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伝説の英雄に召喚されたゴーレムマスターの伝説  作者: 三月 北斗
第七章 正しいゴーレムの造り方
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閑話休題 女神の独り言

 久しぶりに、私だけの秘密基地に帰ってきました。

 このところ仕事が忙しくて、ゆっくり休む時間もとれなかったのですが、たまには息抜きも必要でしょう。


 お母様から割り振られた仕事を、最近は予定よりも早く進めています。

 妹たちには内緒ですが、これは秘密の計画のためです。

 ノルマに余裕を作っておいて、こっそり眷属を呼び寄せて、私とそっくりに変装させれば……。私が地上に行っても、バレることはないでしょう。

 幸いなことに、私の眷属にはやることがなくて暇にしている者が大勢居ます。

 ……完璧な計画ですね!


 それはともかく、疲れた体には休息が必要です。

 まずは冷たいジュースを飲んで、気分を落ち着かせて……。

 創多さんの生活を見守るのも久しぶりです。

 最後に見たのは確か、大きくなったオニキスさんが、ガーディアンを倒したところでしたね。

 ルビィさんが豹の姿になって、創多さんを背中に乗せて、すごく張り切っていたのを思い出します。

 あと、オニキスさんが強くてびっくりしました。

 お母様が産みだした最初の巨人族……。サイクロプスやヘカトンケイルよりも強いのではないでしょうか? さすがに言い過ぎかしら?



 ちょっと、シロ。

 あなたはここで、創多さんたちをずっと見守っていたのでしょう?

 あれから、何か変わったことはなかったかしら?

 ……創多さんが新しい家に引っ越した?

 森に囲まれた場所で、ルビィさんもトパーズさんも満足してる?

 そう言えば、英雄の城でそんな話をしてましたね。

 どうやら、創多さんにふさわしい立派な屋敷のようで良かったです。

 でも、英雄の顔を思い出すと、ちょっぴり嫌な気分になるのは何故でしょう?

 ……気のせいですよね、きっと。

 女神が人間に嫉妬するだなんて、そんなこと有り得ないですから。


         ☆


 お久しぶりです、ルビィさん。今日も機嫌が良いようですね。

 それで、今日はどこに向かってるんですか? 馬車に乗ってお出かけしているようですが。

 ……なるほど。偉い人に挨拶しに行って、その帰り道なんですね。

 それで、創多さんがいつもより良い服を着ているんですか。

 いつものラフな服装も良いですが、きっちりした服も良くお似合いで。


 そして、創多さんは相変わらず、動物を撫でるのがお上手ですね。

 背中を撫でてもらっているルビィさんから、安心感と満足感で蕩けそうになっているのが伝わってきます。

 こんなに気持ちいいのですもの。

 ご主人さまを好きになるのも当然ですよね。

 五感を共有している私まで、蕩けてしまいそうで……。


 ……危ない危ない。女神ともあろうものが、身体の力がすっかり抜けてしまうところでした。

 ちょっと、シロ。よだれを拭きなさい。

 テーブルから落ちそうになってるわよ。



 さて、気を取り直して……。

 ルビィさん。最近、何か変わったことはありましたか?

 えっ? 昨日、オニキスさんが偉い人と決闘した?

 けど、あっさり勝ったから大丈夫?

 ……それは、本当に大丈夫なのでしょうか?

 もう少し、詳しく教えてもらえませんか?

 どうせ、シロも見てたんでしょう?

 創多さんの話で、隠し事は許しませんよ。


 ……なるほど。

 この国の先代魔王が、オニキスさんを相手に力試ししたのですね。

 前に、魔族の娘が挑戦したのと同じようなものですか。

 結果も同じような感じだった、と。

 それなら、私が気にするほどのことでもないでしょう。

 ……本当にそうでしょうか?

 なんだか、感覚が麻痺しているような気もします。

 このところ、仕事で忙しかったのが原因かもしれませんね。そういうことにしておきましょう。



 ルビィさんとお話ししている間に、馬車は小さな宿場町に着きました。

 ここで食事をして、ここから先はトパーズさんで移動するのですね。

 創多さんの会話から、この後の予定がわかりました。

 お付きの二人……。確か、アラベスとマイヤーという名前でしたね。

 アラベスの方は旅慣れているようですし、マイヤーの方はかなり腕が立つようです。この二人と一緒なら、創多さんも安心でしょう。


 えっ? ボクがいるから大丈夫、ですって?

 そうでしたね。創多さんには、もっと強い味方がいました。

 ルビィさんと一緒にいれば、どこに行っても大丈夫ですよね。

 話を聞いていたのでしょうか? 少し離れたところから、トパーズさんの鳴き声も聞こえてきます。

 オニキスさんやリンドウさんも居ますし、たとえ魔王でも、創多さんに危害を加えるのは無理でしょう。


 それで、その……。創多さんを見守る会に、私も入れてもらうのは駄目でしょうか?

 えっ? 良いのですか⁉

 私は創多さんの恩人だから、既にメンバーのようなもの……?

 ありがとうございます!

 近いうちに自分の身体で会いに来る予定ですので、その時、正式にメンバーに入れて下さい。

 ええ、もちろんです。決して、創多さんにご迷惑おかけするようなことはしませんから。

 ……どうしてそこでルビィさんが、何かを言いたそうな表情に変わるのでしょうか?

 ちょっと、シロ。あなたまで、疑うような目で女神を見るのはやめて。


         ☆


 食事を終えた創多さんは予定通り、お付きの二人と一緒に、トパーズさんに乗って飛び立ちました。

 深い森。尖った山々。大きな城塞都市。

 やっぱり、トパーズさんの背中から見る景色は素晴らしいですね。

 遙かな高みから見るのとは、大きく印象が違います。

 創多さんを背中に乗せるのが嬉しいのでしょう。

 トパーズさんも楽しそうにしていました。


 最後は長い坂道を徒歩で登って、小さな鉱山跡に到着。

 ……家に帰るところではなかったのでしょうか?

 こんなところに何の用事があるのでしょう?

 どうやら予定通りの行動のようで、創多さんたちは大きな建物へと入っていきます。

 一行を迎え入れたのは、前に創多さんを迎えに来たエルフの賢者ですね?

 確か、ユーニスと名乗っていたはずです。

 ……わざわざ、こんなところで待ち合わせですか?

 不思議に思いながら状況を見守っていると、部屋へと通された創多さんに、いきなり女性が抱きつきました。


 見覚えがない女ですが……。誰ですか、これは?

 誰の許可を得て、私の創多さんに——すみません、ちょっと言い過ぎました。

 女神ともあろうものが、取り乱してはいけませんね。

 落ち着きましょう。まずは深呼吸をして……。


 ……ルビィさんは落ち着いてますね。

 見知らぬ女に、あんな無礼な行動を許して置いて良いのですか?

 えっ? 危険な感じはしない? 頬ずりぐらい問題ない?

 それは、野生の勘という奴でしょうか?

 抱きつくのを許していると、どんどんエスカレートしますよ?

 あれぐらいなら、私もやって良いってことですよね?

 そうなったら、創多さんと私は……。私は——


 私の妄想が広がるのより早く、ユーニスとアラベスが創多さんから女性を引き離しました。

 そのまま、腕を抱えて部屋の外へと連れ出します。

 何が何だかわかりませんが、平和になったことを喜びましょう。

 ようやく、私も落ち着いてきました。


         ☆


 気付くのが遅くなりましたが、部屋の奥に、魔族の老人が座っていました。

 ……なるほど。この老人も石像使い(ゴーレムマスター)で、この人に会うために、こんな山奥まで来たのですね。

 お茶の載ったお盆を手に、奥の扉から入ってきたストーンゴーレムを見て、創多さんは明らかに興奮しています。

 私と再会した時も、これぐらい興奮してもらえるでしょうか?

 石造りの人形に嫉妬するだなんて、私もまだまだですね……。


 おや? 老人が出してきたのは、魂の水晶ですか。

 懐かしいですね。お母様からもらって私も持っていますが、あれは、どこに仕舞ったかしら?

 ……それはともかく。老人が持ってきたのは、本物を真似て作った模造品のようですね。機能には問題なさそうですが。

 創多さんが触れると、水晶が強く光りました。

 光り方が強すぎるような気もしますが、気のせいでしょう。


 女神の加護を受けた人間は、魂まで保護される……。でしたっけ?

 だから、気楽に加護を与えてはいけないって、ずいぶん昔にお母様から注意されたような気がしますが、これも気のせいでしょう。

 私が創多さんに加護を与えたのは、運命だったのです。

 ちょっと、シロ。どうしてあなたが、大きくうなずいてるのかしら?



 創多さんと老人は、楽しそうに会話を続けています。

 最初こそ、少し手間取ったようですが、仮初めの石像(テンポラリゴーレム)にもすぐに慣れました。

 あらっ? 気のせいかしら?

 今、創多さんに感謝されたような気がしたのですが……。

 私からも、創多さんに感謝しておきます。

 あなたのおかげで私は、退屈な毎日から解放されたのです。


 本物の石像使い(ゴーレムマスター)と認められて、創多さんは老人から、ゴーレムの秘密を知らされました。

 ……さすが創多さんです。魂を分け与えた存在だと聞いても、すんなり受け入れられたようですね。

 このような人を、度量が広いと言うのでしょう。

 自分の寿命の話より、新しい粘土を気にするのはどうかと思いますが……。


 粘土の話もまとまって、後は帰るだけでしょうか?

 そう思っていたら、別の部屋に行っていた三人が帰ってきました。

 創多さんに抱きついたエルフの女性……。マーガレットというのですね。

 こちらも、すっかり落ち着いたようです。


 さっきは興奮していたので気付きませんでしたが、この女性は普通のエルフではないですね?

 この魔力量。妖精っぽい気配。うっすらとオレンジがかった髪。

 ハイエルフのように思えますが……それだけでは無い? 直接見れば、もっとよくわかるのですが……。

 マーガレットを見ていると、何故か、春生まれの妹を思い出しました。

 春生まれの妹? そう言えば、どこかの城で伝説の英雄に会った時も、同じようなことを考えましたね。

 ……まさか⁉


 ルビィさんの眼を借りて、マーガレットの手首の辺りを観察します。

 ……嫌な予感が的中しました。

 他の人には見えてないでしょうが、手首に巻き付いている赤い糸が、創多さんの手首へと伸びています。

 この女の正体は……。伝説の英雄として紹介された、マルーンですね!

 巨人族の女性からハイエルフの女性へと、肉体が完全に変化していますが間違いありません。

 魔法を使っている様子もないですし、どうやって完璧な変装をしているのかは謎ですが、細かい話は置いておきましょう。


 マーガレットには要注意です。ルビィさんもそのつもりで——

 えっ? 創多さんの味方なら問題ない?

 強い味方が増えるのは大歓迎?

 ……そうですか。では、私だけでも頑張りましょう。

 ちょっと、シロ。どうしてあなたが、にっこり微笑んでいるのですか?

 あなたは私の味方ですよね?

 違うとは言わせませんよ!


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