11 女神との再会(後編)
美青年天使にうながされて僕もソファに座り、メイドっぽい服装の天使が全員にお茶を出してくれて、話をする準備が整った。
……グリゴリエルさんは立ったままなの?
僕の横があいてるし、座っても良いと思うんだけど——
「最初に私から紹介させていただきます。こちらの少年がソウタ殿。ゴーレムに縛られていた魂を解放してくれた恩人です」
「はっ、はじめまして。天城創多です」
いきなり紹介されて、座ったまま頭を下げた。
……なるほど。グリゴリエルさんは司会役なのね。
「ソウタ殿から見て右手に座っているのが、四季の女神の長女である、秋の女神です。女神の土に関する話があると言うことで、来ていただきました」
「お久しぶりです、創多さん」
「お久しぶりです。あの時は、いろいろとお世話になって……助かりました」
あれっ? 最初に会った時のことは、どこまで話していいんだろう?
秘密基地の話はナイショにした方が良さそうだけど……。
「左手に座っているのが、四季の女神の三女である、春の女神です。今、私たちがいる大陸を見守っている女神でもあります」
「はじめまして、創多さん。お話はいろいろと、お姉様から聞いてますよ」
「はじめまして……。よろしくお願いします」
綺麗な若草色の髪。エメラルドグリーンの瞳。穏やかな表情。
腰の辺りまで伸びたストレートの髪は、一部がアゴのあたりで切りそろえられていて、いわゆる姫カットと呼ばれる髪型のようだ。
どこかであったような気がするけど……。そんなハズはないよね?
お姉さんと雰囲気が似てるから、そんな気がしただけかな。
「奥のソファに座っているのが、春の女神の眷族である、魔法の女神です」
「私のことは気にしなくて良いですから……。話を進めて」
「……わかりました」
スーツ姿のレムリエルさんは、縮こまっているというか、すごく恐縮しているように見えるけど……。緊張してるのかな?
「本日は、ソウタ殿とそちらに居るルビィさんの関係について。それと、女神の土についてもお話を伺いたくて、集まっていただいたのですが——」
「創多さんに女神の土を渡したのは、お姉様でしょう?」
いきなりグリゴリエルさんの話を遮ったのは、にっこり微笑んでいる春の女神だった。
「ええ、そうですよ。あの時は、創多さんが女神の土を手に入れるために、私のところまで来てくれたんだと思って……。粘土の扱いもお母様に負けないぐらい上手ですし、この人なら大丈夫だと判断してプレゼントしました」
「そこまでは良いとして……。人間に生命創造の呪文を教えたのは、やりすぎではないですか?」
「それは、だって……。創多さんの造った白猫が、シロにそっくりだったんですもの。あれを見たらあなただって、動いてるところが見たくなりますよ。間違いありません」
「シロ……? シロって、あの子の名前ですか? お母様は自分の使徒に、名前を付けてなかったはずですよね?」
「にゃあぁぁ〜」
名前を呼ばれたのがわかったのだろう。
ルビィとじゃれていた白猫が、僕たちの方を向いて可愛く鳴いた。
「それが……。創多さんに“シロ”って呼ばれたのが嬉しかったみたいで。名前を受け入れちゃったんですよ。この子が、自分で」
「えっ? それって、僕が寝ぼけてシロって呼んだから?」
「にゃあっ! にゃあにゃあ〜」
足音一つ立てずに歩いてきた白猫が、いきなりジャンプして僕の太ももに上がってくる。
そのままくるりと向きを変えて、僕に背中を見せて……。これは、背中を撫でろってことだね。
「シロって名前を気に入ってくれたの? それなら嬉しいけど……。って、ルビィまで⁉」
シロの背中を撫でているとルビィも同じようにジャンプして、ほとんど空きがない太ももに強引に上がってきた。
「もう〜……。二匹一緒は重いから、少しだけだよ?」
「にゃあぁ〜」
「みゃあぁ〜」
猫撫で声で返事をしながら、四本の尻尾で同時に首筋をくすぐられる。
……尻尾が絡んでるように見えるけど、大丈夫かな?
「お姉様。これは大変なことですよ……」
「でも、本人が受け入れたんだから仕方ないでしょう?」
「それはそうですけど……。でも……」
「一つ、質問させていただいても宜しいでしょうか……?」
「どうしたの? レムリエルさん」
会話が途切れたタイミングで、小さく手を挙げて発言の許可を求めたのは、奥のソファに座っている魔法の女神だった。
「白い二尾魔猫は白の女神の使徒だと、前任者から聞いていたのですが、これは間違いだったのでしょうか?」
「その認識であってますよ。ただ、お母様がこの地を去ったあとは、お姉様が預かってると言うだけの話です」
質問に答えたのは春の女神で……。確か、魔法の女神の主なんだよね。
さっき、四季の女神の三女って聞いたから、四姉妹なのかな?
「なるほど……。そういうことだったんですね。それで、秋の女神の元に女神の使いが居て、女神の使いを参考にしてソウタさんがルビィさんを……。ようやく理解できました」
「女神の土……。私が創多さんにプレゼントした粘土も、元はと言えば、お母様がこの地を去る時に、私たち姉妹に託されたものです。手に負えないようなことがあった時はこれを使いなさい、と」
「それを、お姉様が自分で使わずに、誰かにプレゼントするだなんて……。思っても見なかったです」
「だって、私が使うと怒られちゃうし……。あなたたちも困るでしょう?」
「そうかもしれませんが……。でも……」
「あっ、あのっ! 白い粘土なら持ってきてますけど……。お返しした方が良いですか?」
石像使いのおじいちゃんからもらった灰色の粘土でも、仮初めの石像なら造れるし、そのうち、本物のゴーレムも造れるようになると思う。
白い粘土は自由に扱えて便利だけど、返しても問題ない……かな?
「いいえ、その必要はありません。女神の土はこれからも、創多さんのお好きなように使ってください」
僕に粘土をくれた綺麗なお姉さん……。秋の女神が微笑みながら、はっきり宣言してくれた。
隣に座っている春の女神が、すっと目を細めて僕を見つめて——
「……そうですね。創多さんなら大丈夫でしょう。少なくとも、お姉様のような無茶はしないと思います」
「あっ、ありがとうございます」
これからも粘土を使って良いって、認めてくれたのは嬉しいけど……。
綺麗なお姉さんは、どんな無茶をしたんだろう?
いつか、機会があったら聞いてみよう。
話が一段落ついたのを感じたのかな?
赤い首輪をした白猫が、僕の太ももからぴょんっと飛びだし、ローテーブルをてとてと歩き、春の女神の胸元へと飛びついた。
「あらあら……。あなたはルビィさんですね?」
「みゃあぁぁ〜」
「近くで見ても、お母様の使いとそっくりで……。あんっ! そこは、くすぐったいですよ……もう〜」
女神の頬をルビィがペロペロ舐めて……。
綺麗な女性に猫がじゃれついてる姿は、それだけで絵になるなぁ。
「僭越ながら……。私からも、ソウタ殿に関することで、質問させていただいて宜しいでしょうか?」
「何ですか? グリゴリエルさん」
美青年天使の質問に、魔法の女神が声を返す。
「ソウタ殿が転送魔法を使えるようになったそうなのですが、これは、普通に使っていただいても問題ないでしょうか?」
「……もう少し詳しく説明してもらえますか?」
結局、僕が自分で説明することになった。
右手に填めてる指輪がリンドウという名前のゴーレムで、僕の代わりに魔法を覚えたり使ったりしてくれること。
グリゴリエルさんが使った転送魔法を見て、リンドウが覚えたこと。
何回か実験して、一日に一回の往復ぐらいならできるようになったこと。
ついでに、実験中に見つけた裏技の話をしようかと思ったけど……。怒られそうな気がしたので、この話は止めておいた。
「とても信じられない話ですが、そんなことが本当に——」
「そんなに疑わなくても、創多さんなら大丈夫ですよ。石像使いとしての力はもちろん、ルビィさんやトパーズさんを、悪いことに使うような人では無いですから。そうですよね? 創多さん」
「あっ、はい! 悪いことには使いません」
魔法の女神の言葉を遮って、僕をフォローしてくれたのは秋の女神だった。
前に、石像使いのおじいちゃんとも約束したし、ゴーレムの力は困っている人を助けるために使うつもりだ。
……あれっ? でも、トパーズの話って秋の女神にしたっけ?
前に浮島に来た時にオニキスとトパーズをお披露目したし、その時の話を聞いたのかな?
「……その言葉を信じましょう。私が見守っている大陸であれば、自由に転送魔法を使ってかまいません。春の女神の名において、許可します」
「みゃあぁ〜!」
「にゃあぁ〜!」
「ありがとうございます」
……許可してもらったのは嬉しいけど、どうして、ルビィとシロが声を揃えて鳴いたのかな?




