宇宙屋形船「かわずおとし」再発進
とてつもなく遅くなりました。
忘れていたワケではありません。
なんとか前に進めました。
9.宇宙屋形船「かわずおとし」再発進
幕府博物館は閉鎖して、ヤーホン国対策の本拠地となっていた。修行から戻って館内のホールに入った小百合と佳の目の前では、もはや顔見知りとなったゲーン教授の教え子であるエドー帝大の学生たちが徹甲弾の増産を進めていた。
そして、こちらの世界に戻った小百合と佳は状況を確認に館内に入った。宇宙屋形船「かわずおとし」には底部中央に大きな穴が開いていた。
「ゲーン博士、これはなんだい?」
小百合が穴の近くにいた、いつもどおりまるで解体職人のような黒の腹掛けと股引きののゲーン博士に聞く。
「大きな爆弾が欲しいって言ってたろ、副将軍。ここにあの爆弾船を取り付けるんだ」
ゲーンが顔で差した所には「かわずおとし」の1/3程の、漁船のような姿の小型宇宙船があり、ロック博士がなにやら作業をしていた。
「ゴーン親方が隠し持っていた宇宙船だ。あれにたらふく爆弾を積んでやるから敵の本拠地に落すか、置いて起爆させてきてくれ……半径500mくらいは綺麗に爆破解体出来るぜ。コクピットに乗れば操縦は出来るしエンジンも快調だから、分離して戦闘機代わりにも使えるぞ、速いから。なにせ元々海賊船だからな」
「私に爆弾に乗れって言うのか?」
「くっつけりゃ『かわずおとし』も爆弾だけどな」
「乗ったら私たちも爆弾だナ」
「やめろ佳、私はまだ死にたくないぞ」
蛇沼博士とタニー博士はあの巨大ヘビ型宇宙船からデータを抜き取るプログラムを作っていた。宇宙船の自動航海プログラム等のデータから相手の本拠地を探るのだ。あのヘビ宇宙船に住んで制御プログラムを覚えた蛇沼博士が相手側のデータ抜き取りプログラムを。タニー博士が幕府OSへの変換をするようだ。コネクタはワニの兵士を分解すれば蛇沼博士が作れるらしい。
エイドリアン城の治療所ではまだゲス夫が床で療養していた。話せて、体を起こす程度までは回復していたが、一週間後となったヤーホン国奪還作戦にはどうしても参加したいと言う。
「無理だ。連れてはいけない」
小百合が言う。流石にあと一週間では作戦に参加するのは無理だろう。
「しかし、国王やケロット姫を参加させるワケにはいきません。他の従者に転送魔法を使えるものはいないし、私が行くしかないですから」
「それはそうだが……ならば行くのを延期するか」
「これ以上奴らに好き勝手させるワケには。もはや国の再興はならずとも、いつか我々が帰る場所は残さねばならぬのです」
「わかった、あと一週間ある、出来るだけ養生に努めてくれ」
「はい」
夜は小百合たちの書斎でちゃぶ台を囲んで小百合と佳、大地、レイヤー姫、こっちのゲスオと作戦会議を繰り返す。
「残りの大型はウミイグアナ兵士一匹だから問題ない。あとはどの程度他の地域にワニ兵士が散らばったかだが……」
「突然敵が来る心配が無ければ、ゲス夫さんやケロット姫、国王の力を借りてこちらから救助の名目を立てて、宇宙巡視艇を派遣しましょう。等身大のワニの兵士ぐらいなら人的被害なく討伐可能でしょう。その後も定期的に派遣する形にすれば良い。全部消えれば農地や工場を進出させてヤーホン王国再建に力を貸すのも……」
小百合の言葉に続いて大地が言う。ただし、それはあくまで敵の本拠地を潰してからだ。
(まあ、宇宙巡視艇からならワニの兵士の討伐は可能だろう。大型のもそうだけど、間違うと人的被害が出てしまうからな。巨大な侍ロボでもあれば良いのだが…)
などと小百合は脳内でポンコツっぽい50mの侍ロボを動かしていた。
「データを取って位置を確定したとして、そんな大きな宇宙船を作る技術のある敵の本拠地がどれほどのものか。今回はヤーホン王国奪還に集中したほうが……」
こっちのゲスオが言う。まあ当然なのだが、それではまたあのヘビ型宇宙船が飛来するかもしれない。
「どちらにせよ様子を見ないとナ」
「早くしないとこちらの世界も私たちの世界にもあのヘビ型宇宙船が降って来るかもしれないので、なんとかしておきたいのだがな。見つかれば行くだけ行ってくるよ」
「それにしても情報が足りないわね。せめて通信が繋がれば……」
戦術・戦略に強いレイヤー姫でも現状の情報量では敵の本拠地での戦いは難題すぎる。結局は現場でのぶっつけ本番なのだ。小百合と佳のふたり次第。
一週間後、全ての作業を終えた宇宙屋形船「かわずおとし」が旅立つ日が来た。
「いきたくない~、絶対私が死ぬパターンだ」
ソラが幕府博物館内部の柱に抱き着いていた。結局今回もこの忍者はお目付け役として作戦に参加するのである。諸行無常。
「ゲス夫、大丈夫か?」
「問題ありません、小百合さま。でも姫も行くとは……」
ゲス夫は歩ける程度には回復したが、結局は向こうの世界でゲス夫になにかあった場合の保険としてケロット姫も乗船メンバーとなった。ゲス夫の横で頭を下げるケロット姫を見て、最低彼女だけは無事に返さないと、と思う小百合であった。
宇宙屋形船「かわずおとし」は屋形船の底部に漁船が綺麗に接続されていた。「かわずおとし」を支えていた台には乗らず、床にピットを掘る形で固定されていた。「第四どつく」のような形である。ピットの真ん中にはさらに人ふたりがやっと入れる程度の穴があり、そこでゲス夫が船を持つ形での出航となる。
セーラー服にスパッツ、そして例の特製アームカバーとニーハイソックスを来た小百合と佳はいやがるソラの首に縄をつけてタラップから船内に入った。厨房を抜けてコクピットに入ると小百合と佳の席に人がいた。こっちのゲス夫とケロ太……、ケロ太こと柳谷飛人ことケロタ・ヤナギ。小百合が通っていた格闘ジムの会長にして小百合の思い人……
「会長……ケロ太も来ていたのか」
「ああ、ちょっと休みに異世界の旅とかいこうと思ってな。後ろに姫もいるぜ」
「「姫?」」
小百合と佳が振り返ると艦長席にレイヤー姫が十二単を纏って笑いながら座っていた。
「結局、軍師をやろうとしても相手が分からないと困るから、ちょっとの間「かわずおとし」を返して貰うわ」
「それは願ったりかなったりですが、仕事のほうは……」
「ちゃんと有給申請出したし、有能な将軍がカバーしてくれるわ。なんなら帰ってきたら、ヒマな非常勤副将軍様に事務仕事をたのめば……」
「手伝うしかないナ。」
大老として実質幕府の実務の筆頭であるレイヤー姫とゲスオを連れて行くのは将軍である弟、大地に申し訳ないと思いつつ、とても心強い話である。もちろん向こうでのデータ回収作業のために蛇沼博士も同行する。
「よし、準備完了した!発進だ!!いつでもやってくれ!!!」
小百合が見えない船底に向かって声をかける。ピットの底にいたゲス夫とケロット姫の目が七色に輝く。船の廻りではゲーン博士やタニー博士、ロック博士、改装と砲弾を手伝っていた学生たち、そしていつの間にか将軍の大地も花束を持って見送りに来ていた。
皆が手を振る中、七色の光は大きくなり、そして一瞬にして幕府博物館から「かわずおとし」は消えた。
「無事に帰ってくるかな、あいつら」
手を止めたゲーン博士がポツリと言う。
「大丈夫、おねえちゃんは強いから」
宇宙屋形船「かわずおとし」はまたあの大きな川の近くに現れた。それと同時に土手になっている草むらに佳がちょうちんレーザーを放つ。二本足のワニのロボット兵が数体現れたのだ。
「ソラ、ゲス夫と姫を回収しろ、佳、二人でワニを始末する!」
そう言うと、小百合はナックル部にエドー星の刀匠が打った刃を追加した佳特製のオープンフィンガーグローブを着け、佳はいつもの日本刀を持って船から降りた。レーザーはゲスオが担当となり、ケロタも日本刀を持って下に降りる。
「おら、やっと再戦だな!」
小百合のストレートがワニ兵士に顔面に入った瞬間、ワニの兵士の頭は粉砕した。比喩でなく完璧な粉砕だ。次のワニは左フックで飛んだ。10m程飛んで土手に落ちたワニは上半身と下半身が無残に離れていた。
佳は佳で、全て一刀でワニの頭をはねる。それどころかひと斬撃で二頭のワニを切り刻む。その速度は小百合が仕留める数と変わらない。剣も幕府では最強と言われるケロタだが、佳の動きには息を飲む。
無事にゲス夫とケロット姫を回収し、ものの数分で土手に現れたワニ、八十匹がスクラップとなった。小百合たちは破損の少ない三匹のワニを捕獲した。捕獲したワニは分解されて蛇沼博士がデータ改修用のコネクタの作成に入った。
なお、改修により「かわずおとし」の宴会場の掘り炬燵には全てシートベルトが装着された。戦闘中はソラ、ゲス夫、ケロット姫は宴会場にいるコトとなった。
そのままの勢いで「かわずおとし」はヤーホン城へ向かう。途中に出たワニの兵士は全てちょうちんレーザーで切り刻む。
ヤーホン城の横にはあの50mの巨大ウミイグアナの兵士が二本足で立っていた。ヤーホン城の緑に覆われた奇抜な半円球の建物は、破壊はされておらず健在だった。
「主砲、徹甲弾三発装填。コントロール貰う。発射!」
小百合がジョイスティック化されているコントローラで撃つ。前回焼けた鉄の頭部に徹甲弾三発が直撃。通常弾を使うコトもなくウミイグアナは倒れて機能停止した。
「着陸します。同時に小百合さん佳さんは城内に突入、中のワニを全部叩いて。我々はレーザーで地上のワニを排除します」
レイヤー姫の指示で「かわずおとし」はレーザーを放ちながら降下した。機関室から船底につけた爆弾……小型宇宙船へアクセスできるようになったので小百合と佳はそこから降りて前庭の芝生を走り城内を目指す。
ケロタがコントロールするちょうちんレーザーで援護された小百合と佳は無事にヤーホン上の特徴的な半円を連なる螺旋階段を佳が登り、小百合が降りて行く。もはや住民はいないとわかっているが、ワニの兵士は全て破壊するのだ。
三十分程で近辺にいたワニの兵士の破壊は終わった。二日がかりで城の前庭に、城の中で殺されたヤーホンの人々を埋葬をした。
「こんな簡易な形ですまぬ。できるだけ早く戻って来て、ちゃんと弔いの儀を行うから」
ゲス夫が号泣しながら言うと同時に、ケロット姫が大地から渡された花束を置き、皆で手を合わせた。しかし、亡骸があるのはここだけではないのだ。早くこの世界から脅威を排除する必要がある。小百合は奥歯を噛み締めながら空を見上げた。
さて、いよいよ次回は久々の宇宙です、多分。
「俺とやっばいドラゴンの異世界最速理論」のほうもよろしくお願いいたします!
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