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十五話

「A級モンスターがなんでここに。こんなの魔王城の近辺にしか居ないようなやつだぞ」


 私は腰が抜け、前にいるハリソンは私の方を振り向くと涙目で脚をガクガクさせるが、脚を叩くと私の手を引っ張りあげる。


 「捕まれ!」


 ハリソンの手を掴むとお姫様抱っこして抱えあげてもらい赤い魔物から逃げる。少し走れば城下町の門が見えてきて、門番の騎士も大きな音に気づき、私たちを追いかけるサイクロプスを見るとその顔はみるみる青白くなり、槍を構え始めた。


 その隙に私達は城下町へと入る。早く救援を呼ばないとあの門番ではもたない。


「うわあああー」


 後ろを振り返ると、さっきの門番がサイクロプスに持ち上げられてバクっと食べられてしまった。


 いやぁぁぁーあああああー。その瞬間を見て私は壊れそうになる。


 あれは三年前、魔王軍がこのアップル王国に攻めこんできた時のこと。


 以前、城下町にある私の家に地震のような揺れが起こった。親がここにいなさい!というのも聞かず私は外に出て様子を興味本位で見に行った。


 そこには燃えるように真っ赤に染まる皮膚をもつ大男が、手にした巨大棍棒で家を破壊している姿があった。


 一つ目のその魔物は巨大な目で私を睨むと、棍棒を振り下ろした。

 

 目をつむると、ガシーンと音がして、お父さんが鉄の盾を構えて私を守ってくれていた。


 凶悪な魔物は何度も何度も盾めがけて武器をふりおろす。父親は若い頃は騎士だったけど、戦には行かずに兵士のご飯を作ってたらしい。


「メアリ早く! 早く逃げなさい。この街からお母さんと早く!」


「お父さんはっ!」


「私もあとから行く! 早くしなさい」


「嫌だ。お父さんも一緒に行かないなら、私も残る」


 人生で初めて父に頬を叩かれた。


「もう、もちそうもない。頼むから早くいきなさい」


 私は荷物をまとめたお母さんと手を繋いで逃げるようにしてこの街を離れた。それから三ヶ月が経ち、魔物が城下町から離れたと噂で聞いてからこの街に戻るともうお父さんの姿はなかった。生きているなら私たちの元に現れるはずなのに。


 まさに追いかけられているのはあの時のサイクロプスだと本能的に察知した。


 城下町に警報が鳴り響く。魔物が近づくと灯台から騎士が双眼鏡で確認後警報を鳴らし国民に警戒を呼びかける。


 次々と門から騎士が出てきて、サイクロプスに剣、弓、槍で攻撃を始める。


 私はポケットに手を入れてあの勇者がサイクロプスにやられて酷い目に合えばいいのにと願った。


 その時ドーンと音が鳴り響き、門の外に忘れられない吊り目の勇者が現れた。


「なんでアイツがここに?」


 まさか、このお守り、願った人を呼び出す魔法のアイテムなの?


「あー。クソッ。ここはどこだよ。なんで俺だけアップル王国に飛ばされてんだよったく」


 勇者パーティの馬車が現れ、外に降りた勇者がサイクロプスを眺める。


 お願いサイクロプス! 勇者をボコボコにして! 私はあの憎き勇者に殺されそうになったの。私の仇をうってよ!


 そんなことはお構い無しに、騎士は勇者へと助けを求め駆け寄る。


「助かりました。援護いたします。勇者様!」


 私は門のところでこのやり取りを眺めていた。


「ハッハッハ! 何を馬鹿なことを言ってんだ! 騎士は10人ほどだな。取り敢えずお前らが先に攻撃してこい! その後俺らが片付けるわ! その方が正義の味方っぽいだろ? 騎士が束になっても叶わなかったモンスターを勇者様がいとも簡単に片付けたって筋書きでいいんじゃないか?」


 そう言うと、勇者は馬車に戻り少し離れた場所で観戦し始めた。


「いけー! 早く行かないと魔法使いの炎で焼き殺すぞ!」


「こ、コイツ、ほんとに勇者か?」


 騎士は呆れた顔で仲間の騎士のとこに戻っていく。


「ファイアボール!」


 後ろからは魔法使いが騎士に向かいファイアボールで攻撃。前からはサイクロプスが棍棒を振り上げ騎士は挟まれて焼き殺され、殴り殺された。一人の騎士だけは門に向かって走ってきたが、次のファイアボールが放たれる。


「さてと! 余興は終わりだ」


 忌まわしき勇者は剣を取ると、サイクロプス目掛けて剣を投げた。1つ目に突き刺さり膝から崩れ落ちた。


 その後は、弱るサイクロプスをゲラゲラ笑いながら滅多刺しにする。


 見てられない。やっぱり頭のおかしい勇者。


 馬車に戻る勇者たちと目が合いハッとする。


「お前らここで見た事言ったら殺すからな」


「勇者アデルっ、子供なんてよしなさいよ。あなた前も殺してるじゃない」


「そうだったか?」


 私とハリソンはビクついていた。私は甘かった。今のうちに逃げるしかない。鞄から透明粉を取り出すと自分たちに振りかける。


「あー、クソッ、リンダお前のせいで取り逃しただろっ」


「何言ってんの! 他の騎士たちが来たからあんたを守ったのよ私が。感謝しなさいよ。子供の話なんて誰も聞かないと思うわよ。さっさと行くわよ。」


「それもそうだな」


 気が済んだのか馬車に戻り、北の方へ向かっていった。結局私は何も出来なかった。



 サイクロプスが父親の仇でトラウマになってたのもある。あの勇者の顔を見るだけで殺されかけた記憶が鮮明に蘇るのもあって、体がすくんでしまっている。


「メアリ大丈夫か?」


「あ、うん。さっきの悪魔の言ってた殺された人って私なんだ……」


 さらに他の騎士が何人もこっちにむかってくると子首を傾げている。


「これはなんだ! サイクロプスが攻めてきて、殴られて死んだなら分かるが、なんで火傷があるんだ? そこの君たち何か見てないか?」


「勇者が攻撃したんです。騎士に先に魔物を攻撃させて後ろから騎士目掛けてファイアボールを放ったの」


「俺も見てた。あいつはやばい」


「何言ってるんだ。夢でも見てたんじゃないのか? 勇者様がそんなことするわけないだろ。それにしてもサイクロプスも惨殺されているし、むごすぎる」


「恐らく誰か通りがかりの冒険者がやったんでしょ。君たち、ありがと。もういいわよ」


「だから勇者が……」


 そう言う私の口をハリソンは固く手を当てて塞ぐ。目でそれ以上言わない方がいいと首を横に振った。


「この国で勇者の悪口なんて言ったら、牢屋行きだぞ。気をつけた方がいい。話したいから俺の家に行くぞ」


「私もあなたに詳しく話したいことがあるの」


 こうして、ハリソンの家に行くことにした。ハリソンの家は城下町から草原地帯を抜けた先にあるまやかしの森に佇む赤い屋根の家だった。


「それじゃあ、作戦会議開きましょう」

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