7 平和な日々(後編)
美味しい昼ご飯を食べたあと、いつもなら森を散歩するところだけど、今日はまっすぐ工作室へ。
千年闇の森でアイアンゴーレムと戦った時、オニキスが指を痛めそうで心配だったんだよね。
いろいろあって忘れてたけど、念のためにチェックしておかないと。
「オニキス! 人間サイズになって」
「やー!」
首に掛けていた革紐を引っ張り、漆黒の勾玉を服の下から出す。
勾玉に声をかけると人間サイズのオニキスが姿を現して、同時に、格闘技のかけ声のような声が返ってきた。
女性っぽい声に聞こえたけど、今のは……?
「この声は……。オニキスなの?」
「やー!」
いつものように、右手で綺麗な敬礼をしているオニキス。
なんだか、いつもより嬉しそう。
……いつもと違うのは表情だけじゃなくて、体型まで変わってる⁉
「これって、もしかして……。進化した?」
「やー! やー!」
僕が造った時はぽっちゃりしてた体型が、全体的にスリムになって、可愛いと言うよりかっこいい感じに変わってる。
鉄の顔で唇は動いてないけど、声は口元から出ているようだ。
進化するように造ったのは僕だけど、実際に進化した姿を見ると……。感動するなぁ。
「すごいよ、オニキス……。かっこよくなって……。声も、オニキスのイメージにぴったりだね」
「やあぁぁ……」
鉄の身体を手で撫でながら、周りを回って全身を確かめる。
身長はほとんど変わってないかな? 手足が大きめなのも元通り。
前に比べると、頭が小さくなってボディが引き締まったのが一番の違いか。
「あっ、やっぱり指を痛めてるね。これぐらいならすぐ治せるけど……」
傷ついた拳を優しく撫でて、元に戻す。
オニキスも気になってたのかな? なんだか、嬉しそうだ。
「ちょうど良い機会だし、ついでにオニキス用の武器を造っておこうか。これから先、何があるかわからないし」
「やー!」
「それじゃあ、すぐ造るから……。できるまで、ルビィと遊んでて」
「やー!」
わざわざ口に出して命令するまでもなく、オニキスはすーっと縮んで人形サイズになった。
……人形サイズになると、前とそんなに変わらない体型なんだね。ぽっちゃり気味で、ぬいぐるみみたいで可愛いよ。
「にゃあぁぁ〜」
「やー! やーやー!」
興味深そうに見ていたルビィがテーブルの上から降りてきて、人形サイズのオニキスにじゃれつく。
進化してオニキスも強くなったと思うけど……。ルビィの方がお姉さんっぽいのは変わらないようだ。
棚からリュックをとってきて、白い粘土を取り出す。
オニキスに持たせる武器……。どんなのが良いかな? やっぱり剣?
でも、これまで戦った相手が、ガーディアンにストーンゴーレムにアイアンゴーレムだからなぁ……。次もゴーレムになるような気がする。
だとしたら、剣は向いてないのでは?
身体が硬い相手には、打撃系の……。そう言えば、フォルデンさんがメイスを持ってたっけ。あれを参考にさせてもらうか。
金平糖みたいな形の鉄球に短い柄を取り付けて、あっさりメイスが完成。
問題はどうやって持ち運ぶかだけど……。腰から下げると、歩く時に邪魔になるかな? 背中にくっつければ大丈夫?
人間サイズに戻ったオニキスに試してもらったけど、ちゃんと、背中に腕を回して柄の部分を掴めるようだ。
実際に使う時は、柄の部分が伸びるようにしたんだけど……。これは、外で試そうか。
ルビィとオニキスと一緒に、屋敷の裏庭へと移動。
せっかくだから、巨人サイズになって試してもらった。
予定していたとおり、オニキスと一緒にメイスも大きくなって、柄の部分が伸びて使いやすそうな形に変わっている。
力を抑えて、優しく、メイスで地面を叩いてもらったんだけど……。
——ドオオォォンンン……
鈍い音が聞こえてきて、離れて見守っていた僕の足元まで揺れた。
あー……。これは、対ゴーレム専用だな。
人間がこんなので殴られたら、地平線の彼方まで飛ばされそうだ。
「ソウタ様。これは、何をなさっているのですか?」
いつの間にかエミリーさんが、僕の後ろに立っていた。
腕組みをした姿勢で睨まれると、ちょっと……。いや、かなり怖いです。
☆
正直に理由を説明して、エミリーさんに許してもらった。
話を聞いたエミリーさんが、屋敷から北東の方角に古い採石場があるので、巨人サイズのオニキスで何か試す時はそこを使うと良いと教えてくれた。
少し距離があるそうだけど、トパーズに乗っていけば問題ないだろう。
次から、危ない実験をする時は、そこでやるって約束しておいた。
大きな音を聞いて屋敷で働いている人が集まってきたので、ついでにオニキスを紹介しておいた。
僕の相棒だから、心配することはないですよ。土木工事も得意ですよ。
この説明で、みんな納得してくれた……かな?
人形サイズのオニキスは、メイドたちに好評でした。