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伝説の英雄に召喚されたゴーレムマスターの伝説  作者: 三月 北斗
第八章 バラギアン王国 野良ゴーレム討伐戦
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2 実験の日々(後編)

 工作室の棚について、エミリーさんに相談してみた。

 翌日にはもう、僕がお願いしたサイズで、立派な棚ができていた。


 住み込みで働いている人の中に、こういう作業が得意な人が居るらしい。

 このレベルで作ってもらえるのなら、僕の出番はなさそうだ。

 エミリーさんと作業してくれた男性に、お礼を言っておいた。

 ……こういう時、目に見える形でお礼というかボーナスというか、特別な報酬を出した方が良いのかな?

 これも仕事の範囲だから、気にしなくて大丈夫? 本当に?

 ここは素直に、エミリーさんに従っておこう。


 同じように、筆と塗料についても相談してみた。

 粘土に使えるかどうかまではわからないが、おそらく、イムルシアの首都なら手に入るだろう、とのこと。

 たまたま、横で話を聞いていたアラベスが、僕の代わりに買いに行ってくれるそうだ。

 ついでに、魔力を通しやすい素材についても調べてもらうことにした。

 僕の好みは粘土だけど、石とか木とか……。他にもあると思うんだよね。

 可能なら、いろいろ試してみたい。

 コンラウスみたいなストーンゴーレムを造るのも楽しそうだし。



 設備が充実してきた工作室で、粘土を使った実験の日々。

 魔力が尽きて動かなくなったゴーレムでも、再び呪文を唱えれば、前と同じように動き出すことがわかった。

 狐に、兎に、亀に、恐竜と。

 思いつくままにゴーレムを造ったけど、どれも問題なく動いた。


 その中でも、ティラノサウルスみたいな恐竜で実験した時。

 灰色の粘土を多めに使って、少し大きいサイズで造ったんだけど、魔力の消費もいつもより多かった気がする。

 リンドウに確かめると、僕の感覚が正しかったようだ。

 ゴーレムのサイズに応じて、必要となる魔力も変わってくるんだな。


 ……小さいゴーレムはどうなるんだろう?

 そう思って、高さ五センチぐらいの土人形と、十センチぐらいの土人形を造って実験してみた。

 どうやら、ゴーレムを小さくしても、必要となる魔力はほとんど変わらないようだ。

 十五センチぐらいのサイズが基準なのかな?

 別の素材だと、この辺りも変わってくるのかも。



 やっぱり、粘土を触るのは面白い。

 夢中になっていろいろ造っているうちに、自分の意思で魔力を絞ったり、多めに注入したりできるようになっていた。

 魔力を絞るとゴーレムが動く時間が短くなって、多めに注入すると動く時間が伸びる。

 どうやっているのか、自分でもうまく説明できないけど……。呪文を唱える時に考えていれば、その通りになるようだ。


 十を超えるゴーレムを一日で造っても、リンドウに止められなくなった。

 仮初めの石像(テンポラリゴーレム)の呪文に慣れてきた?

 石像使い(ゴーレムマスター)として成長してる?

 リンドウに聞いてみると、魔力の扱いがうまくなったそうだ。

 同じように呪文を唱えても、無駄になっていた力が減って、効率よく魔力が伝わっている、と。


 調子に乗って、自分で採ってきた赤い粘土で仮初めの石像(テンポラリゴーレム)を試してみたけど、これはうまくいかなかった。

 魔力を使った感覚はあるけど、ゴーレムとして動いてくれない。

 まだまだ、普通の素材を扱うにはレベルが足りないのか……。

 立派な石像使い(ゴーレムマスター)への道は、先が長そうだ。


         ☆


 灰色の粘土でいろいろ試して、ようやく決心が付いたので、ずっと気になっていた実験を開始。

 つまり、『綺麗なお姉さんにもらった白い粘土で仮初めの石像(テンポラリゴーレム)を造ったら、どうなるのか?』を確かめてみる。


 事前に想定していたのは、『灰色の粘土と変わらない』パターンと、『赤い粘土と同じで、僕には扱えない』パターンと、『魔力を通しやすくて、僕でも簡単に扱える』パターンの三通り。

 呪文を唱えた途端、暴走するパターンとか無いよね? ナイナイ。

 石像創造(クリエイトゴーレム)は成功してるし、大きなトラブルは起きないと信じよう。


 まずは、ルビィとそっくりの白猫を造ってみた。

 粘土の色や感触を変えて、白い毛並みや真っ赤な瞳を再現。もちろん、二本の尻尾まで完璧だ。

 白い粘土を触るのは久しぶりだけど、やっぱり、思った通りに変化する粘土は素晴らしい。どんなものでも造れる気がしてくる。

 ……神様って、こんな気分なんだろうか?


「うまくいくと良いんだけど……。仮初めの石像(テンポラリゴーレム)!」

「ふにゃあぁぁぁ……」

「おおっ! 成功した‼」

 できたばかりの白猫が、大きなあくびをしている。可愛い。

 そう言えば、ルビィを造った時もこんな反応だったっけ。

「にゃあー……。にゃーにゃー」

「背中を撫でて欲しいんだね? ここかな……?」

 優しく背中を撫でてやると、気持ちよさそうに目を細めた。

 ルビィを造った時は生命創造(クリエイトライフ)の呪文を使ったはずだけど、仮初めの石像(テンポラリゴーレム)でも動きは変わらないんだな。

 動ける時間が制限されるだけ?

 これも、いろいろ試して確認する必要があるか。


 呪文を唱えた感想としては……。すごく扱いやすい?

 灰色の粘土を使った時より、魔力の消費がずっと少なかった気がする。

 この粘土なら今の僕の実力でも、大きいゴーレムを造れそう。

 ……いや、待てよ。

 白い粘土でできてるってことは、変身もできるのでは?

 ルビィみたいに、豹の姿になれるかも……?


 白猫の身体を優しく掴んで、床に下ろしてやる。

 手をかざして声をかけようとしたところで、名前が無いことに気が付いた。

「名前が無いと不便だよね……。いや、でも……。どうせ僕のことだから、仮初めの石像(テンポラリゴーレム)で何十体もゴーレムを造ることになりそうだし……。毎回、名前を付けるのは無理かなぁ……」

 行儀良くお座りしている白猫が、僕の顔を見上げて、不思議そうな表情で首をかしげている。


 名前……名前……。無いと困るけど、毎回考えるのは厳しい……。

 新しく造った仮初めの石像(テンポラリゴーレム)は、みんな共通の名前で良いかな?

 基本は共通で、何か閃いたら別の名前を付けるってことで。

 まずは、共通の名前を——

「よし、決めた。お前の名前はアジサイだよ。アジサイ一号だ」

「ふにゃっ……? にゃあっ!」

 前の世界で、田舎のおじいちゃんが育てていた紫陽花。

 こっちの世界に来て、ベレス村で見た紫陽花。

 今住んでいる屋敷の庭に植えてある紫陽花。

 名前を考えていると、同じ種類でも環境に応じて色を変える花が、ふと、脳裏をよぎった。

 同じ粘土から産み出されて、毎回形を変えるゴーレムには、ぴったりの名前じゃないかな?

 アジサイも喜んでくれたようだし……。これで決まり、と。


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