5 帰宅
すっと身体が重くなったような感覚。
視界を覆っていた光が徐々に薄れ、良く晴れた森の景色が見えてくる。
「ソウタ殿! おかえりなさい」
「おかえりなさいませ。ソウタ様」
「おかえりなさいませ!」
声が聞こえた方に視線を向けると、アラベスとマイヤーとフォルデンさんが立っていた。
……どうして、フォルデンさんは僕に敬礼してるんだろう? 顔色は良くなったみたいだけど。
「ただいま〜。待たせちゃってごめんね。みんな、大丈夫だった?」
「はい。特に何事もなく、無事に過ごしていました」
「周囲を軽く調べましたが、アンデッドの気配は完全に消えたようです」
「それじゃあ、ルハンナの街に帰ろうか」
自分の出番を察したのか、肩に止まっていたトパーズが開けた場所へと飛んでいき、ロック鳥の姿に変身する。
「それではソウタ殿。私はこの辺りで……。また、お会いできる日を楽しみにしています」
「あっ、グリゴリエルさん! いろいろ、ありがとうございました」
僕が地面に降りると、足元で光っていた魔方陣がすーっと消えた。
横に立っていたタキシード姿の天使がふわりと浮き上がり、そこから滑らかに速度を上げて、青空の彼方へと飛んでいく。
……帰りは転送魔法を使えないのかな?
次に会う時まで覚えてたら、わざわざ飛んで帰った理由を聞いてみよう。
「ソウタ殿。その指輪は……?」
声をかけてきたフォルデンさんはひどく驚いた表情で、僕の左手をじっと見つめている。
「これは、魔法の女神にもらいました。災いから守る力があるので、ずっと着けておくのが良いそうです」
「つまり、女神の指輪……? 本当に女神と会われたんですね⁉」
「あっ、はい。女神と会って話をして、それから……。いろいろあったんですけど話してると長くなるので、続きはトパーズの背中で良いですか?」
結局、浮島でグリゴリエルさんやレムリエルさんと話をしてたのは、一時間ぐらいだったのかな?
その後、話の流れでトパーズとオニキスを披露することになって、帰るまでにもう少し時間がかかったけど。
「はい。了解しました!」
フォルデンさんの瞳がキラキラしているのが気になる。
まるで、憧れのスポーツ選手に会った少年みたいだ。
僕を待ってる間に、マイヤーとアラベスが何かしたのかな……?
☆
トパーズに乗り込んでルハンナの街へと向かう。
上空からの景色を眺めながら、このあとの予定について打ち合わせ。
激しい運動をした訳でも無いのに……。どうしてだろう?
とにかく妙に疲れたので、可能であれば、今日中に屋敷まで帰って自分の部屋でゆっくり休みたいこと。無理なようならルハンナの街で宿を取って、早めに寝たいことを三人に伝えた。
伯爵とやりとりする元気も残ってないので、申し訳ないけど、ゴーレム退治の報告はアラベスとフォルデンさんに任せた。
僕も城に行って、顔を見せる必要はあるだろうけど、細かい説明は二人でどうにかしてもらおう。
マイヤーには、屋敷で待っている人たちへのお土産をお願いした。
天使や女神に関する話は、口止めされた訳じゃないけど……。あまり広めない方が良いような気がする。
どうやら、この件に関してはフォルデンさんも同じ意見のようだ。
『千年闇の森が晴れた後で、空から降りてきた天使に祝福された』
そんな感じで天使に会ったことは報告して、僕が女神に会いに浮島まで行ったことは、隠しておくことにした。
話の流れで、浮島での出来事を軽く話しておいた。
魔法の女神がスーツ姿だった話。
メイド服の天使にお茶を出してもらった話。
春の女神に会うために、また今度、浮島に行くことになった話。
浮島の広場で、トパーズとオニキスが変身した姿をお披露目した話。
白の女神や女神の使徒の話は……。どうしようか迷ったけど、ここでは秘密にしておいた。
驚きすぎて悟りを開いたのかな?
僕が何をしても驚いて、天使を見た時は号泣までしてたフォルデンさんが、浮島での話を最後まで落ち着いて聞いてくれた。
見た目はベテランの神官戦士っぽいし、この反応が普通なのかも。
この調子なら、伯爵への報告を任せても大丈夫そうだ。