7 ガーディアン
「いつまでも立たせたままで申し訳ない。どうぞ皆さん、空いている椅子に座って下され。今、新しいお茶を出させますので」
僕とマーガレットが自己紹介をしている間に、石像使いのおじいちゃんは立ち直ったらしい。
コンラウスにお茶を入れ直すように命令して、自分は床に倒れていた椅子を元に直して、椅子へと座り直していた。
ストーンゴーレムが太い指で、冷めてしまったお茶を器用に下げてくれる。
……横に居るマイヤーから、嫌な視線を感じるのは気のせいかな?
まさかとは思うけど、ゴーレムをライバル視してる?
オニキスにお茶出しを頼むのは止めておくか……。
「それで……。確かそちらのお嬢さんは、ガーディアンについて詳しく知りたいと言うことでしたな」
全員が席に着いたタイミングで、老人がユーニスに話しかけた。
「ええ、そうです。この地方を治めている伯爵から、冒険者ギルドを通して依頼を受けて、ガーディアンについて調査しています。本当なら、そこに居るアラベスが適任だったのですが——」
「私には他に大事な用事があったので、ユーニスに任せました」
こっそりユーニスから睨まれても、アラベスは堂々とした態度を崩してないけど……。大事な用事って、僕の弟子になること?
ガーディアンの調査の方が大事じゃないかな?
「……念のために、お嬢さん方がソウタ殿とどのような関係なのか、教えていただいても宜しいかな?」
「私は、ソウタ殿の一番弟子です!」
横に座っていたアラベスがさっと立ち上がり、拳を握りしめて宣言した。
石像使いのおじいちゃんを紹介してもらったし、言ってることは間違ってないけど……。そこまではっきり言われると、なんだか恥ずかしいです。
「私はアラベスの同僚で、ソウタさんのお供でもあります」
「私は……ソウタ君のファンの一人、かな? 今回はユーニスの付き添いとして来ただけだから、そんなに気にしないで」
ユーニスの話はともかく、マーガレットの発言が気になるけど……。ここはスルーしておこう。
マイヤーが何も言わないのは、さっき自己紹介で説明したから、かな?
「なるほど、そういうことですか……。本音で言うと、ガーディアンの話はあまり広めたくないのですが、ソウタ殿の関係者なら問題ないでしょう」
ローブ姿の老人はガーディアンについて知っていることを、可能な範囲で説明してくれた。
☆
ガーディアンが造られたのは、今から三千年ほど昔。
今では『魔族大戦』と呼ばれている、最初の大戦が起きる前だった。
その当時、バラギアン王国を治めていた魔王は有名な石像使いで、魔王としての立場を利用して魔法使いを集め、命令で魔力を献上させてガーディアンを造り上げた。
「ガーディアン作成に使われたのはゴーレムを造る魔法ですが、魔王が開発した独自の技術が多く使われていて……。詳しい話は、我々のような一般の石像使いには伝わってないのです」
「そうすると、ガーディアンが動き出した理由も……?」
「申し訳ないですが、ワシにもわかりません。ですが、詳しい情報が残されている場所ならば、心当たりがあります」
「それは、どこですか……?」
ユーニスと老人が話しているのを聞きながら、僕はガーディアンについて考えていた。
ガーディアンはゴーレムの一種で間違いないだろう。
ゴーレムを造るには魂が必要になる。つまり、ガーディアンを何体も造るためには、それだけ多くの魂を集める必要がある?
さっき、魔力を献上させたって言ってたけど、本当は魂を……?
そんなことが可能なのか、僕にはわからないけど、石像使いのおじいちゃんがガーディアンの話を広めたくないという理由がわかった気がする。
「王都にある城には魔王しか入れない部屋がいくつかあり、その中に、国の歴史をまとめた部屋もあるそうです。そこなら、おそらく……」
「その部屋の話は私も聞いたことがあります。しかし、魔王しか入れない部屋となると、簡単には——」
老人と話をしていたユーニスが、アラベスの方をチラリと見た。
……ユーニスは、アラベスの事情を知ってるんだな。
何も聞こえてないような顔で、アラベスはお茶を飲んでいるけど……。その話を、ここでするつもりはないってことか。
「……わかりました。今回の調査はディブロンク伯爵からの依頼ですし、魔王に話を通してもらえるよう、伯爵にお願いしてみましょう」
「うむ。それが良いと思いますぞ。それと……ソウタ殿!」
「えっ? 僕ですか?」
のんびりお茶を飲んでたら、いきなり名前を呼ばれた。
ガーディアンの話は終わったのでは……?
「ワシはソウタ殿の師匠ではないし、兄弟子でもない。今日、会ったばかりの関係じゃが、石像使いの先輩として、お願いしたいことがあるのだが……。聞いてもらえるかな?」
「……何でしょう?」
ローブ姿の老人が、僕の顔をまっすぐ見つめている。
アラベスに連れられてこの建物に来て、短い時間で老人のいろいろな表情を目にしたけど、ここまで真剣な表情は初めてだ。
「ゴーレムの力で、誰かを不幸にすることがないように……。ソウタ殿が造ったゴーレムは、困っている人を助けるために使って欲しい。老い先短い老人の願いとして、覚えておいてもらえれば幸いじゃ……」
深い憂いを秘めた視線を通じて、熱い想いが伝わってくる。
もう、間違いない。僕の想像は当たっていたようだ。
ガーディアンは街を守るために造られた存在だけど、ガーディアンを造るために誰かを犠牲にするようなやり方は良くない、と。
おそらく、ここに居る石像使いのおじいちゃんだけじゃなく、この人の師匠やそのまた師匠も、同じように考えていたのだろう。
「……わかりました。石像使いの後輩として、お約束します」
だったら僕は、僕だけの力でゴーレムを造って、困っている人を助けるために使うことにしよう。
元々、自分の趣味でいろいろ造ってただけだし、誰かの役に立てるのなら、その方が良いよね。