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十三話

「うーん」


 しばらく聖女様の書かれた『熾烈を極めた冒険譚~エリクサーの素材編』を読んでいたのだが、あまりにも文章が難解で眠くなってしまう。

 しかも私は読書をするとお腹が痛くなる達で、慌ててトイレへ飛び込んだ。


 もうっ、誰なの! 最後に使ったのは紙がないじゃない……。


 仕方なしに鞄を開けて紙を取り出す。こういう時が来るかもと、いつも用意だけはしてる。


 魔王退治なんて出来るわけない。公園で出会った傲慢で殺意しか浮かばない勇者達が魔王を倒したら素材だけでも譲ってほしいけど。


 安直に考えても、あのキチガイ勇者がそんなことしてくれないのは重々承知している。


 無理だから諦めるしかないのかな。でも、聖女様はどうして私にこの本を薦めたのだろう。 


 トイレに篭ってる場合じゃない。図書館に戻ろう。


 今度はジャックの事助けてあげたい。私の番だってことは承知してる。本を読む前は、楽に素材を集めてエリクサーを完成させたら、石化したジャックに振りかければ元通りくらいの気持ちだったけど。そんな簡単にはいかないことが分かってきたのだ。


 くだらないジャックとの思い出が次々と思い浮んでくる。


 あれは去年の夏。山で遊んでいたら、かぶれの葉っぱを触ってしまい顔が柑橘系の皮みたいにブツブツにかぶれてクラスの女子にからかわれて笑われて馬鹿にされ、落ち込んでたら。


 ジャックはその足で学校を飛び出すと、山に入り、かぶれの葉っぱを私の事バカにした女子の顔に塗りたくってかぶらせるという暴挙にでた。私はもちろん止めに入ったんだけど。


 その後、バチが当たったのか、ジャックの手や顔までボロボロにかぶれた。最低なやり方ではあるけど、私のことを助けようとしてくれて嬉しかったんだ。


 今度は私の番だけど……さ。詰んでない? 誰も倒せない魔王を15歳の女の子が倒せるわけない。


 魔王を倒すのは、国で選ばれた勇者や賞金稼ぎ等の冒険者のする仕事で、誰が好んでそんな命を懸けてまで危険なことをしようとするの? 


 そんなことをぼーっと考えてたら、扉がガラッと開いて校長が気さくに手を振って入ってきた。


「メアリ、やってるわね。関心だわ。そうそうあなたに話したいことがあって」


 校長の目は穏やかで私は引き込まれてしまった。


「私だってあなたと同じ歳の頃もあったのよ。その時はよくあなたの座ってる机でたくさんの本を読んでたわ。隣でちゃかしに聖女マミが来てたけど無視することもあるくらい」


「ん?」


「誰だって最初から聖女や校長じゃないってことなの。子供の頃はあなたと同じなのよ。勘のいいあなたなら分かるわよね。期待してるわ。休みの日まで勉強ご苦労さま」

 

 そう。私は迷ってた。選ばれた人間じゃない人が頑張っても意味ないじゃないかって。でも誰もが最初から凄い人の訳が無い。そんな当たり前のことを気づかせてくれた。


 頭をひねるしかない。やってみよう。諦めてる場合じゃない。


 この都会の街なら冒険者が沢山いるはず。もしかしたら1人ぐらい手伝ってくれる人がいるかもしれない。私も校長や聖女様に負けないぐらいになれば同じ志を持つ人が現れてくれる。


 校長に頭を下げると学校の校門を抜け、商店街へと歩いていく。商売をしてる人なら冒険者について何か知っているかもしれない。


 野菜を売っているおじさんに声をかけてみた。


「あのっ…」


「お嬢ちゃん、うちの野菜を買ってくれるのかい?」


「いえ、冒険者の募集をしたいのですが、どこへ行けばいいんですか?」

 

 おじさんは私の身なりを見て、少し驚く。


「見たところ、制服から調合学校の生徒のように見えるけど、冒険にでも出かけるのかい? そんなことをするより子供は学校でお勉強しなきゃ」


「お願いです。知っていたら教えて頂けませんか?」


 目に力を入れて八百屋のおじさんを見つめる。


「理由は分からないが、君の目はいい目をしてる! 新鮮なトマティのように輝いて。まあ、冒険者登録所に行ってみたらどうかな。ここから右に行って少し歩いた武器屋の隣にあるはずだ」


「ありがとうございます。助かります」


 お礼を言い武器屋へと急いだ。一刻も早く冒険してくれる仲間を見つけて一緒に魔王退治にでかけなければならない。道中で、残りの素材を集めながら。


 でもそんな魔王を倒そうなんて気概のある人なんているんだろうか。


 冒険者登録所に向かうとカウンターにウエーブのかかったブロンドの女性受付嬢が立っていた。


「あのっ、冒険者の募集をしたいのですが」


「もしかしてあなたは冒険者になりたいの?」


 受付嬢はブラウスから見える谷間をチラチラ見せながら困った顔で返事をする。動く度に豊満な胸がぷるんぷるんと揺れていて思わず女の私でも頬が赤くなってしまう。


 凄いこんな胸があれば、簡単に冒険者仲間なんて集められるのかもしれない。ただ自分の胸元を見て少し凹んでしまう。


「いえ、私は調合師になりたいのです。そんなことよりもどうしたら仲間を集められますか?」


「まだ学生さんですよね? 冒険者になるには早いんじゃない? 卒業してからでも遅くはないと思いますよ」


「それでは間に合わないんです……」


 恐らく時間が経てば私とジャックの年齢差は大きくなってしまう。出来るだけ早く石化を解かないといけないの。


 受付嬢はこれまで事情を抱えた冒険者と関わることもあるせいかそれとなく察してくれた。


「分かったわ。そこにある掲示板にパーティー募集の張り紙をしたらどうかしら」


 何とかなるかもしれない。最強の剣豪とか、世界一の魔道士とかそんな仲間が集まればいいの。あの残虐な勇者パーティーに負けない仲間が集まれば。期待で胸が熱くなってきた。


「ありがとうございます! 早速書いてみます。魔王を倒すための仲間を募集します! これでいいのかな」


 ふと、受付嬢を見るとフフフッと口角を上げて笑っていた。そして人差し指を突き出して遠くの空を指す。


「夢は大きくよ! 私あなたの事、気に入ったわ。何かあれば相談に乗りましょう! 募集があればあなたに教えてあげるわ。ちなみにお嬢ちゃん何歳なの?」


「15です。何か問題でもありますか?」


「え……。悪いんだけれども撤回させて貰ってもいいかしら。その年齢で冒険者になるのは危険過ぎるし」


「そんなこと言われても、何歳なら良いんですか?」


「あと三年ぐらい経たないと厳しいかもしれないわ」


「それだと間に合わないんです。何とかなりませんか?」


「そうねー……この掲示板には18以上からしか貼れないけど……この道を左に真っ直ぐ行ったとこにハンバーガーショップがあって、そこは冒険者に人気のお店なの。そこに貼らせて貰えれば誰か来てくれるかもしれない。この事は内緒よ。でも無理だけは絶対にしちゃダメだからね!」


 受付嬢のお姉さんは心配そうな顔をしながら教えてくれた。掲示板からチラシを外すとそれを持って受付嬢に手を振り、ハンバーガーショップへと続く坂道を登っていく。

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