6 伯爵の城へ
いつものように、街から離れた場所でトパーズを降りて、のんびり歩いて街へと向かう。
歩きながら聞いた話によると、街の名前は『ルハンナ』で良いらしい。
昔は別の名前だったけど、ほとんど人が住んでない時代が長く続き、そこから街を再建したのが、ルハンナ伯爵の先祖に当たる人物だそうだ。
湖と城しかなかった場所に街を作り、南東地方全体を発展させて、当時の魔王から伯爵に任命された、と。
その、初代ルハンナ伯爵も女性だったの?
すごい女性が居たんだな……。
雲一つない青空。街道を行き交う荷馬車や荷物を担いだ人たち。
大きいだけの街ではなく、交易も盛んなのだろう。ルハンナの街へと向かう人も街から出てくる人も、それなりの数が居るようだ。
街道沿いに四角い頑丈そうな建物が建っていて、衛兵らしき人が通る人をチェックしていたけど、アラベスが認識票を見せただけで、僕たちはあっさり街に入ることができた。
ダイヤモンドランクの認識票が効いたと言うより、よっぽど雰囲気がおかしい人以外は誰でも入れるみたいだ。
お腹も空いてきたことだし、目に付いた店に入って昼ご飯。
混雑している時間帯は『メニュー』と言っただけで、日本で言う、日替わり定食みたいな料理が出てくるシステムにももう慣れた。
中身がわからない料理はマイヤーに教えてもらうし、支払いについても相変わらずお任せだけど……。前よりは慣れたと思う。
焼きたてのソーセージが美味しかったです。
ビールが欲しくなったけど我慢しました。
古いゴーレムの調査で、何年か前にもアラベスは、この街に来たことがあるそうだ。冒険者ギルドの支部にも、問題なく案内してくれた。
ここで詳しい話を聞いて正式に依頼を引き受ければ、後はゴーレムを退治するだけ。
そう、思ってたんだけど——
「ルハンナ伯爵との面会……?」
「申し訳ありません。誰かがゴーレム討伐の依頼を受けに来た時は、その者を城に寄越すように、伯爵から指示されているようで……」
手続きを任せていたアラベスが僕のところに戻ってきて、いかにも申し訳なさそうな表情で説明してくれた。
アラベスの後ろに立っている眼鏡の男性は、ギルドの職員かな?
「馬車を用意してありますので、こちらにお越しください」
ギルドの職員らしい男性が、僕に話しかけてくる。
マイヤーも含めて三人で、パーティを組んでると認識されたようだ。
「これから、すぐ行くの? ……こんな服装で良いのかな?」
「伯爵の要請で城に行くのですから、問題ないと思われます」
僕の疑問に答えてくれたのは、マイヤーだった。
まさか、伯爵と会うとは思ってなかったから、ディブロンク伯爵の城を訪れた時と違って、いつもの村人っぽい服装のままだ。
念のために訪問用の服も、マイヤーに持ってきてもらったけど……。
着替える場所も時間もなさそうだし、諦めるか。
……僕はここで待ってるから、アラベスとマイヤーの二人だけで行ってもらうのはダメかな?
ちらっと横を向いて、二人の表情をさりげなく伺う。
それだけで僕の考えが伝わったのか、二人は同じタイミングで、首を小さく横に振った。
やっぱり駄目だよね……。
偉い人と会うのは気が重いけど、ここで断ったら、依頼の話はなかったことになるんだろう。たぶん。
わざわざここまで来たんだし、仕方がないか。
「それじゃあ、行こうか……」
☆
トパーズの背中から見た時は気が付かなかったけど、丸い湖の南側から中央の城へと、低い橋が架かっていた。
日差しを受けてキラキラと輝く水の上を、馬車で走っているような感覚。
馬車が進むにつれて、古い城が大きく見えてくる。
ディブロンク伯爵の城と同じぐらいの大きさかな?
城の正面にある門の前で馬車から降りるように言われ、そこから先は、若い男性の執事が案内してくれた。
豪華なシャンデリアのあるホールを抜け、広くてゆったりした作りの階段を上り、分厚い絨毯の敷かれた廊下を進む。
執事が歩く速度に合わせて、廊下の先にある大きな扉がゆっくり開き、そのまま僕たちは、広い部屋へと通された。
「ルハンナ伯爵。ゴーレム討伐の依頼を受けに来た冒険者をお連れしました」
「ご苦労」
小学校の教室ぐらいの部屋で、奥の方が何段か高くなっている。
段の上には豪華な椅子が置いてあって、ドレス姿の女性が座っていた。
……お城って、こういう部屋があるのがお約束なのかな?
マルーンと会ったのも、良く似た作りの部屋だったっけ。
「あなたが、鉄の巨人を操るというソウタ殿ですね? 話を聞いた時はとても信じられなかったのですが……。本当の話だったとは……」
「……えっ?」