長性を高めるための未知種・変異種の確保。二つ目は他惑星、他球体との交易のための価値ある物品の収集。そして三つ目は未発見の能力や現象の調査研究です」


「面白そうだね」


僕の耳が興味を示して少し前傾した。


「彼らは広範囲を移動し、時に危険な状況にも対処しながら活動します。また彼らの多くはAIパートナーと協力して業務を遂行しています」


アルクは少し誇らしげに説明した。


「それで、そのアナログゲームも彼らが見つけたんだ」


「その通りです。彼らは単に物を集めるだけでなく、その歴史的・文化的背景も調査し、適切な保存・活用方法を提案する役割も担っています」


ニュースではすでに別の話題に移っていたが、僕の心はワンダー・コレクターのことで一杯になっていた。広い世界を旅して、珍しいものを探す。それはなんだか、自分にぴったりな仕事のように思えた。


「アルク、この職業、かなり興味あるかも」


僕は率直に言った。


「未知のものを探索して発見するって、なんだかワクワクするよね」


「そうでしたか」


アルクの瞳が少し輝いた。


「確かにユナギの特性や関心と相性が良いかもしれませんね」


「適性検査って、そろそろ受けられるのかな?」


「はい、必要な準備期間は経過しています。ご希望であれば、早ければ明日にでも受験できるよう手配できます」


「本当?」


僕の耳が期待に跳ね上がった。


「じゃあ、明日にでも予約してもらえる?早く受けてみたいんだ」


「承知いたしました」


アルクが頷く。


「では、今日中に必要な手続きを行い、明日の午前中に適性検査センターへ行けるよう準備いたします」


「ありがとう!」


自分の将来について、少し具体的な方向性が見えてきたような気がした。まだ確定したわけじゃないけれど、可能性が広がる感覚は心地よい。


「そろそろ朝食にいたしませんか?」


アルクが提案した。


「そうだね、行こう」


僕は身支度を整え、アルクと共に部屋を出た。廊下を歩きながら、心の中では様々な可能性が広がっていた。希少な存在を探し求めて世界を旅する。その冒険の途中で、自分自身のことも少しずつ発見していけたら——。

朝食を食べに向かう僕の足取りは、これまでになく軽やかだった。耳も前向きに立ち、新たな一日への期待を表していた。

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