1 実験の日々(前編)
無事に屋敷へと戻った僕は、石像使いのおじいちゃんに譲ってもらった粘土でいろいろ実験してみた。
まずは、仮初めの石像の復習から。
灰色の粘土で高さ十五センチほどの土人形を造り、呪文を唱える。
「仮初めの石像!」
二回目だから、かな? あっさり成功して、土人形が動き出した。
僕の呼びかけに応じて、自由に動いてくれる。
どうやら、ゴーレムになると素材が微妙に変化するようで、粘土の時より肌が硬くなってる。
軽く水をかけてみたけど、溶け出すようなこともなかった。
……これも、魔力の影響かな?
いろいろ試していると、一時間ほどで土人形は動かなくなった。
今の僕にはこれぐらいが限界なんだろう。
続けて、サイズは同じぐらいで犬っぽい形を粘土で造り、呪文を唱えた。
「ワンッ! ワンワンッ!」
軽く背中を撫でてやると、犬のゴーレムが勢いよく尻尾を振った。
成功したのは嬉しいけど……お前は鳴き声を出せるんだね。
だとしたら、さっき造った土人形やオニキスがしゃべらないのは、ロボットっぽい見た目でしゃべるところを、僕が想像できないから?
しっかり想像すれば、オニキスも声を出せるようになるのかな?
身振りや手振りで意思疎通できてるけど、声が出せた方が便利なこともあるだろうし……。オニキスのバージョンアップを考えておこう。
犬のゴーレムに続いて、鳩っぽいゴーレムを造ってみた。
こちらもあっさり成功。
同時に二体造っても問題ない、と。
キョロキョロと首を振る動きが可愛い。
翼の動きも滑らかで、良くできてると思うんだけど……。
羽ばたいても飛び立てない? 身体が重すぎるのかな?
この辺りが、灰色の粘土で造ったゴーレムの限界のようだ。
これが、綺麗なお姉さんにもらった白い粘土だったら、素材レベルで変化するから、重さの問題も無いんだけど。
オニキスみたいに、重量を制御する機能を付けたらどうかな?
仮初めの石像で機能を試せるのなら、本物のゴーレムを造る時も参考になるだろうし……。やってみる価値はありそうだ。
犬のゴーレムと鳥のゴーレム。
どっちも全身が灰色なのは、ちょっとシュール?
なんとなく、見てて寂しい感じがする。ちゃんと色を付けてあげたい。
……この世界に、エアブラシは存在しないか?
筆塗りでも良いけど、粘土に使える塗料が手に入るんだろうか?
ここは思い切って、白い粘土でエアブラシと塗料を作れば——いや、それは何か違う気がする。本末転倒だな。
まずは、自分の力でどうにかするべき……。
筆や塗料が手に入らないか、後でエミリーさんに聞いてみよう。
いや、待てよ。
色を塗っちゃうと、粘土を再利用できなくなるか。
魔力が尽きたら粘土に戻るのに、他に使えなくなったら……。そのまま、置いておけば良いかな?
工作室は広いし、棚を置けるようなスペースもまだまだ残っている。
ちゃんと説明すればマイヤーやエミリーさんも、潰して箱にしまえとは言わないだろう。
……言わないよね?
今は椅子とテーブルしかないけど、棚ぐらい自分で作っても良いし、屋敷で働いている人に工作が得意な人が居るかもしれないし。
これも、エミリーさんに相談して……。
その前に、魔力が尽きて動かなくなったゴーレムを、もう一度、ゴーレムとして動かすことができるのか、実験が必要だな。
これが可能なら、何度も同じモデルを作る必要が無くなる。
完成した塑像を棚に飾っておいて、必要な時だけゴーレムとして働いてもらえば便利……。役に立つ場面を思いつかないけど、きっと便利だろう。
「仮初めの石像! ……あれっ?」
動かなくなっていた土人形に手をかざし、呪文を唱える。
……何も起きない? 呪文を間違えたかな?
魔力が流れた感じがしなかったけど……。
不思議に思いながら右手の指輪を見ると、なんだか、怒っているような雰囲気が伝わってきた。
……これってもしかして、今日はもう、やめておいた方が良いってこと?
あっ、そうですか……。
わかりました。これぐらいにしておきます。
どうやらリンドウは、前に僕が言ったことを覚えていて、魔法を使うのをサポートしてくれているらしい。
これ以上、魔力を使うと気を失う危険があるので、そうなる前に止めてくれたようだ。
経験上、粘土に夢中になると他のことを忘れちゃうからなぁ……。危ない目にあう前に止めてくれたのを感謝しないと。
……ありがとう、リンドウ。
心の中で感謝すると、紫水晶の奥で白い点がキラッと光った。
いまさらだけど、リンドウのモデルになった指輪に填まってた石も、魔石の一種なのかな?
また、石像使いのおじいちゃんに会う機会があったら聞いてみよう。