3 魔法の女神
「どうやってガーディアンを倒したのか、聞かせてもらっても——」
——ガチャッ
「白い二尾魔猫を連れた少年が居るのは、この部屋かしら?」
美青年天使が何か言いかけたタイミングで応接室のドアが開き、スーツ姿の女性が入ってきた。
「えっ? そんな、まさか……。本物の、二尾魔猫……? どうして、女神の使いがここに……?」
部屋に入ってきた女性が僕に気付き、そのまま動かなくなった。
少しキツい印象を与える目元。
肩の辺りで切りそろえられた赤い髪。
全身から漂う、仕事のできる女性っぽい雰囲気。
普通の人間に見えるけど、この人が僕に会いたいと言った女神なのかな?
僕に粘土をくれたお姉さんとは別人だったか……。
「ふにゃあぁ〜〜」
大きくあくびをしたルビィが、僕の膝からぴょんっとジャンプして、カーペットの敷かれた床へと音も無く着地する。
そのまま、動きの止まった女性へと優雅な姿勢で歩み寄り、スーツの胸元に勢いよく飛びついた。
「あっ、ああっ! そんな……私などに……。あああぁぁぁぁ……」
スーツ姿の女性が反射的に腕を出して、ルビィを胸に抱える。
抱っこされたルビィが頬をペロペロ舐めて……。どっちも楽しそうだね。
☆
スーツ姿の女性もソファに座り、全員にお茶が出されて、ようやく、落ち着いて話をする準備が整った。
ちなみに、お茶を入れてくれたのも天使の女性で、白を基調としたメイド服っぽい服装が可愛かったです。
背中の羽がどうなってるのか知りたかったけど、じっくり見るのは失礼だと思って我慢した。……こんなチャンスは二度とないかもしれないし、気にせずに見るべきだったか?
「あの……。最初に、名前を聞かせてもらっても良いですか?」
「そうですね。では……私の名前はレムリエル。地上では、魔法の女神と呼ばれることが多いでしょうか? 春の女神の眷族です」
「私は名前はグリゴリエル。レムリエル様にお仕えしている天使です」
ずっと気になってたんだけど、ようやく名前を聞くことができた。
一流企業の管理職っぽい雰囲気の女神がレムリエルさんで、結婚式の新郎っぽい雰囲気の天使がグリゴリエルさんか。
……いつまで経っても自己紹介される気配がないし、女神や天使には名前が無いのかと思ってたよ。
「僕の名前は天城創多です。ギルドに所属している冒険者で、あとは……普通の人間です」
「ソウタさん、ですね。では早速ですが、そちらの白い二尾魔猫について、詳しく聞かせてもらっても良いですか?」
魔法の女神……。レムリエルさんの頬がほんのり赤いのは、ルビィに舐められた影響かな?
「わかりました。グリゴリエルさんには簡単に説明したんですけど、もう少し詳しくお話しますね」
グリゴリエルさんは本物の天使のようだし、ここが、天使が住んでいる建物なのも間違いないと思う。
……住んでるんじゃなくて、働いている場所なのかな?
それはともかく、天使がわざわざ僕をだますとも思えないし、目の前に居るレムリエルさんが魔法の女神なのも本当だろう。
だとしたら……。正直に話をしても大丈夫なのでは?
まさか、女神と女神で争ってるとか、女神同士で仲が悪いとか、そんなことはないだろうし。
念のために、秘密基地の話だけはナイショにして——
☆
元々は別の世界に住んでいて、自分の部屋で寝ていたこと。
綺麗なお姉さんが夢に出てきて、粘土の話で盛り上がったこと。
一緒に夢に出てきた、尻尾が二本ある白猫をモデルにして、お姉さんからもらった白い粘土で猫を造ったこと。
教えてもらった呪文を唱えたら、粘土で造った白猫が動き出したこと。
目が覚めたらこの世界に居て、僕が造った白猫も一緒に居たこと。
「それで、この子にルビィって名前を付けて……。そんな感じです」
ルビィと一緒に行動するようになるまでの流れを、誰にも言ってないぐらい詳しく説明してみた。
話の途中から、レムリエルさんもグリゴリエルも、顔色が悪くなってたような気がするけど……。気のせいかな?
「念のためにお聞きしますが、その、白い粘土というのは今でも……?」
「あっ、はい。今も持ってますよ。……これです」
ソファの横に置いていたリュックから粘土を出して、包んでいた布を開いてレムリエルさんに見せる。
「こっ……。これは女神の土! つまり、あなたの話は全て真実で、ルビィさんを造ったのはあなたで……。あなたは……あなたは……」
「良かったら、触ってみますか?」
「触るだなんてとんでもない‼ あっ、いえ……。急に大きな声を出して、すみません。とにかく、その粘土は大切に保管してください」
「わかりました」
あまり粘土を好きじゃないのかな?
それとも、触っちゃいけない理由があるとか?
レムリエルさんもグリゴリエルも、白い粘土から目を背けてる。
触ってもらった方がよくわかると思ったんだけど……。どうやら、何か失敗したようだ。