6 平和な日々(前編)
千年闇の森でゴーレムを倒し、天使に連れられて浮島まで行った日。
伯爵への報告を短い時間で終えて、何とか僕たちはその日の内に、屋敷へと帰ることができた。
報告の内容がよっぽど衝撃的だったのか、ルハンナ伯爵は途中から顔がこわばってたし、僕に質問する声も少し怖かったけど、アラベスとフォルデンさんが良い感じに取り成して、話を切り上げてくれた。
急ぐようにリクエストしたのがまずかったのかな?
トパーズはすごい勢いで、僕たちを屋敷まで運んでくれた。
さすがに音速は超えてないと思うけど……。新幹線より速かったのは、間違いないだろう。
屋敷に戻った僕は体調を崩して、二日ほど寝込んでしまった。
軽い微熱と頭痛と倦怠感ぐらいで、自分ではそんなに心配する必要も無いと思ったけど……。それでも、エミリーさんやマイヤーが居てくれて助かった。
ベッドまで食事を運んでもらうという、珍しい経験もできた。
体調が回復してからは、のんびり粘土で楽しむ生活に戻った。
寝込んでいた間にちょっとしたアイデアを思いついたので、その実験から。
工作室で人形サイズの馬を造って、仮初めの石像で動けるようにして、屋敷の外で大きくして、アラベスに乗ってもらった。
馬の頭に着ける道具とか、人が乗る鞍の部分とか、それほど詳しくなかったので思いつくままに造ってみたんだけど……うまくいったみたいだ。
本物の馬に乗るのと、何も変わらないそうだ。
王子様っぽい雰囲気もあるし、アラベスには白馬が似合ってるな。
アラベスを降ろしたゴーレムに声をかけると、一瞬で、ニワトリの卵と良く似た形に変わった。
このサイズなら持ち歩くのも簡単だし、馬の姿なら街に入るところで疑われることもないだろうし、トパーズを降りたあとの移動に良さそう。
……なんだかポ◯モンっぽい? カプ◯ル怪獣かな?
他の形を思いつかないし、とりあえずこのまま採用で。
念のため、マイヤーにも乗ってもらったけど、まったく問題ないそうだ。
……お願いしたのは僕だけど、次からは、メイド服姿で馬に乗るのは止めておこうね。いろいろと危ないから。
最後に僕も、自分で造った馬に乗ってみた。
馬に乗るのは初めてで、うまくいくのか心配してたんだけど……。思った通りに動いてくれて快適だった。いつもより視線が高いのも新鮮で面白い。
馬のゴーレムを二頭造って、アラベスかマイヤーの後ろに乗せてもらうつもりだったけど……。これなら、僕の分まで造って良さそうだな。
工作室に戻って、残りの二頭に取りかかる。
白くてかっこいい馬。黒くて強そうな馬。茶色であまり目立たない馬。
あわせて三体の馬が完成した。どれも、良い感じにできたと思う。
白い馬はアラベスに、黒い馬はマイヤーに乗ってもらおう。
尻尾を振って、耳をくるくる回して……。馬も可愛いなぁ……。
えっ? どうしたのルビィ?
急に豹の姿になって……。自分にも乗れってこと?
あー……うん。わかったから。ルビィにも乗せてもらうようにするから。
でも、豹に乗って移動してたら目立ちすぎるでしょ?
僕がルビィを抱っこするから、許して……ねっ?
アゴの下を強めに撫でてやって、何とか機嫌を直してもらった。
馬のゴーレムを卵の姿に変えて、普段からアラベスとマイヤーに持っておいてもらえば便利だと思ったんだけど……。よく考えたら、仮初めの石像を使えるのは僕だけだった。
仕方がないので、腰に着けるポーチをエミリーさんにお願いしておいた。
アラベスが使ってるのを見て、前から欲しいと思ってたんだよね。
これなら、卵サイズのゴーレムを持ち運ぶのにぴったりだろう。
今の僕なら、仮初めの石像を三体同時に造っても、それぞれ、半日ぐらいは楽に動かせるはず。
最初は魔力を少なめにしておいて、必要に応じて魔力を足して、動ける時間を延ばしても良いし……。実用上は問題ないだろう。
せっかくだから、この三体には特別な名前を付けて……。これで、大きな街に入るのが楽になる予定。
☆
いろいろ考えて……。僕が使っている白い粘土について、アラベスとマイヤーには本当のことを話しておいた。
色や質感や大きさを、自由に変えられること。
この世界に来る途中で、綺麗なお姉さんからもらったこと。
浮島で魔法の女神に聞いて、これが女神の土だってわかったこと。
オニキスとリンドウだけじゃなくて、ルビィとトパーズもこの粘土を使って僕が造ったこと。
ついでに、仮初めの石像と石像創造の違いも、簡単に説明しておいた。
魂を分け与える話は、うまくぼかして伝えたつもりだけど……。二人は納得してくれたようだ。
普通の粘土じゃないって前から気が付いたみたいだし、本当のことを話しても何も変わらないよね?




