8 初めての勝利
「あああぁぁぁおおぉぉぉー……‼」
大人の虎や豹ぐらいのサイズになったルビィが、楽しそうに吠える。
体つきがほっそりしてるし、どっちかというと豹に近いのかな?
白い毛並みは雪豹っぽいけど、まだら模様はない。
って、冷静に観察してる場合じゃないか。
ぴょんっと軽くジャンプして、ルビィは二頭の犬と鉄爪熊の間に割って入った。
「おっ、おい! これは……何がどうなってるんだよ‼」
「たぶん、大丈夫だと思いますから……。ここは任せて下さい」
二本目の矢で狙いを付けたまま、カルロがじりじり下がってくる。
覚悟を決めていたのだろうか? 顔には真剣な表情を浮かべたままだ。
「があおっ! みゃみゃみゃー」
猫じゃらしにじゃれつくように、軽い感じでルビィが熊へと飛びかかった。
大きな爪を振って、撃退しようとする熊。
空中で身体をひねり、あっさり避けるルビィ。
パシッと、虫を叩くように熊の顔にパンチを入れ、その反動を使って空中で軌道を変える。着地すると同時に再び飛びつき、伸ばした爪で鼻先をひっかく。
ルビィも大きくなったとはいえ、まだまだ熊の方がずっと大きいのだが、二頭の戦いはまるで、猫がネズミを弄んでいるようだ。
どうしてこんなに強いのか……。
モデルにした白猫が、それだけ強いってことかな?
「ああぎゃあああぁぁぁ‼」
絞り出すような叫び声が、小川のせせらぎを切り裂く。
よく見ると熊の左目に、茶色い羽が刺さっていた。
これって、もしかして——
「トパーズ⁉」
「ピーゥ‼ ピーゥピーゥ!」
少し離れた位置で大きな鷲が、ドローンのようにホバリングしていた。
鷲ってこんな動きが出来るの? それとも、僕がそうなるようにイメージしたから?
そもそも、羽を飛ばして攻撃する鳥なんて……現実には居ないよね?
両手で目元を押さえて、巨大な熊がその場に座り込む。ルビィがうまく誘導したのか、いつの間にか熊は森の近くまで押し返されていた。
「があぁぁおおおおぉぉぉんっ‼」
熊からすっと離れたルビィが、両手を地面について可愛くお座りする。
白い豹が力強く吠えた瞬間、雲一つ無い青空がまぶしく光り、激しい稲妻が熊の身体を貫いた。
☆
毛が焦げる時のイヤな臭いが辺りに漂う。
プスプスと理由のわからない小さな音が聞こえてくる。
悠々とした態度で僕のところへ戻ってきたルビィが、いかにも褒めて欲しそうに頭を出してきた。
「ありがとう、ルビィ。助かったよ」
「くぅ〜ん……。ふにゃぁぁ……」
声をかけながら、強めに頭を撫でてやる。
どうやら、どこにも怪我は無いようだ。
綺麗な白い毛は、猫サイズだった時より太くてゴワゴワしていた。
「ピーゥピーゥ!」
「もちろん、トパーズもね。助けてくれてありがとう」
目の前にふわりと着地した大鷲が、対抗するように首を伸ばしてくる。
優しく頭を撫でてやると、可愛くコロコロと喉を鳴らした。
「森に迷い込んできた変な坊やかと思ったら……。本当に野獣使いだったとはな。びっくりしたよ」
ベテラン猟師は僕の横で、二頭の犬を両脇に抱えて、落ち着かせるように背中を撫でている。
弓や矢筒を下に置いてるし、完全に戦闘が終わったと判断したらしい。
犬たちがルビィやトパーズをチラチラ見ながら、微妙に怯えているような気がするけど……気のせいだよね?
「えっ……? あっ、ああっ! すみません。まさか、こんなことになるなんて思ってなくて。自分でもびっくりで——」
そう言えば、熊に襲われる前にそんな話をしてたっけ。
ここはもう、野獣使いってことで納得してもらった方が話が早そうだ。
「なぁに、細かいことは良いんだよ。何か理由があるんだろうし。こっちこそ、あれだけ派手に啖呵を切っておいて助けられるとは……。まぁ、とにかく、ありがとうな。あんたは命の恩人だよ」
あれっ? もしかして誤解されてる?
何か理由があって、職業を秘密にしたって思われてるのかな?
さっき説明したのが本当の話なんだけど……。
「それでだな。坊やさえ良かったら、この熊の扱いは俺たちに任せてもらえないか? もちろん、必要な素材があったら言われたとおりにするから」
「どうぞどうぞ。どうすれば良いのか、僕にはわからないですし……。全てお任せします」