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十二話

 入学式の日に校長が校内を案内してくれたけど、この図書館だけは入ることないなって思ってた。


「かび臭い……」


 大体、本なんて普段読まないのだから、活字を読むだけでも眠たくなりそうだ。


 でも、そんなことは言ってられない。一日でも早くジャックを元に戻さないといけない。ある種、使命感みたいなものが私の中でフツフツと湧き上がっている。


 調合の本が並べられているコーナーを見つけると手当たり次第に聖女様の書かれた本を探していく。


 一際目立つピンクの背表紙が目に止まった。


「これだよね……『熾烈を極めた冒険譚~エリクサーの素材編』」


 ピンクの髪のお姉さんらしくて少し笑ってしまったけど、それを掴むと、机に向かい黙々とページを捲っていく。


 ――なるほどねー。目次を読み進めると、エリクサーの材料は全部で十種類必要だった。


 初級の冒険者でも集めやすい採取が比較的、簡単な薬草もあれば、危険な魔物が巣食う鉱山にある鉱石など。


 絶望的なのは、国王の選んだ勇者ですら、まだ攻略していない魔王を倒した時にドロップする『魔王の愛』と呼ばれるアイテム。


 ――ちょっと待ってよ! お姉さんどうやって集めたの? 脚の悪いお姉さんが……無理でしょ。


 不思議なのはあのお姉さんの治癒の力があれば自分の足くらい治せるはずなのに……なんで治さないの? もしかして治せない?


 そんなこと本人に聞かないと分かるわけもない。ただ、巨悪の根源である魔王を倒さないことにはいつまで経ってもジャックの命は救えないってことを思い知らされただけだった。


 ピンクの髪のお姉さんでも無理なのに私が魔王を倒せるわけがない。でもっ、ジャックのお母さんには助けると言ってしまった。


 あー、もうっ、こういう時は細かいこと考えてる場合じゃない。やるしかない!



 


――ピンクの髪のお姉さんの回想――



 

 もう50年以上前の話になってしまいますが、私が15の時、ウォレット山脈の水を汲みに行きました。城下町の家から30分ぐらい歩いたとこに水源があるのです。


 その山には魔物が住んでいましたが、その日は母も妹も流行病で私しか元気な人が居なかったので一人で向かいました。


 そんな時に限り、恐ろしい魔物が私の前に現れたのです。襲われそうな私を間一髪救ったのは、同じように水を汲みに来ていた私の初恋の男の子アキラでした。


 私を庇った彼は魔物の攻撃で石になり、私は命からがら逃げることができたのです。


 その時、石化の魔法が脚をかすりました。それで脚を少し引きずるようになってしまったんです。


 そして、男の子の石化を治そうと私は僧侶の弟子になって魔王退治のパーティーに加わったわ。魔力も何も持たないから、ただのお荷物要員でしかないし、脚が悪いから尚更、何の役にも立ちませんでした。


 でも、この勇者パーティーは計算ができる人がいなく、私が重宝されたのです。それは、ダンジョンに潜るための食材や武器防具の買い出しなどを担当したおかげで、パーティーから外されずに済みました。


 あとは冒険者になるための理由を話したら、


「君には勇者パーティに加わる素質がある。だって、困っている人を助けたいんだろ。その気持ちがあれば大歓迎さ」


 その時の勇者が慈愛に満ちた人だったのも運が良かったのかもしれません。私の話を真剣に聞いてくれたのですから。


 それから魔王を倒して『魔王の愛』というアイテムを手に入れたのはそれから30年後の話。私は何度もいくつかの勇者パーティーに入れて貰いながら、薬草や鉱物を研究して魔法と同じくらい強い効果のある調合薬の開発を繰り返していました。


 旅の途中でたまたま見つけた若返りの薬を服用して、何とかこの美貌を保っています。


 ようやく魔王を倒し、胸の昂りを抑えながら、エリクサーの調合を終えると、アキラに使ったのですが、残念ながら、彼は子供過ぎてもう現在の私とは釣り合わなくなってしまいました。


 恐らく石化の魔法は、時間までもを止める効果があるのでしょう。


 彼の幸せを願った私は、田舎の子供の居ない夫婦にアキラを預けたのは良いけど、記憶喪失で私のことを完全に忘れてるって知った時はショックで1年ぐらいベッドで寝込んでしまいました。


 50年後の世界に一人だけ、取り残された彼でした。私が行ったことは今でも正しかったのかわかりません。記憶がなかったことが1つの救いなのかもわからないです。


 何の因果か、その『ジャック』がメアリの好きな男子で、またしても魔物に石化にされるとは一体どういうことなのでしょう! 


 メアリには私みたいに人生を棒にふって欲しくありません。図書館で私のエリクサーの素材の本を読んでもらえば……。魔王の素材がいるとなれば普通は諦めるものなのですが。

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