宇宙屋形船「かわずおとし」発進!
前回は別の世界に拉致された小百合と佳のお話でしたが
今回はさらに別の世界へ行くお話です。
前作:スペースおいらん騒動 ~忍者vsメイド~
https://ncode.syosetu.com/n2329hr/
2.宇宙屋形船「かわずおとし」発進!
小百合の部屋の小箪笥の上のケロ太の入っていたケースに置かれた大きなカエルの頭部のぬいぐるみ。それはとある異世界に行くための転送装置であった。小百合と佳は以前、このカエルの頭部によって二年間の休暇と冒険を異世界で過ごすハメになったのである。
佳が慣れた手つきで大きなカエルの頭部の耳のあたりにある隠しスイッチを操作した。カエルの眼が赤く、それから七色に光っていく。
「小百合、その大きな紙袋はなにかナ?」
「ふっふ、新兵器よ、新兵器。新しい靴が入っている」
「じゃあ私の靴もそれに入れてよ。ゲスオに頼んでいたヤツも出来たかナ?」
小百合も佳も靴を脱いでいたのだ。まあ、小百合の部屋だったからしょうがないが、辿り着く異世界もまた靴を履いていると怒られる場所なのである。
「そろそろ出来ているでしょ」
まばゆい七色の光に囲まれた中でそんな話をしていると、いつしか光が消えた。
「どこですか、ココは?」
ゲス夫が小百合と佳に聞く。佳と小百合、ゲス夫とケロ太が立っていたのは和室の大広間であった。畳の香りが残る部屋には座布団数枚と大きなちゃぶ台があり、ちゃぶ台の上には親指多用型のキーボードがついたノートPCが置いてあった。
「んーココは別の世界のエドー星のエイドリアン城の……まあ、私と佳の書斎みたいなモンかな」
小百合はそう言うと部屋の障子の近くにあった紐を引いた。紐の上につけられた鈴がチリンチリンと音を鳴らす。
「お帰りなさいませ、小百合さま、佳さま。今日はご客人もいらっしゃるのですね。すぐにお茶をお持ちいたします」
障子を開けて着物を着たウサギが三つ指を立てて頭を下げながら言う。
「ありがとうピョン子さん。ちょっと暑いからコーラ人数分もらえるかな」
「はい、すぐにご用意いたします」
そういうとウサギは障子を閉めて出て行った。直後に障子がまた開いた。
「おねえちゃん、佳ちゃん、どうしたの」
「よう大地、今日は将軍業のほうはヒマなのかネ?」
そこには銀色のドレスを着て、頭にティアラを載せた美少女が立っていた。名は助川大地、このとある世界を司る宇宙幕府将軍である、男の娘な小百合の弟である。
「いや、また事件に巻き込まれてなぁ。「かわずおとし」取りに来た」
「ああ、ゲスオさんやケロタさんが正装しているのはそのためか。あれ、でもこっちの世界は平和なままだけど」
「いや、こいつらはゲスオとケロタじゃなく……シン・ゲス夫とシン・ケロ太なんだよ」
「?」
大地が首を傾げた。無理もない、そんなにゲスオとかケロタとかがいっぱい出てくるとは思えないのだ。
「助さん、角さん、遅くなりました」
十二単を纏ったおいらん風の美女と裃を着ているがちょんまげではない美男子が現れた。
「よっレイヤー姫、そしてこっちの世界のゲスオ」
小百合が右手をあげて返事をする。「こっちの世界のゲスオ」と言われた美男子も大地と同じように不思議がる。レイヤー姫は銀河幕府の大老、ゲスオは銀河幕府の老中兼勘定奉行であり、前回の冒険で小百合たちと行動を共にしていたのだ。
小百合と佳はこれまでの話をちゃぶ台を囲んで大地とレイヤー姫とゲスオに話した。新しいゲス夫とケロ太に拉致されたコト、ヤホーン国の危機、「かわずおとし」を取りに来たコト……。
「相手が現れてからずっと追われるばかりで、敵の詳細もわからないのは問題ね」
「おねえちゃんには協力したいけど、こちらの世界から派兵とかは簡単には出来ないかな」
レイヤー姫と大地が言う。もちろん小百合としては「かわずおとし」を取りに来ただけでこっちの世界に迷惑をかける気は毛頭ないのだが、二人とも心配しているのだ。しかし、少しでも戦力が欲しいのもまた事実。
「ケロタは今ドコに?」
「ケロタはツーファイブ星に武術指導に行っています。小百合さま佳さまにボコボコにされた侍たちが強くなりたいと大名のサンタ・スシー殿に頼み込んだそうで」
小百合の問いにゲスオが答える。ケロタとは宇宙幕府の武術の特級指南役であり、小百合が信頼できる稀有な武人であり、元あこがれの人でもある。
「それはしょうがないな。まあ、ある程度なら私たちでも処理出来ると思うし、船だけ持っていくわ」
「まずはゆっくり休んでください。用意させますので、明日、幕府記念館に向かいましょう」
レイヤー姫はそう言うと、コーラを運んで来たウサギの女中に夕食というか宴会の手配をさせ、宴会時にまた来ると言って大地とゲスオと共に部屋を後にした。
「小百合さんと佳さんはこちらの世界の偉い方なのですか?」
ゲス夫は自分たちが拉致した人間が、自分の首を跳ねる指示を出せる立場だったのかと恐怖した。
「んー、まぁ一応はこっちでは二人とも銀河幕府の副将軍ってコトにはなっているから、偉いっちゃ偉いのかもしれないな。そんなの関係なく存在からしてすでに偉いというか尊いと思うけど」
「所詮、非常勤副将軍だけどナ」
その夜はエイドリアン城の料理人が作った美味しい夕飯を宴会で食べ、ゆっくり風呂につかり、件の和室で寝た。ゲス夫とケロ太は城中に似た姿のカエルの侍もいたコトで色々と安心した。レイヤー姫が気を使って部下のカエルの侍を宴会に参加させていたのだ。
「よう副将軍たち、準備はしといたぜ。エンジンのオーバーホールも終わっている。いつでも飛べるぞ……あ、燃料もウチの学生に用意させてある」
幕府博物館に飾られた宇宙屋形船「かわずおとし」の横で、ふとマッチョで上半身は黒い腹掛けの、まるで解体屋のような風貌の男が小百合に声をかけた。男の名はゲーン・ヒラガー。この世界のエドー帝大の教授で、爆破と反重力システムの権威だ。
「懸案だった主砲の自動装填装置がついたぞ。砲弾も七尺玉と新しく作ってあった徹甲弾含めて100発用意してある。あと、ちょうちんレーザーはそのまま。砲もレーザーも今つけている封印は自分で剥がしてくれよ。俺にはそんな権力は無いからな。帰って来る時に張る封印も積んであるから自分で張ってくれ」
「新兵器は徹甲弾だけか?」
小百合がゲーンに聞く。
「かなりいい徹甲弾を作ったと思うが、もう一つとっておきがある。船の鼻先にラム戦用の衝角が出る仕組みをつけた。腕っこきの刀鍛冶を集めて作った衝角だ。衝角ナシでラム戦やるバカがいたらしいからなぁ」
「あれはレイヤー姫の指示で私じゃないぞ。まあ、衝角はありがたいけど」
「あ、オマケもある」
そう言ってゲーンは走っていくと博物館の案内所の裏から何かを抱えて帰って来た。
「なんか森とか湿地帯とか話を聞いたから、昨日夜なべして仕上げた」
ゲーンが持ってきたのはこの世界の移動装置である世グウェ移だった。二輪の間の板に乗り、ハンドルのブレーキと体重移動で操作する乗り物である。今回、それに付いたタイヤが極太かつ溝がブロック構造のものに変えられていた。
「モーターもチューンしてトルクを上げてあるからそこそこの不整地でも使えると思うぞ」
「ありがとさん、なんとか無事に帰って来るわ」
ゲーンと話した後からゲスオが手配してくれた水や食料などの必要物資を侍たちが船内に運んでくれた。とりあえずひと月は過ごせる十分な量だ。
積み込みの間に皆で幕府記念館を見学した。「かわずおとし」の周りには小百合と佳たちが前回の冒険で銀河幕府の危機を救った、あれこれの物品や資料が展示してあった。新しいゲス夫とケロ太はそれらを見て、小百合と佳がこの世界で何をやったのかを理解して安堵した。偶然ではあるが、自分たちの願いを叶えるには最適の人選だったようなのである。もちろんココの展示には良いコトしか書いていないのだが。
「あ、コレもっていくワ」
佳は館の学芸員を呼んでガラスケースを開けさせた。中身は頭が無い大きなカエルの着ぐるみ。前回の冒険でゲスオとケロタが着ていたものだ。案内板には「幕府を救った勇者ゲスオとケロタの使った宇宙服」と書いてあるが、これで彼らが宇宙に出た記憶は小百合には無い。
「コレコレ」
そう言って佳が着ぐるみから剥ぎ取ったのはビブスだった。佳は赤地に白く「G」と書かれたビブスをゲス夫に、青地に白く「K」と書かれたビブスをケロ太に付けた。小百合と佳はカエルであるゲス夫とケロ太の見分けがついていなかったのだ。ゲス夫だけがしゃべるから、それでは判断出来たのだが。
そういえばケロ太はここまでひと言も話していない。前のケロ太は理由があって話さなかったが、このケロ太はどうなのだろう?小百合はその瞬間だけ考えたが、あまり詮索しても失礼かと思ってケロ太が話さない理由は聞かなかった。
逆に……。
「ゲス夫ってどうして日本語話せるんだ?」
「ああ、古の魔法に言語の理解を強めるものがあって、あのペットショップに辿り着く間に聞いた言葉を学習しました。まだ文字を理解するには至っていません、すみません」
「小百合が欲しい魔法だナ」
佳が笑って言う。日仏ハーフの佳は6ケ国語を使えるバイリンガルなので、高校英語も怪しい小百合の勉強をみているのだ。小百合も英語以外ではかなりの才女なのであるが……。
そんな話をしているうちに宇宙屋形船「かわずおとし」の出港準備が整った。ゲーンの他に大地とレイヤー姫、ゲスオも様子を見に来ている。佳はゲスオから紙袋を二つ受け取った。佳と小百合が頼んでいたものは仕上がっていたらしい。
そしてもうひとり忍者装束の……。
「宇宙幕府諜報部の忍者ソラ・ニシノ、大老レイヤー姫の命によりヤホーン国及びアメズーン帝国の状況調査、並びに両副将軍のお目付け役としてご同行させて頂きます」
「お前がお目付け役だと、冗談顔だけにしろよ!」
「ひとり戦力が増えたと思って歓迎して下さいよ!」
片膝を立て、頭を下げて丁寧に話していたソラだったが、小百合の言動に普通に文句をつける。
「戦力……かなぁ」
ソラは前回の冒険の際、小百合たちと共に戦った忍者である……が、その戦闘力は小百合や佳からするとずいぶんと劣るのである。いや、それでも屈強な?侍と同等で、ヨコサン星という星では実務トップの忍者と本人は言うのだが。そういえば昇進して実務からは外れているハズなのだが……。
「お、お客さんがいっぱい集まっていますけど、こんな大きな船の転送をできるかどうか……。」
ゲス夫がおどおどと小百合に向かって叫ぶ。
「任せとけ。今から船の重さを軽くするからちょっと待て!佳、反重力エンジンスタート。170cmくらい浮いたらホバリングして!天井に当たるから200cm以上は上げるなよ!はい地切りヨシ!ゴーヘイゴーヘイ、ストップ!ゲス夫とケロタは下に入って!!」
船の横についたハッチから小百合が出たり入ったりして大声で指示を出し、船は静かに浮かんで停止した。その下にゲス夫とケロ太が入り、浮いた船を持つ格好をする。ゲス夫とケロ太は全長27mもある船が自分たちの上に落ちる心配で震えている。反重力エンジンなどゲス夫たちの世界には考えられないものなのだ。
「よし、ゲス夫、転送開始だ。それじゃ皆、ちょっと行ってくるわ!」
「おねえちゃん、気をつけて!でもあんまり酷いコトはしないでね~!!」
大地の言葉と共に幕府博物館のフロアの皆が手を振る中、ゲス夫とケロ太の眼が七色に光り出す。そして直後に宇宙屋形船「かわずおとし」と、それを持ち上げていたゲス夫とケロ太は幕府記念館のフロアから消えて行った。
小百合と佳と、あとソラの新たなる冒険が始まったのである。
~つづく~
はい、そういうワケで前作に引き続き宇宙屋形船「かわがおとし」が発進いたしました。
今回、かなり武装強化しましたが、それを使うような展開になるのか心配です。
次回はいよいよジャングルクルーズの旅、開始です!