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14.エルド捕獲

「エルドを二種、捕らえて来たぞ!」


 その日、ナターリエが飛竜騎士たちと共に魔獣の探索から帰って来たのと、ヒースたちが帰って来たのは、ほぼ同時だった。どうやら、ヒースたちはエルドを二種類捉えて、檻に入れて運んできたらしい。


「ナターリエ様、こちらは良いので、是非、ヒース様たちのところへ」


 一緒に飛竜の背に乗せてくれていたフロレンツにそう言われて、ナターリエは礼を言ってヒースたちのところへ走っていく。


「ヒース様」


「ああ、ナターリエ嬢。ちょうどよかった。早速なんだが、この二種の鑑定をお願い出来るかな? 似ているが、ちょっと違うんだ」


「はい、勿論です」


 飛竜から吊り下げていた檻を外して、飛竜を竜舎へ連れて行く騎士。檻を他の騎士たちが移動させる。


「ナターリエ様、どうぞ」


「ありがとうございます」


 檻を覗けば、小型のエルドがギィギィと鳴き、ガン、ガン、と檻に体当たりをする。ナターリエは少しばかりそれに驚いたが、指を向けて鑑定スキルを発動した。


(この子は、普通のエルド。スキルも特になし……それから、こちらのエルドは……)


 もう片方の檻を見る。そちらのエルドは、同じエルドでも体の文様が違う。なるほど、亜種かどうかがわからないというのは、そういうことかと思いながら鑑定をした。


「あれっ」


「どうした?」


「こちらのエルド……いえ、エルドかどうかもわからないんですが……わたしの鑑定では、見えません」


「どういうことだ?」


「わたしが不勉強だったのかしら。要するに、エルドに見えますが、エルドではないということですね」


「スキルなどは見えるのか?」


「スキルは、ええっと、おぼろげに見えます。存在の鑑定が曖昧なので、スキルも正しいのかは少し微妙なんですけど……外皮硬化。防御のスキルですね。ただ、古代種エルドに似ているけれど、エルドではない、つまり、亜種でもなく、新種なのだと思います」


 彼女を遠巻きに囲んでいた人々は、みな「おお」と感嘆の声をあげる。が、その後に「で、それってどういうこと?」となるのだが。


「これは、魔獣研究所にどちらも送って良いと思います……わああ!」


 ガン、ガン、と檻に体当たりをする、新種のエルド。


「あっ、あっ、外皮硬化して檻にぶつかるから、ちょっとこれ、危ないかもしれません! ほら、ちょっと檻が、傷ついていますし……」


 見れば、確かにナターリエが言うように、檻の内側、その新種のエルドがぶつかっている場所は傷がついている。


「シーザー!」


「はっ!」


 一人の騎士がヒースに呼ばれて前に出る。何かの魔法を唱えたようで、新種のエルドは、どう、と檻の中で横たって眠りにつく。


「まあ。魔法を使われるのですね?」


「あっ、はい。精神系の魔法を少しだけ。睡眠と、混乱を発生させられます。」


「すごいわ。魔術師ではなく、騎士なのに?」


「はい。そんなに威力もないですし……戦いにはあまり役に立ちませんが、こういう時にはお役に立てます」


 そう言って頭を下げるシーザー。


「ナターリエ嬢。外皮硬化は、どれくらい固くなって、どれぐらいの時間持続するかわかるか?」


「どれぐらい硬くなるのかはわかりません。もとの鱗の硬さがわかりませんし……ただ、持続は3分というところです」


「そうか。ならば、檻を二重にしておくぐらいで大丈夫かな……シーザー、睡眠はどれぐらいもつ?」


「15分ぐらい眠っていると思います」


「わかった。檻を二重にして、それから、調合して睡眠薬を投与する……ナターリエ嬢、ありがとう。助かった」


「いいえ。あの、この2種は、いつ研究所に?」


「明日だ。こちらの新種には、睡眠薬を連続投与することになるが……念のため、シーザーをつけて運ぼう」


「こちらのエルドはこのままですか?」


「そうだな」


「では、少し、見ていても良いでしょうか」


「? ああ?」


 ナターリエは「失礼します」と言って、パタパタと走っていった。




 新種の檻を二重にするため、騎士達が大掛かりにバタバタと動く中、ナターリエは黒い棒状の何かと、紙を持って戻って来る。


「ナターリエ嬢、それは?」


「これは、絵を描くための黒鉛です! 魔獣研究所に収容される前に、その姿をわたしも絵に描いておきたいと思って……」


「ほう?」


 飛竜に誰かが乗って、檻を持ち上げてさらに大きな檻に入れようとしている。その作業を後ろにして、ナターリエはもう一体のエルドの檻の前に座り込んだ。


「おとなしいですね。こちらのエルドは。もともと、気性がそう荒くないとは知っていますが……」


「ナターリエ嬢は、多才なのだな……」


 そう言って、ヒースは彼女が描くエルドの絵を覗いた。そして、なんとも言えない声で頷いて目を逸らす。


「……うん……」


「あっ、やめてください! わ、わたし、魔獣を近くでスケッチをするのが、その、夢だったんです……! 夢だったけど、その」


 あまりうまくない。わかっている。わかっているが、好きにさせて欲しい、とナターリエは唇を尖らせた。


「はは、は、そのぐらいがいい」


「え?」


「それ以上多才になられると、国一番の才女になってしまうだろうし、それはそのぐらいがいい」


 そう言ってヒースは笑った。ナターリエは「褒められていませんが、まあ、いいです」と更に唇を突き出す。やがて、竜を竜舎に入れてやってきたフロレンツにも


「何をしているのですか?」


と尋ねられて、絵を見られた。が、フロレンツは何も言わずに去っていった。無言であることは時に何よりも雄弁なのだ。




「お嬢様は、昔からあまり絵がうまくなられないですね」


「ユッテ、どうしてそう傷口に塩を塗ろうとするのかしら?」


 あれから、ヒース以外の騎士たちもナターリエのスケッチを見て、みな何とも言えない表情になってその場から去った。自分でもわかっている。そううまくはないのだと。だが、何よりも実際の魔獣、それも古代種を見て描いている。それが、ナターリエには嬉しかったのだ。


「飛竜もお描きになられたんですか?」


「飛竜はまだなのよ。あのね、竜舎にいると、全身が見えないでしょう?」


 確かに、竜舎は下半身部分が扉に覆われて見えなかったな、とナターリエとは別に竜舎を見学したユッテは思い出す。


「ああ、そうですね……」


「かといって、今はまだ、描かせて欲しいとは我儘を言えないので……飛竜も、檻に入れてもらえればいいんだけど、そういうわけにも……」


 エルドを描いた紙に、今度はインクで文字を書き込むナターリエ。魔獣の特徴などを細かく書き入れている。


「ヒース様には、これ以上多才になると国一番の才女になるって言われたわ。冗談でしょうけど」


「いえ、それは確かに」


「ええ? そんなことないでしょう?」


「でも、お嬢様、封じたとはいえ、スキル鑑定というスキルをお持ちだったのですし。そこに魔獣鑑定のスキルをお持ちになっては、確かに国一番と言われてもおかしくはないでしょう。スキルを持っているご令嬢の方が数が少ないのですし」


「ううーん、スキル以外の、勉学等で得られる才能がそんなにはないから、そうでもないのよね……」


 スキル鑑定士だった頃。要するに、第二王子の婚約者として、それなりの教育を受けた。だが、その教育も「そんなに」ナターリエには合ってはいなかった。それでも一通りは教育を受け、王城への登城の回数もそれなりにあったし、なんとか、ぎりぎり、第二王子の面子を保てるぐらいにはなった……とナターリエは思う。


 だが、自分よりも優れた令嬢はもっとたくさんいて。


「本当に、それに関しては第二王子には申し訳なかったのよね。それから、カタリナにも……」


 そうですね、とはさすがにユッテには言えない。だが、確かにそれは間違っていないのだ。今まで、第二王子が婚約者になっていて二ケ月後には結婚をしなければいけなかったのだが、婚約破棄をされてしまったわけで。


 そうなると、第二王子から婚約破棄をされた令嬢として、人々には見られる。勿論、魔獣鑑定士になった今は、第二王子との婚約も「スキル鑑定士だったからか」と人々にはバレているだろうが、それとこれとは話が違う。


 国を越えてまで、他の女と結婚しようとされてしまった、気の毒な令嬢。あるいは、そうまでしないと別れられなかった第二王子の方が同情を受けるかもしれない。居心地が少し悪かったグローレン子爵のパーティーでは、どちらの目線が多いのかをはっきりとはわからないままだったが。


 どちらにしても、ナターリエの相手はなかなかみつからない。そして、ナターリエの相手がなかなかみつからないということは、次女であるカタリナの婚期も……。


「あんなに可愛い子なのに、わたしのせいで……」


 と、それについては肩を落とさざるを得ない。が、「でも、わたしのことは関係なく、良い人がいたらわたしのことは放っておいて結婚して欲しいのよ」と言う。


「お嬢様は本当に魔獣研究所に勤めるのですか?」


「うう~ん、実はねぇ、そもそも、今魔獣研究所が求人を出していないのよね……これは、お父様やお母様には内緒だったんだけど……でも、これでこちらから古代種を運び込めば、人手が足りなくなるんじゃないかと思っているのよ」


「ああ、成程!」


「そもそも、魔獣鑑定士に合格した時点で、研究所からの引き抜きがくると思っていたんだけど、代わりにヒース様からお声がけをいただいてしまったし。でも、魔獣研究所に勤められれば、そのう、わたしが結婚をしなくても、まあ、その」


 なんとか世間体は保たれるか、とユッテに尋ねるナターリエ。それへ、ユッテは「うう~ん」と唸る。


「そうですね……カタリナ様が、先にご結婚をしても、まあ……」


 あるは、あるか。とはいえ、ユッテもただの女中であって、貴族のあれこれにそこまで精通をしているわけではない。よって、どうにも無責任なことを言うのは……と苦々しい表情だ。


「本当は、わたしのことなんて何も気にせずに、結婚して欲しいのよねぇ……」


「そうはおっしゃっても」


 貴族社会は難しい。ナターリエは溜息をつき、ユッテも溜息をついた。


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