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プロローグ 2

シャンデリアから降り注ぐ輝く光に照らされ一層、強く輝くダイヤ。勇者は、はにかみながら私の顔を見つめる。


「ぜひこの私と結婚していただけませんか?」


 ないない。そんなの有り得るわけない……。彼は綺麗なブロンドの髪で、青く澄んだ瞳をしている。何も知らない女性が勇者様にこんなシチュエーションで告白されたら感極まり簡単に恋に落ちてしまう。


 そして、そんなことは露知らず、国王をはじめとする騎士や公爵までもが、手を合わせ祝福しようとしていた。


 ――勇者は盗っ人。そんな些細な罪で彼を裁くつもりは無い。実は私は何年も前からこの日を長いこと待っていた。本当に長かった……。


 胸に手を当てると、ドクンドクンと心臓の鼓動が激しく脈打つ。拳を握りしめ、思い切って口を開いた。


「おふざけも程々になさってください。あなたのような最低な人間と結婚なんてありえません!」


 勇者は目を点にして私の顔をマジマジと見てくる。どうやら何を言われているのか理解できていないようなので、さらに私は続けることにした。


「あなたとの最初の出会いは五年前になります。あなたが、わざと私の大切な猫を馬車で轢いたのです。骨が折れ、泥と血にまみれた瀕死の猫を抱きながら、あなたに助けてと泣きつきました」


「それなのにあなたは私を蹴飛ばして『汚い村娘と野良猫なんてカンケーない。世界平和のために勇者様である俺は行かなくてはならないからな!』と痰を吐き、逃げるように私たちの前から走り去ったのです。勇者パーティーには回復薬の僧侶の方も見えましたが、勇者とイチャつき無視されました……」


 突然の私の発言に、彼は持っていた指輪をポトリと落としてしまう。


「は、はいっ!? 聖女様……何を仰られているのです?」


「それだけではありません。勇者は魔王討伐の道中、私だけでなく国民にも数々の非道をしたのです! こんなこと許されるはずがありません!」


 私は一歩踏み出すと、勇者の頬目掛けて、力一杯ビンタをおみまいした。


 静まり返った謁見の間にビンタの音が響いた。


 勇者の頬に紅葉マークが痛々しく浮かびあがり、彼は咄嗟に手で押さえる。そして一瞬何が起きたのか分からずキョトンとしていたが、事の重大さを理解したのか頭を抱え崩れ落ちた。


 そして耳を真っ赤にして弱々しい子犬のような目で恨めしそうに私を見てきた。自信満々の顔が一瞬にして戸惑いの表情へと変わっていく。


「ま……まさか……嘘だろ? あの時の小汚い娘がお前だったのか……」


 国王をはじめ家臣たちは呆気な取られこの一部始終を見ていた。みんなから尊敬される勇者の醜態を聞かされ口元を押さえる人もいる。


「勇者が魔王討伐の最中このようなことをしておったとは。さらにわしの恩人でもある聖女様にも手を挙げたとは。許せん」


 国王は椅子から立ち上がると、険しい顔になり、わなわなと拳を握りしめた。


 私はさらに追い詰める。


「この人は魔王を成敗した勇者では無いのです。実は魔王を討伐したのは私です。あちらに勇者の被害に遭われた方々も呼んでいます」


 そう、着替えだけに時間を取られたのではなく、騎士が報告に入ったあと、被害に遭われた方に城に来るようにと連絡を入れたせいで遅れたのだ……。私が指す方。この部屋のドア付近には10名ほどの被害者がイキリ立っていた。


「あいつだ。私に偽物の薬を売りつけた勇者。ノコノコあらわれやがって、お前のおかげで嫁が10日間も寝込むことになったんだぞ。どうしてくれるんだ」


「あの人です。私の家の外に干してた下着を盗んだんです。しかも私のおばあちゃんのパンツなのに! 変態よ。あの人は変態です」


「酒場でお金をカツアゲされました。みんなを守る勇者なんだから潔く出せと凄まれて……」


「あの人です。結婚詐欺にあいました。将来幸せにするから宿屋に泊まろうと言われて」


「うちの家宝を盗んだ不届き者め! 返されたピンクダイヤは偽物だったぞ」


 ハーデス公爵が、手に持つピンクダイヤを床のカーペットに投げつけた。


 みな一斉に声を上げて勇者を罵っている。鬱憤が爆発し今にも掴みかかってもおかしくないような状況となっていた。


 そんな様子を見ていた国王はついに堪忍袋の緒が切れた。


「この薄汚いドブネズミめ! 勇者の悪い噂はこの王宮まで届いておったわ。全て噂だと自分自身に言い聞かせておったが、それはどうやらワシの見当違いだったようじゃな。一度、事情聴取を行い、法の裁きを受けてもらわねばならぬわ!」


 眉間に深い縦皺を寄せた陛下は、騎士隊長に向けて右手をビュンと振り下ろす。それと同時に数名の騎士が、勇者を取り囲んで縄で押さえつけた。


「は? 俺が何をしたというんだ。なんなんだよ……何かの間違いだろおおおお。離せ、離してくれえええええええ」


 今にも泣き出しそうな勇者は騎士の手を振りほどこうとするが、もうどうすることも出来ない。私に振られ国民に罵られ意気消沈している所を、屈強な騎士たちに縄であっという間に縛りあげられてしまったからだ。そして足掻きながらもどこかへと連れていかれてしまった。


 私はその様子をただぼんやりと眺めていた。勇者の叫び声が聞こえなくなると、静かに瞼を閉じた。心臓の高鳴りが止まない。


 長かった。やっと終わった……。でも、なんだろうこの気持ち、全くスッキリしない……。

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