10 野良ゴーレム討伐(後編)
ゴーレムが居る場所を上空から観察したけど、雲が分厚すぎて、まばらに生えている木がうっすらと見えるだけだった。
仕方がないのでトパーズには、森から少し離れた場所に降りてもらい、そこから先は徒歩で近づくことにした。
太くてゴツゴツした幹。灰色の枝。紫色の葉。
……妖魔の森で見た木と、雰囲気が似てる?
千年闇の森と呼ばれるのが納得できるぐらい森は暗く、奥の方はぼんやりとしか見えない。
これだけ暗いと遠見の魔法を使っても無駄かな? 今必要なのは、暗視の魔法かも。
「ピーゥ‼ ピーゥピーゥ!」
どうするか考えていた僕に、トパーズが声をかけてきた。
……えっ? トパーズが偵察に行くの? ここで待ってれば大丈夫?
森は暗いけど……。うん、わかった。そこまで言うのなら任せるよ。
いつの間にか大鷲サイズに戻っていたトパーズが、ふわりと舞い上がり、木々の上を軽やかに飛んでいった。
「トパーズが偵察してくれるそうなので、ここで待機しましょう」
「わかりました」
横にいるフォルデンさんを見ると、左手に大きな盾を構えていた。
森の方だけでなく、周囲をしっかり警戒しているようだ。
……それって、ずっと腕に付けていた小さな盾では?
必要な時だけ大きくなるのかな? 便利そうだなぁ……。
「いまさらだけど、アラベスやマイヤーはアンデッドが出ても大丈夫?」
「私にはこの、魔法の剣がありますから。実体を持たないアンデッドが出てきたとしても、斬り捨てて見せます!」
「私は精神攻撃に耐性がありますから。アンデッドのどんな攻撃からも、ソウタ様をお守りします」
後ろに立っている二人が、自信に満ちた表情で答えてくれた。
僕が一番弱いのは、最初からわかってたことだけど……。
こういう時のために、少しぐらい身体を鍛えた方が良いのかな?
素直に諦めて、強い人を頼る方が現実的か?
「にゃあにゃあ〜」
抱っこしていたルビィが、尻尾で首筋をくすぐってくる。
……相棒に任せろってこと? わかったよ。
「それじゃあ……。僕は自信が無いので、いざという時はお願いします」
「はっ!」「はいっ!」「はい!」「にゃあ〜」
四つの返事が重なって聞こえる。
足元では人形サイズのオニキスが、ビシッと敬礼していた。
「えっ? もう、ゴーレムが見つかったの? こっちに近づいてる⁉」
脳裏に大鷲の声が届き、急いで目を閉じて意識を集中させる。
……暗い森でも、トパーズには関係ないんだね。
木々の間を足早に進む、ゴーレムの姿が目に入った。
思ってたより小さい……。身長は三メートルぐらいかな?
身体全体が土と苔に覆われていて、細かいところはよくわからない。
表面がうっすら光ってるように見えるのは……。苔の影響? そういうタイプのゴーレムなの?
「ゴーレムが見つかりました。五分ほどで、ここまで来るそうです」
「ソウタ殿。見た目にはわからないかもしれませんが、この森に居るのはアイアンゴーレムです。これまでの野良ゴーレムとは、格が違うので……。気を付けてください」
「うん。わかったよ、アラベス」
本音で言うと、そういう話はもっと前に聞きたかったけど……。お説教は帰ってからにしよう。
「オニキス、巨人サイズになって! ……話は聞いてたよね? 頼んだよ」
人形サイズだったオニキスが、一瞬で巨人サイズに変化した。
森では邪魔になるって判断したのだろう。マントはベルトの形に変えて、腰に巻いたままだ。
胸の前で両手を構えてファイティングポーズを取るオニキスは、表情に余裕があるように見えた。
……これはもう、気のせいじゃないな。鉄の顔でも表情が変わってる。
僕が造ったゴーレムだし、それぐらいおかしくないか。
☆
軽く話し合って、フォーメーションを決めた。
正面にフォルデンさん、左にアラベス、右にマイヤー。
僕は三人がかりで守られるポジションで、念のためにルビィにも、豹の姿になってもらった。
微妙に地面が揺れてる気がする。
ドスドスと、鈍い足音が聞こえてくる。
「もうすぐ、ここからでもゴーレムが見えると思います」
トパーズの視界を借りて、周りの人たちに状況を伝える。
この緊張感は……。ベレス村の森で、マルコやカルロと一緒に鉄爪熊と戦った時と同じような感じ?
あの時も、ルビィとトパーズに助けてもらったっけ。
「ああぁぁぁおおぉぉぉ〜……」
優しく頭を撫でてやると、白豹が大きなあくびをした。
……まったく緊張してないね。お前は。
「ゴーレムが見えました、が……。足を止めたようです」
最初に自分の目でゴーレムを確認したのは、マイヤーだった。
その直後。足音が止まり、周囲が一気に静まりかえる。
「森の外に出られないのか?」
「そのようですね……。ソウタ殿、どうしますか?」
森の妖しい雰囲気に飲まれたのかな?
フォルデンさんだけでなくアラベスまで、不安そうな表情を浮かべている。
こんな顔のアラベスは新鮮だけど……。気にしてる場合じゃないか。
「オニキスに任せましょう。それでダメなら、トパーズに乗って逃げるということで……。頼んだよ、オニキス」
僕に向けて軽く手を振って、オニキスは森へと入っていった。