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十一話

「待って!」


 魔物の倒れている素材の保管してある倉庫へとドレスの裾をたくしあげながら走る校長に手を引かれて私は走った。


 ほんとに実年齢70歳なの? 私より速いし。そうこうしているうちに、あの恐怖の象徴でもある魔物の姿が現れる。校長は一目見るなり、驚いた顔で私を見てくる。


「これは……魔王軍幹部『ブラックウイング』じゃないですか。よくもこんな魔物と遭遇してあなた生きてたわね。それに、三階の窓から落ちてもせいぜい五メートルぐらいしかないのにどうして死んでるのよ」


 そして校長はほんとに死んでるかどうか確かめるために、翼人の心臓の音を確かめようと、翼人の胸へと耳を近づけた。


「動いてない。困ったわね。この世界では石化なんて禁断の秘術で私の専門外なのよ。悔しいけどあの人に頼むしかなさそうね」


 あの人って聖女様のことかな。聖女様のお手伝いは毎週日曜日。いつも公園で待っているから、次に会えるのは二日後になってしまう。しかもどこに住んでいるのか知らない。


「校長は聖女様の居場所知りませんか?」


 私の質問に校長は、微笑みを返す。


「あの人は、自由な人だから、場所は誰にも特定出来ないわ。あと、聖女がそう易々と、騎士団に捕まるとは思えないし。彼女は変身の薬を持っているの。ちなみに私のこの姿、10代にしか見えないでしょうけど。彼女の薬を真似て使ってるのよ」


 ほっとしたのも束の間。地面に倒れていた魔物の手がピクリと動いたような気がした。


「あ、あの……動いてません?」


「え!」


 二人して顔を見合わせて青ざめる。気の所為ではない…。


 そうこうしていると、羽もばさっと開き、ブラックウイングは地面に手をついて立ち上がった。


「ふう! 片方の心臓が発作で今まで倒れていたが、年には勝てんな。……ん? お前たちは誰だ!」


 ギョロっとした目で私と校長を睨む魔物が突然、背中の刀を抜いて校長目掛けて、突然切りかかってきた。


 校長は軽やかなステップで振り下ろされた刀を避けると、すぐさま回し蹴りを魔物の腹にぶち込んだ。


「そんな攻撃効くわけが無いだろう」


 粉を払うように魔物はお腹を擦っている。


「メアリ、逃げなさい!」


 そう言って校長は脚を開くとスカートをたくし上げて、太ももにベルトで取り付けた聖なるナイフを持って構えた。


 二人の攻防を見てたら、腰が抜けて立てそうもない。ポケットに手を入れレオンさんから貰ったお守りを握りしめることしかできない。


 魔物と校長は激しい刀の打ち合いをくりひろげている。今の所、魔物の方が優勢のように見える。聖なるナイフは少しさびており、打ち合う度に、刃こぼれを起こす。ついには校長の刀身が真ん中から折れて空を飛んでいった。


 そして、魔物は校長の首に刀のやいばを当てた。


 ダメっ! その辺に落ちてた枝を拾うと私は魔物の後頭部目掛けて力いっぱい振った。


 細い枝はバキッと折れただけだった。


「次は貴様の番だから覚悟しとけ」


 何事も無かったかのように、魔物は平然と言い、私はペタンと後ろに手をついて座り込んでしまう。校長先生、私じゃどうすることもできない。


――こんな時聖女様がいてくれたら…… そう心の中で思ってたら。


 ポケットが光り始め、一筋の稲妻が空を割った。そうして私の目の前にそれは落ち、地面に魔法陣が浮かび上がる。


 そして、黒いシルエットが出現して、なんとそこには聖女様の姿があった。

 

「ここはどこ? あらあらメアリお久しぶりじゃないの! シチューを食べてたのにここは一体。あっ! その子を離しなさい!」


 聖女様は魔物に捕らわれた校長(10代の女の子に見える)を見て魔物に対して牽制し始めた。


 お姉さんが戦闘してるとこなんて見たことないけど戦えるんだろうか。どう考えても回復役だし。


 お姉さんは鞄からあれでもないこれでもないと慌てて何か袋を取り出した。


「さっきから邪魔ばかりしおって!」


 魔物はイキリたち、お姉さんに刀を振り上げる。次の瞬間お姉さんの姿が消えた。透明粉を使ったんだわ。


 瞬きすると、ドンドンドンと、三発音がして、魔物のお腹に矢が突き刺さっていた。


「終わったわね……疲れたわ」


 空中に衣を剥がすように手が見えて、お姉さんが現れた。


「お姉さんっ、大丈夫ですか」


「大丈夫ですよ! 透明マントを使ったのよ! これなら時間の制限もないわ。お嬢ちゃん大丈夫?」


「私よ。あんたに助けてもらわなくても良かったのに、一応礼はしとくけど、私はお子様じゃないわ。あんたのライバルのミッシェルよ」


「なんだ。ミッシェルなら助けなくても良かったわね」


 私は二人のやり取りを笑いながら見るしかなかった。


 その後、ジャックが石化した事などを伝えると聖女はしばらく考え込み。


「まずいわね。石化は呪いなの。下手に薬で治すと治した人が逆に石化されることもあるのよ。困ったわね。神の薬と呼ばれるエリクサーなら、その心配もないのだけれど。それを作るには今の私ではちょっと難しいわ」


 と、言い出した。すぐにでもジャックを元通りにしないといけないのに。


「お姉さんにも作れないものがあるのです?」


「メアリ。違うのよ。材料を集めないと作れないの。しかも入手難易度の高いものばかりよ。私は足が悪いから何もしてあげられそうにないわ」


 そう言っていつも自信のあるお姉さんが初めて弱音を吐いた。


「何とかなりませんか。私がお姉さんの足になれば……」


「もう一度聞くけど、石化したのはただの友達? だとしたら諦めた方が賢明よ。こんな素材集め無理に決まってるわ。もし行えば、これから先あなたは今まで経験したこと無いくらいの地獄を見ることになるの。それくらいこのエリクサーの素材集めは過酷で、厳しいものなの」


 お姉さんは、潤んだ目で申し訳なさそうに私を見つめる。


 隣にいる校長は、絶望的な顔をしているから、エリクサーなんて夢物語なのかもしれない。


「エリクサーの素材を集めた調合師の成れの果てをあなたは見たことある?」


「分かりません。まさか……」


「あなたの目の前にいるでしょ。悪いことは言わないから諦めた方がいいわ」


 心臓の鼓動が早まる。なによ。この感覚。胃が痛い。でもジャックはいつも私を助けてくれた。ただの友達なんかじゃない。今度は私が助けないと。そのためだったら何でもする覚悟はある。


「――それでも、私の大切な人なんです!」


 お姉さんは私の気持ちを汲んでくれて、その視線は遠くの宙にある。


「本当にどうなっても知らないわよ。教えてあげる。学校の図書館に行きなさい。そこに私が若い頃、書いたエリクサーの本があるから、それを参考にしなさい。あと、一人では無理よ。協力してくれる仲間を見つけながら探すこと。いいわね?」


 いつにもなく真剣な眼差しをするお姉さん。校長はそんな二人のやり取りを黙って見ている。


「はい。必ず助けてみせます」


「何か困ったことがあったらまた相談にのるわ。お手伝いは図書館で私の本を探すこと。いいわね。また来週会いましょう! ミッシェルもお元気で」


 手を振って帰っていくピンクの髪のお姉さんを見送る。


 校長は私の手を取り、ジャックの親御さんには私が説明するからと、言ってくれた。でも、私も一緒に行って謝ることにした。


 その日のうちにジャックのお母さんに話をすると、

「ジャックはメアリの王子様になりたいって小さい頃から私によく話してたわ。あなたの顔を見てたら怒れないじゃないの。それよりも、いい? メアリも私の娘みたいなものだから、危険なことはしてはダメよ。しばらくジャックと会えないのは寂しいけど、まだ死んでるわけじゃないから」


 と私に話してくれた。私にそんな優しい言葉をかけないでよ。ジャックのお母さんの言葉に涙が止まらなくなってしまい、そんな私をジャックのお母さんは抱きしめてくれて一緒にしばらく泣いてしまった。


「私が絶対にエリクサーを作って元に戻します」


 こんなんじゃダメっ。おばさんの顔を見上げてそう言い切った。おばさんは手で涙を拭うと少し微笑んでいた。


 ミッシェル校長もできるだけ協力すると頭を下げて馬車で学校に戻ってきた。


 ジャックの家は私の隣の家なので、顔を合わせるのが辛いだろうと思った校長は、その日から私を学校の寮に入れることにした。


 私は校長にお礼をいうと、すぐにエリクサーの素材を探そうと、図書館へ篭もり、聖女様の本を探すことにした。

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