5 再びバラギアン王国へ
「野良ゴーレム討伐の依頼を受けるとして……。勝手に現地に行って、勝手に退治してくれば良いのかな? それとも、何か手続きが必要?」
「今回の依頼の場合、引き受け元がバラギアン王国の南東地方にあるギルド支部になっているので、そこで、事前に説明を受ける必要があります」
迷いのない表情で、アラベスが説明してくれる。
さすが、ダイヤモンドランクの冒険者だな。
「それじゃあ、今日は荷物を整えて……。出発は明日の朝で良いかな? アラベスは帰ってきたばかりなのに、またすぐ出て行くことになるけど」
「もちろん大丈夫です!」
「私の方も、いつでも大丈夫です」
こういう状況にもすっかり慣れた?
マイヤーは落ち着いた表情で返事をしてくれた。
「依頼主はルハンナ伯爵……だっけ? 南東地方の領主だそうだけど、今回は挨拶しに行く必要はないよね?」
「ギルド経由で依頼を受けるだけですし、その必要はないと思われます」
「どうでしょう……。ルハンナ伯爵がソウタ様の情報を知っている場合、詳しい話を聞くために呼び出されるかもしれません」
「あー……。ありそうだなぁ……。それじゃあ、偉い人に呼び出された時の準備もしてもらえる? 荷物が増えて、マイヤーは大変だろうけど」
「問題ありません。明日の朝までに、完璧に準備しておきます」
ゴーレム退治に何日かかるかわからないけど、そこも含めてマイヤーに任せておけば大丈夫だろう。
僕が準備しないといけないものは……。いざという時のために、この前思いついたゴーレムを造っておくか。
他に、やっておいた方が良さそうなことは——
「あれっ? すっかり忘れてたけど、ユーニスって何をやってるのかな? アラベスは話を聞いてる?」
「昨日届いた通信によると、お父様——先代魔王に協力してもらって、古い書物を読み進めているところだそうです。どうやら、ここまでの手続きに時間がかかったそうで、本格的な調査はこれからだと」
「それじゃあ、こっちを手伝ってもらうのは無理か……」
バラギアン王国の南東地方に行くのは初めてだし、賢者から話を聞ければ助かると思ったんだけど……。
デノヴァルダルの街に行った時も、一緒に行ったのはアラベスとマイヤーだけだったし、そこまで気にすることもないかな?
☆
翌日。いつもより早めに朝食を終えて、大きくなったトパーズに乗り込む。
屋敷で働いている人たちも、この光景にすっかり慣れたようだ。
手を振って、飛び立つ僕たちを見送ってくれた。
大雑把な地図で確認しただけだけど、目的の街まで、マルーンの城からデノヴァルダルの街に行った時と同じぐらいの距離かな?
ゲートを使うと逆に遠くなりそうなので、まっすぐトパーズに飛んでもらうことにした。
このコースならそんなに遠回りにならないし、帰りはベレス村に寄って、マルコと話をするのも悪くなさそうだ。
広い広いオリーブ畑。満開のひまわり畑。
初夏になっても雪を被っている氷龍山脈。
上空からの眺めを楽しんでいるうちに、トパーズはあっさり国境を越えた。
……微妙に、森の色が違う?
同じバラギアン王国でも、北東地方の森はどこか暗い感じがしたけど、この辺りの森は色鮮やかで明るい感じ。
「ピーゥ! ピーゥピーゥ!」
「あっ、あれかな?」
広い盆地の中央に、コンパスで円を描いたかのような丸い湖があった。
その湖を取り囲むように、大きな街が広がっている。
「湖の真ん中に建っているのは……。お城?」
「そうです。魔王の攻撃に耐え、二度の大戦を乗り越えた城。今では、決して燃えない城として有名な……ラウデーレ城です」
僕の疑問にアラベスが答えてくれた。
直径一キロほどの湖の中央に、ポツンと城が存在する不思議な光景。
……どうやって、あんな場所に城を建てたんだろう?
そういう魔法があるのかな?
よく見ると、湖へと流れ込む川も不自然なほどまっすぐで、まるでパソコンのお絵かきソフトで適当に描いたみたいだ。
「……この街は、城塞都市じゃないんだね」
「ここも昔は、二重の壁に守られた城塞都市でした。ですが最初の大戦で、攻め込んできた魔王の攻撃を受けて、城だけ残して消滅したそうです」
「それって、つまり……? うわあぁぁ……」
魔王の攻撃で、街があった場所が湖になったってことか。
直線状の川も同じような理由でできたのかな?
上空から見る景色は綺麗だし、城が残ったのはすごいと思うけど、街が消滅したら意味が無いような……。
こうして、湖の周りに街が広がってるのを見ると……。やっぱり、平和が一番だな。うん。