第4話 薄っぺらい人生
13段。
下から数えたときは確かに12段だった。
しかし実際に階段を上ってみると1段増えている。
どういうことだ。
「いるね」
呟いた保健室の先生の視線の先を見ると13段目に何かがいる。
灰色の煙のようにもやもやとしてはっきりとはわからないが、何かがいることはわかった。
「あの日、何があったか教えてくれる?」
そのもやもやに保健室の先生は話しかける。
もぞもぞ動いているが何も聞こえない。
だが保健室の先生には聞こえているのか、うんうんとうなづいている。
「なるほどね。
ここは元は普通の階段だった。
いつからか誰かが怪談を作ってそれが広まり現象となり、
作り話が事実となってしまった。
ここで怪談の通りに西日が差すときに13段目を増やしている。
ただそれだけの存在」
そして
「あの日の西日が差した瞬間。
ちょうど階段の13段目を出すタイミングで君が来てしまった。
つまづいたら危ないと思ってとっさに足をつかんでしまった。
でも思いのほか勢いがついていて、そのまま落ちて動かなくなって・・・
足をつかまなければ無事だったかもしれない。
余計なことをしてしまった。
ごめんなさい。
だってさ」
謝られてしまった。
助けようとしてくれたのに。
なんだよそれ。
自分が死んだ場所に立ち尽くす。
怪談と聞いて高揚したのに。
単にタイミングの悪い事故ときた。
結局、薄っぺらい人生だったんだな。
足をつかまれたわけではあるけれども、
普通の人から見れば最期は階段から落ちての事故死だ。
そもそも階段を下りてもいない。
階段の一歩手前で怪談に関わる一歩手前の事故死なのだ。
保健室の先生はもやもやにお礼を言うと、フゥッと息を吐き、静かに諭すように呟いた。
「君は自分の人生に突出したものが無く、薄っぺらいことに気づかぬうちに心が病み、
刺激を求めて無意識のうちに非日常に近づいている。
タイミングの悪い事故?
違う。
自分から巻き込まれに行ってるの。
そこは履き違えないで。
偶然じゃない。
だからあの日、あの瞬間に、あの階段にいた。
そして死んだ。
それだけの話。
ただ、ひとつ訂正するなら、
怪談に関わる一歩手前の事故死ではないよ。
あのもやもやも含めて13段目なの。
君は無意識ではあるけれども、13段目に関わって死んでいる。
ちゃんと怪談に巻き込まれてるよ。
これで少しは走馬灯がマシになったんじゃない?
ま、もう死んでるけれど」