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10.閑話

「ねぇ~ユッテ」


「はい」


 荷物をすっかり木箱から取り出し終えて、ユッテは木箱を片付けている。ナターリエはソファに座って本を――魔獣についてのものだ――を読みつつ、ユッテに尋ねた。


「どうしてヒース様には、婚約者がいらっしゃらないのかしらね……?」


「そうですねぇ。年齢も、もう奥様がいらしてもおかしくないですしね……辺境の地だから、でしょうか?」


 ヒースの年齢は26歳だと言う。その年齢で、あれほどパーティーで女性たちに囲まれていた彼ならば、婚約者がいない方がおかしい。


「ううん、でもね、この邸宅だったら何も困らなそうでしょう? そりゃあ、町はここからは少し遠くて買出しなどは大変かもしれないけれど、辺境といってもそこまででもないし。これぐらいの条件だったら、別にどんな女性でも問題ない気がするのよね……」


「そうですねぇ~。確かに、わたしが思い描いていたイメージよりも、ずっとずっと過ごしやすそうですし……」


「どうしてかしらね? ヒース様、思いを寄せている女性でもいらっしゃるのかしら?」


「それは、あるかもしれませんね……」


 ナターリエの想像の中では、もっと不便な場所。それこそ、邸宅にもこんなに人がおらず、物資の補給は半月に一度程度、食事はみなで炊き出しをして……そんなイメージだった。


 が、来てみたらどうだ。彼がいるこの辺境は「思ったより辺境ではない」のだ。森が深い場所にある別荘は広く、ぽっかりとそこは開けているし、近くに集落もある。少し距離はあるが、森を抜ければそれなりの町もある。この程度ならば困る貴族令嬢は……。


「いや、でも、まあまあいるかしら?」


 ころっと手の平を返して、ナターリエは呟くと、ソファの背もたれに体を預けた。


「それとも、ヒース様に何か問題があるのかしら……?」


 そう思ったが、直後「ないわ」と言って撤回をするナターリエ。


「ないかどうかはわかりませんが」


「不穏なことを言うのねぇ、ユッテ」


「だって、そう思わないと、あんなかっこよい方が婚約者もいらっしゃらないなんて考えられませんもの」


「わあ、ユッテが『かっこいい』認定をするなんて、なかなかないわね?」


 ナターリエが目を丸くすると、ユッテは何故か胸を張って「そうですとも」と冗談めかして言う。しかし、その後に肩を落とした。


「ただ、そのぅ、ここまで飛竜で来ることを考えたら、やはり僻地は僻地だなぁとは思いますね……馬車でしたらどれほど時間がかかったのかと思います。かといって、飛竜に乗れてラッキーとまでは思えないのですが……」


「ええ~? 空の旅、楽しかったけど、ユッテはお気に召さなかったのねぇ」


「もう二度と御免ですよ……ああ、いや、帰りにもう一度乗るのでしょうか……」


 そう言ってユッテは嫌そうな表情をナターリエに見せて溜息をついた。ナターリエは「ユッテに満足してもらえなくて残念だわ」と、まるで自分がホストのように言った。


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