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伝説の英雄に召喚されたゴーレムマスターの伝説  作者: 三月 北斗
第七章 正しいゴーレムの造り方
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閑話休題 石像使いの衝撃

「コンラウス、お茶を入れてくれ」

 鉱山跡に残された、木造の大きな建物。

 昔はここに、鉱山を管理する役人が住んでいたそうだが、今ではワシの別荘のようになっている。

 建物の一階にある狭い部屋で、ソファに深々と身体を沈めて、ワシはこれほど疲れることになった原因を考えていた。


         ☆


 そもそものきっかけは、二ヶ月ほど前の出来事だろう。

 デノヴァルダルの街でガーディアンが暴れていると、冒険者ギルドに務めている友人から連絡が入った。

 簡単に信じられるような話ではなかったが……。古い友人の声から、真剣な響きが伝わってきた。少なくとも冗談ではなさそうだ。

『ワシは石像使い(ゴーレムマスター)だが、ガーディアンをどうにかできるほどの実力はない』

『ガーディアンが動き出した理由も止める方法も、すぐにはわからない』

『無理に相手をするよりも、放置した方が良いのではないか?』

 友人にはそう、返事をしておいた。


 ……どれも、本当の話だ。

 ワシの能力では、ストーンゴーレムを一体造るのが精一杯だった。

 マスターの体調を気遣って、疲れた時には甘いお茶を入れてくれるコンラウスを気に入ってはいるが、師匠やそのまた師匠に比べると、ワシは石像使い(ゴーレムマスター)として三流レベルだろう。

 師匠が残してくれた資料のおかげで、知識だけは他の石像使い(ゴーレムマスター)よりもあると自負しているが、それでも、ガーディアンについてはわからないことだらけ。


 何の役にも立てなかった……。

 ひどく落ち込みそうになったところで、何故か、数年前にゴーレムの話を聞きに来た二人組を思い出した。

 賢者らしいエルフの娘と、魔法戦士らしい魔族の娘。

 特に魔族の娘の方は、ゴーレムについて熱心に知りたがり、自分から進んで試験を受けるほどだった。

 あの娘に石像使い(ゴーレムマスター)の才能があれば、ワシにも弟子ができて、師匠が残した資料を譲ることができただろうに……。


 それはともかく、ここで思い出したのも何かの縁だ。

 何かあったら連絡して欲しいと言っていたし、ガーディアンの情報を魔族の娘に送っておこう。

 既に冒険者ギルドで話を聞いているかもしれないが、これが何かのきっかけになって、遊びに来てくれるかもしれないし。

 ……そんな考えで、連絡を入れたのが間違いだったのか?

 ワシのちょっとした遊び心が、この状況を引き起こしたのか?

 いや、これで良かったのだろう。何も知らないところで話が進むより、少しでも関われる方が良かったと思おう。



 しばらく経って、古い友人から再び連絡が入った。

 動き出したガーディアンは、鉄の巨人の手で破壊されたそうだ。

 ……鉄の巨人とは何だ?

 ガーディアンより大きいアイアンゴーレム⁉

 それはもう、アイアンゴーレムでは無いだろう。

 飛びかかったガーディアンを、一撃で粉砕した?

 伝説に残るミスリルゴーレムでも、そんなことは不可能だろう。

 全員が幻覚を見ていたのではないか? その方がまだ、現実味があるぞ。

 デノヴァルダルの街にガーディアンの欠片が残っているから、それを見て判断して欲しいって……。本当なのか? 全て、本当の話なのか⁉

 何度もやりとりをして確かめたが、この情報も冗談ではないらしい。


 ガーディアンの話は気になるが、仕事が忙しくてデノヴァルダルに行く時間をなかなか作れなかった。

 石像使い(ゴーレムマスター)としては三流じゃが、ワシも働かなければ生きていけない。

 幸いなことに、魔石の扱いに慣れていたので、魔石を組み込んだ魔術具造りをはじめたら、これが貴族の間で評判になった。

 まさかこうなることまで見越して、師匠は魔石の扱い方をワシに仕込んだ訳ではないだろうが……。

 魔術具が売れたおかげで、金銭的に困ることもなくなった。

 忙しすぎて、ゴーレムの研究をする時間がとれないのは困りものじゃが、魔術具に使う技術には、ゴーレム造りの技術を応用している部分もある。

 師匠もきっと、笑って許してくれることじゃろう。

 もっと若い頃に魔術具造りをはじめていれば、妻が娘を連れて家を出て行くこともなかっただろうに……。これが人生というものか。



 そして、一ヶ月ほど前。

 あの、魔族の娘から、知り合いの少年を紹介したいと連絡があった。

 その少年は自分の力で、ゴーレムを造るのに成功したらしい。

 誰にも習わずにゴーレムを造るのは珍しいケースではあるが、決して有り得ない話ではない。

 師匠が残した資料にも、同じような話がいくつか残されていた。


 鍵となるのは魔力を通しやすい素材だが、逆に言うとそれさえ手に入れてしまえば、魔力の豊富な子どもが、思いつきでゴーレムを造ることがある。

 さらに珍しいケースになるが、本物のゴーレムを造ってしまうこともある。

 後者の場合、正しい造り方を知らないままにゴーレムを造り続けると、造った本人が大変な目にあってしまう。

 そうならないように指導するのも石像使い(ゴーレムマスター)の役目だと、亡くなる前に師匠が言っていた。

 ワシに会いに来るのも何かの縁だ。

 その少年に問題が起きないよう、しっかり指導してやろう。

 あの時は、そう思っていたのだが……。ワシの思い上がりじゃった。


         ☆


「んっ……?」

 すっかり薄暗くなっていた部屋が、急に明るくなった。

 どうやら、コンラウスが気を利かせて、明かりを点けてくれたようだ。

「すまんな……」

 壁際に立っているストーンゴーレムに声をかけて、すっかり冷めてしまったお茶を口に含む。ほんのり甘い香りが口の奥に広がっていく。


 主人の体調を気遣ってくれるゴーレム。

 お茶を入れるだけではなく、簡単な料理だって作れる。

 もちろん、いざという時には身体を張ってワシを守ってくれる。

 戦争がなくなり、平和になった時代のゴーレムとして、コンラウスは理想的な姿だと思うのじゃが、『それなら、普通の人間を雇った方がマシだ』と、他の石像使い(ゴーレムマスター)に鼻で笑われてしまった。

 あの時、ワシは……。何も言い返せなかった……。


 決して裏切ることがない、人生の相棒(パートナー)となってくれるゴーレム。

 これこそが、ゴーレムの完成形ではないのか?

 争いだけに力を使うのが、正しい姿なのか?

 平和な時代に、石像使い(ゴーレムマスター)は不要なのか?

 このまま、消えゆく存在なのか?

 そう考えて、研究を続けてきたが……。

 あきらめんぞ……。ワシにもまだ、やれることがあるはずじゃ。


「コンラウス、夕食の準備を頼む」

 細かい指示を出さなくても、コンラウスは料理のできる部屋へと向かい、ワシが食べたい料理を作って持ってきてくれる。

 肉を切って、焼いて、味付けして……。たまに失敗することもあるが、それぐらいはご愛嬌だ。

 あの少年が連れていたゴーレム……。確か、オニキスという名前だったな。

 オニキスにも、料理ができるのだろうか?

 ……今はできないかもしれないが、少年が命令すれば、すぐにできるようになるだろう。特に根拠はないが、石像使い(ゴーレムマスター)としての勘がそう言っておる。


         ☆


 ソウタという名前の少年には、心の底から驚かされた。

 長く生きてきた中で、こんなに驚いたのは初めてだと断言できる。

 驚きすぎて、息を吸うのも忘れるほどだった。


 おそらくあの少年は、純粋に粘土が好きで、小さい頃から粘土で遊んでいるタイプだろう。

 粘土に触れながら妄想を広げているうちに、その勢いで、石像創造(クリエイトゴーレム)の呪文に目覚めたと思われる。

 石像使い(ゴーレムマスター)になりたくて、粘土の扱いを修行と捉えているタイプとは違う。

 ちゃんとしたやり方を身に着ければ……。長生きさえできれば、石像使い(ゴーレムマスター)として大成するタイプだ。


 自由に妄想を広げた結果、あのゴーレム……。オニキスができたのだろう。

 しかし、大きくなったり小さくなったり、完全に変化するゴーレムとは。

 詳しいことは調べてみないとわからないが、実身変化(シェイプチェンジ)の機能が組み込まれているのか? そんなことが可能なのか?

 必要に応じて身体の一部が変化するゴーレムなら過去にもあったが、これほどのものになると……。


 もちろん、問題はそれだけでは無い。

 魔族の娘が軽い口調で言っておった。

『大きくなったオニキスさんが、ガーディアンを倒したんですよ』

 古い友人から聞いた、鉄の巨人の話。

 その正体がオニキスで、オニキスを造ったのはソウタ殿……?

 あくまでも噂だが、ガーディアン一体を造るために、何人もの魔法使い(ソーサーラー)が潰されたと聞いておる。

 だから、石像使い(ゴーレムマスター)の間でガーディアンは嫌われているし、同じ理由でガーディアンは、街を守れるほど強い。

 そのガーディアンを倒せるゴーレムとは……。

 どれほどの魂を捧げれば、そんなに強いゴーレムが造れるのか?


 いや、オニキスの話は置いておこう。

 目の前に居るゴーレムを否定しても始まらない。

 そんなことより、最大の問題は……ソウタ殿だ。

 ソウタ殿が魂の水晶に触れた時、見たことがないほど強く光った。

 つまり、あれほどすごいゴーレムを造ったのに、まだまだ大量に魂が残っていると言うことだ。

 ……そんなことが有り得るのか?


 魂の量は寿命に比例しない。

 エルフでも魔族でも人間でも、生まれた時の魂にそれほど差はない。

 ある程度の大小はあるが、それは個人差のレベル……。師匠からはそう習ったし、ワシの経験から言ってもそうだと思っていた。

 ソウタ殿の魂も、個人差のレベルなのだろうか?

 それとも……。まさか、魂を扱えるようなスキルを——


         ☆


 カタッと小さな音を耳にして、ワシはゆっくり目を開けた。

 いつの間にか目の前のテーブルに、白いパンとスープが並んでいる。

 湯気が出ているところを見ると、スープを温め直してくれたのか。

 ……少し、温めすぎではないか?

 まだ、肉も残っていたはずじゃが……。何もしてないのに疲れたし、なんだか胃が痛むような気もするし、今日はこれぐらいにしておくのが正解か。

「ありがとうな、コンラウス」

 コンラウスはいつものように、お茶を注いでくれた。

 ……そうじゃな。難しいことは明日にするか。

 ワシもいい歳じゃ。もう、無理が利く身体でもない。

 考えたいことが山ほどあるが、今日は早めに休もう。


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