世界は案外狭い、異世界を跨いでも案外狭い
名刺をもらったら名刺を渡しましょうな回です。
残念ながら今回はバトルがないとても平和な回です。
でも、悪気のない残酷ばかりの回なのかもしれません。
前作:スペースおいらん騒動 ~忍者vsメイド~ もよろしく!
https://ncode.syosetu.com/n2329hr/
6.世界は案外狭い、異世界を跨いでも案外狭い
「日本の会社の名刺?あ、私は助川小百合、こっちは角田佳って言うんだ、よろしく……爺さん、このヘビや機械の兵士はあんたが作ったものなのか?」
小百合はあたりを見回しながら言う。ヘビの頭の位置と思われるその部屋には大きなモニターと未来の制御機械らしきものがずらりと並んであった。ただ椅子のようなものはなく、分解したワニの兵士と修理工具らしき箱が床に転がっていた。炊事したような跡もある。
「いや、私のものではない。昔、空から落ちて来たのだ。働いていた研究所の家族寮で拉致され、捨てられて、このジャングルを彷徨っていた時に空から落ちて来たものだ。着の身・着のままで彷徨っていた時に落ちて来た、この宇宙船らしきものでもう二十年近く暮らしていたのだよ」
「拉致されて、捨てられた?誰に?!」
「二本足で歩く、人間よりも少し小さいカエルにだ。家族寮で七色の光を浴びて、気付いたら半球型の大きな建物の中にいた。ヒゲを生やしたカエルを中心に何匹かの二本足のカエルにギャアギャアと騒がれる中、日本語を話すカエルに『救世主さまですか?』などと尋ねられ、違うと言ったらいきなり腕を縛られて地下牢みたいな所に入れられ、数日後には建物の外に放り出されたんだ」
「なんだって、アイツら……」
「必死に立ってなんとか逃げて、途中で岩に腕の縄を擦りつけて外し、ジャングルを彷徨うコトになった。数週間程すると大きな飛行物体が川の上流に飛んで行ったのが見えた。助けが来たのかと思ったら、この巨大なヘビ型の宇宙船らしきものが壊れて落ちていたんだ。恐る恐る中を調べるとワニ助……あの機械のワニだが、あれが並んでおり、エレベーターは生きていたものの中は無人だった。この宇宙船は多分、色々な惑星に無人で機械の兵士を送り込む装置だったのだろう。ここにはカエルが近寄って来るコトがなかったので、私はこの船で生活するコトにしたのだ」
「それで二十年も?」
「ああ、昔読んだサバイバル生活のマンガを思い出して、釣りをしたり網を仕掛けたりして獲った魚と草を食べて生きて来た。家探ししたら工具もあったのでヒマつぶしに色々と修理らしきコトをしてみた。元々、仕事で博物館や遊園地などに展示する爬虫類のロボットを開発していたから、地球の技術とそれほど変わらないココの機械はなんとなく構造が分かってきたんだ。最近なんか格納装置のユニットを何個か修理したら、ワニ助が何匹も動き出して外に散らばっていったぞ、防犯には最適だろう。でも……。」
「でも?」
「ずっと嫁や娘と会いたくて泣いて暮らす日々だったよ。爬虫類好きだった娘を喜ばすために大学の研究助手を辞めて、民間の展示ロボット開発会社で働きだしたらこれだ。当時八歳だった娘も、もう二十八くらいになるハズだ。親戚も少なかったので、嫁だけで娘を育てられたのか、大学には行ったのか、嫁には出せたのかと心配で……」
話を聞いていた佳がセーラー服の胸ポケットから紙切れを取り出して、蛇沼という老人に渡した。
「ひょっとしたら、娘さんは祥子って名前じゃないかナ?」
佳が渡したのはゲス夫とケロ太を買った、爬虫類ばかりのペットショップ『爬虫類の沼 代表取締役社長 蛇沼祥子』と書かれた名刺だった。
「祥子、元気だったのか、祥子ォォォ!!」
蛇沼という老人は名刺を両手で持ち、号泣した。世界は案外狭い、いや異世界まで範囲を広げてもそういう狭さは変わらないのかも知れない。小百合も佳も少し目が潤んだ。まあ、絶対にその祥子さんとは限らないが、そうそう爬虫類好きの蛇沼祥子さんはいないだろう。
「この名刺はいったい?」
「つい最近にこのペットショップでカエルを買ったんだ、いい店長さんだったよ。ただ、買ったカエルがアンタを拉致したのが小さく化けたヤツだったみたいでな」
小百合が答える。
「え、じゃあ、あなたたちも拉致されて?」
「ああ、ただ私たちは色々あって、まあ救世主扱いのままココにいる。前に別の世界にも拉致されて、そっちでも救世主みたいなモンになっていたし」
「なんにしろ、日本の方に会えて良かった。私が日本に帰る術はあるのでしょうか?」
「ああ、大丈夫だ。でも、もしかしたら何か手伝ってもらうコトも」
「もちろん私に出来るコトがあれば。まあ、電気・電子工作くらいしか出来ませんが」
「困っているコトがある。あんたが放ったワニの兵士があのカエルたちを虐殺していて」
「虐殺?」
「ああ、ここまで来る途中に見たカエルの村は皆、全滅だ。悪いカエルもいただろうが、子供も、赤子のカエルも殺されていた。まずはあれを止めたい」
「そんな遠くで子供まで……それは私の責任です」
蛇沼という老人はガックリと膝から崩れ落ちてうなだれた。
「まあ、アンタは電源入れただけだしな。でも、なんとか残りのワニも止めたい。ここから簡単に出来るか?」
「いや、この二十年であのワニの制御も制御言語もだいたい分ったのですが、基本的には交代に見回りを出して、何かあれば笛を吹いて集まり、味方以外に剣を振り下ろすだけのロジックが仕込まれているだけです。遠隔操作ではなく、スタ……」
「スタンドアローンか。やっぱりか。まあいい、ワニは何匹外に出たと思う」
「私の把握しているのは80匹です」
「佳の数えた数と同じか。まあ残り15匹くらいならば私と佳でなんとかなるか。とりあえずついて来てくれ、後は私たちの船で話そう」
そう言って三人でエレベーターを降り、ヘビのとぐろを時計方向に歩いて外に出た。途中からは蛇沼老人が疲れたため、佳が肩を貸して歩いた。
疲れた蛇沼老人をなんとか宇宙屋形船「かわずおとし」に載せると、宴会場のいつもの端の席にいたゲス夫とケロ太の顔色が変わった。蛇沼老人もカエルを見るとガクガクと震えて佳の後ろに隠れようとした。佳が「大丈夫」と蛇沼老人をなだめ、ソラにコーラとお菓子のアル〇ォートを持ってこさせた。久しぶりの元の世界の味(いや出したのはMADE IN エドー星なのだが)に蛇沼は涙して、おかわりまでして食べた。そして食べた後に……。
DOGEZA……土下座。日本に伝わる最大の謝罪形態。五体投地が伝わる前から行われていたその作法は、どうやらこの世界でも同じだったらしい。
小百合は宴会場の舞台の真ん中に置かれた、魔亜紗瑠と書かれた三味線アンプの上に足を組んで、戦隊ものの尋問する女幹部のごとく座っていた。佳はまた書記としてパワポセットの椅子に座り、机上のノートPCの親指多用型配列なキーボードを操作していた。
その二人に向かって舞台下の畳でゲス夫とケロ太、二匹のカエルが震えながら土下座していた。
「お前ら、何してやがった。拉致して捨てる?しかも、私たちの世界の人間のこんな老人を。私たちがヘビの中に入るのを執拗にゲス夫が止めたのもこのためか?」
「申し訳ありません、初めての転送だったので、あなたたちの世界の人の飼い方がわからず、捨てるしかないと……」
「飼うってなんだよ、飼うって、飼い方って。ペットショップで買ったカエルじゃねぇんだからよ!だいたいそんなコトしておいて、よく私らの世界から私らを拉致して来たな!!」
「今度は本当のヤーホン国の危機だったため、どうしてもあなた達のような救世主が……」
「今度はって、この老人を連れて来た時はどうだったんだよ、遊びか、遊びで異世界に連れて来たって言うのか」
「そ、それは……」
言葉に詰まったゲス夫はいよいよぶるぶると大きく震え出した。
「わ、私が悪いのです、オパック卿のせいではございません」
か細い少女のような涙声がした。ケロ太の口から……。
「姫、いけません、声を出されては……話してはいけません!」
ゲス夫が必死に言う。だがもう全て遅いのだ。
「ケロ太、お前、メ……女だったのか?そしてヤーホン国の姫なのか?」
「はい、あの男性をここに連れて来たのは私なのです。私が勝手にやったコトでオパック卿のせいではないのです」
ケロ太、いやケロット・ターコイズがそういう。横で土下座するゲス夫ことゲスター・オパックの瞳からは涙が溢れて畳に染みを作っていた。
「子供だった私はオパック卿から魔法を習っておりました。そんな時に異世界へ体を転送する『転送の翡翠』が城にあるコトを聞き、無理やりオパック卿を連れて転送を。そして平和で文明の進んだあなたたちの世界を見つけたのです。何度も通ううちに言葉も覚えて」
「私たちの世界がここに比べて平和……か」
「そして、私が勝手に、一人で初めて転送していた日、あの男性の娘さんに捕まったのです。いつも見つからないように小さく、あなたたちの世界のカエルの姿に変身していたのですが」
「まあ、爬虫類も両生類も好きそうな感じだったが。それから?」
「すぐに逃げて転送して帰ったのですが、私は父上に転送で帰って来たのを見られ、大変に怒られました。それで、つい伝説の救世主を見つけたと嘘をついてしまい、仕方なくあの男性を……」
「拉致してきて、救世主でもなんでもないコトがバレて、叩きだしてか」
「はい、まったく申し訳ありません」
「まあ、話はわかった。勝手に拉致して捨てて、蛇沼老人にも、多分その妻子や近辺の人にも多大な迷惑をかけたのは自戒してくれ。蛇沼老人もどうなるか知らなかったとはいえ、ワニの兵士を外に出した責任はある。どちらも恨みつらみは消えないだろうが、私に免じてお互いを許しては貰えないだろうか。」
『ははぁ』
カエルの二人と蛇沼老人は小百合と佳に向かって深く頭を下げた。
「とりあえず、ヤーホン城の地下にいる王たち生き残りを一旦エドー星に連れて行く。それから残り15匹のワニの兵士を破壊してだな、あと……」
「あと?」
宴会場の端で話を聞いていたソラが声を出す。ソラはワニの兵士の処分で話が終わると思っていた。いや、小百合と同程度の思考回路を持つ佳以外は皆そう思っていたのだ。
「あのヘビ型無人宇宙船をバラ撒いているヤツがこの世界のどこかにいるハズだ。宇宙船のデータをなんとか解析して、そいつらを叩かないとイカン」
「いや、カエルの方たちには他の世界のエドー星とやらで暮らしてもらえば良いのでは?」
蛇沼老人が小百合に言う。
「あのワニが『アメズーンテイコクサイキョー!』って叫んでいた時があったけど、それはあんたがプログラムしたワケじゃないよな」
「ええ、そんなプログラムは……あ、まさか!」
「ヘビ型無人宇宙船をバラ撒いているヤツは、本当はどこかの世界の日本語を使う人たちを狙っているんだよ。ここの世界とか他の世界の話かもしれないけど、私たちの世界の日本や、エドー星のある世界の銀河幕府を狙っている可能性もある。そいつを確かめないと頭を高くして寝られないだろう?!」
「なるほど、宇宙船のデータ解析は私の仕事ですね。でも宇宙へはどうやって……」
「この船は宇宙屋形船だ。それもとある銀河では最速の。そしてまだ奥の手も……」
そう言うと小百合は佳と向き合ってお互いにニヤリと笑う。
「ところで……」
蛇沼老人がとても必死な顔で言う。
「なにか?」
小百合が聞く。あのヘビ型無人宇宙船になにかとてつもない秘密でもあるのだろうかと小百合も他の面子も少し震える。
「私、これでも五十前なんで、爺さんとか老人と言われるのはちょっと心外なのですが」
聞いていた皆がズッコケた。
「逆算すると二十歳くらいで出来ちゃった学生結婚か、やるナ」
佳がニヤつきながら蛇沼老人?に言う。
「あ、ああ、大変な二十年をここで過ごされて……失礼いたしました。で、何と呼べば」
「いや、じゃあ一応は工学博士なので、蛇沼博士でお願いいたします」
「では、皆の衆、今後は蛇沼博士で。あ、ええと……なんだっけ、ああ、ケロット、ケロット姫はケロット姫で良いでしょうか?」
小百合は思い出したようにケロ太……ケロット姫に聞く。
「はい、別にケロ太でもかまいませんが」
「いえいえ、では皆の衆、ケロ太は今後、ケロット姫で!では出航準備だ、ソラ、下にくっついているカメレオンの舌、剥がしてきて!!」
(あんなの佳さんの刀でスパッとやればいいじゃない。私の苦無でなんて、どれだけ時間かかるのよ、悪魔め……)
そう思いながら、ソラは三時間以上も船底に張り付いた大きなカメレオンの舌と格闘するコトとなった……。
~つづく~
とりあえず、また宇宙で戦う話になりそうです。
どんな展開になるのかは今のところさっぱりです、どうしましょう。
そろそろ改造した移動装置、世グウェ移の出番が見たいのですが(笑)