8 鍾乳洞
真面目な話が一段落して、軽い雑談が始まった。
ローブ姿の老人は石像使いが本職だけど、最近では、知り合いの貴族に頼まれてやっている魔術具作りの方が忙しいそうだ。
こんな山奥の鉱山跡に来ているのも、魔術具を作るのに必要な材料が足りなくなったから、と。
話の流れで少しだけ、鉱山の跡地を見学させてもらった。
鉄製の重々しい扉をコンラウスが開けて、山の中へと案内してもらう。
僕は勝手に、人の手で掘ったトンネルを想像していたんだけど、入口部分は天然の洞窟で、百メートルほど進んだところで開けた空間になっていた。
オニキスが立てるぐらい高い天井。
ほんのり青く光っている不思議な石。
天井から何本もぶら下がっている鍾乳石。
もっと深い場所から魔石を掘り出してきて、ここで選別していたようで、広場の端の方に、出荷されなかったクズ石が山のように積まれている。
石像使いのおじいちゃんは、残された石の中から良さそうな物を探して、魔術具造りに使っているそうだ。
赤い魔石に青い魔石、魔力を通しやすい粘土の話。
鉱山に活気があった時代には、ここでドワーフも働いていたとか。
観光客になった気分で、いろいろ説明してもらって……楽しかったです。
鉱山を出た時にはもう、遠くの空がオレンジ色に染まっていた。
ユーニスとマーガレットは暗くなる前に、近くの街まで帰るそうだ。
建物の間に繋いであった馬に乗り、つづら折りの坂道を下りていった。
マーガレットの正体について、話をしたかったけど……。近いうちに会える予感がするし、急ぐ必要もないかな。
石像使いのおじいちゃんは、もう数日、ここに泊まる予定らしい。
鉱山跡に住んでる人は居なくて、他に訪れる人と言えば、近所の猟師が山小屋代わりに泊まりに来るぐらいだそうだけど……。コンラウスが居るから、一人でも大丈夫なのかな?
アラベスとマイヤーと相談して、僕たちも帰ることにした。
もう、バラギアン王国のゲートまで行くには遅い時間なので、今日は旧ディブロンクの街で宿を取ることに。
空から見た時はわからなかったけど、建物が並んでいる場所の奥にちょっとした広場があったので、そこで、トパーズに大きくなってもらった。
事前に説明しておいたんだけど……。ローブ姿の老人は、アゴが外れそうなほど口を大きく開けて、びっくりしていた。
驚かせたのは悪いと思うけど、また、わからないことがあったら話を聞きにくると思うし、慣れておいてもらった方が良いよね?
僕たちと一緒に粘土の入った箱を背中に乗せて、トパーズは暮れなずむ空へと飛び立った。
弟子入りの課題をアラベスに出して、一ヶ月ぐらい。
ここに来るまで、いろいろと大変だったけど、石像使いのおじいちゃんは良い人だったし、知りたかった話は聞けたし、これで良かった……かな。
特に、仮初めの石像を教えてもらえたのは大きかったな。
家に帰ったら新しい粘土で、いろいろ実験してみたい。
心残りと言えば、おじいちゃんの名前を聞けなかったことぐらいか。
ずっと気になってたんだけど、言い出すタイミングが見つからなくて……。
社会人だった時代、初対面の人と名刺を交換してたのが懐かしい。
綺麗な夕焼け空を眺めながら、僕はそんなことを考えていた。
旧ディブロンクの街に着いた時にはもう、日がとっぷりと暮れていたけど、門番の人がすごく親切で、良い感じの宿まで紹介してくれた。
ご飯もすごく美味しかったし……。ここは良い街だな。
「にゃあ〜……」
……ルビィも気に入ったようだ。たぶん。