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伝説の英雄に召喚されたゴーレムマスターの伝説  作者: 三月 北斗
第七章 正しいゴーレムの造り方
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5 本物のゴーレム

「名のある石像使い(ゴーレムマスター)に弟子入りして、まずは粘土を使って練習して、仮初めの石像(テンポラリゴーレム)を使えるようになって、最後に石像創造(クリエイトゴーレム)を教えてもらうのが、ワシの知っている石像使い(ゴーレムマスター)になる方法でしたが……。どうやらソウタ殿は、まったく違ったやり方で石像使い(ゴーレムマスター)になったようですな」

「それは……すみません。自分でも、よくわかってなくて」

「謝るようなことではないですぞ。過去にもソウタ殿と同じように、突然閃いて石像使い(ゴーレムマスター)になった者が居るそうですし」

「……そうなんですか?」

「師匠が残した文献に、そのような記述がありました。……ワシは大した腕前ではないですが、ワシの師匠やそのまた師匠は有名な石像使い(ゴーレムマスター)でしてな。代々受け継いできた資料も、かなりの物なんですよ」

 白髪の老人が、テーブルの横に立っているストーンゴーレムを見る。

 たしか、コンラウスって名前だっけ?

 こんなゴーレムを造れるのなら、十分すごい腕前だと思うけど……。師匠はもっとすごかったってことか。


「にゃあっ! にゃあにゃあ!」

「どうしたの? ルビィ」

 白猫の鳴き声に釣られて、テーブルの上に視線を向けた。

 ついさっき、僕が造った土人形の前で、ルビィは可愛くお座りしている。

 土人形はサイズこそ小さいけど、コンラウスと呼ばれたストーンゴーレムを忠実に再現していて——あれっ? 何かおかしい? 身体から力が抜けた?

「……動かなくなってる? どうしたんだろう?」

「魔力が尽きたのです」

「あっ‼ あー……そういうことですか。そこが、仮初めの石像(テンポラリゴーレム)石像創造(クリエイトゴーレム)の違いなんですね」

 老人のつぶやいた一言で、全ての理由がわかった。

 仮初めの石像(テンポラリゴーレム)は、動ける時間が決まってるんだ。

「ソウタ殿が経験を積めば、仮初めの石像(テンポラリゴーレム)でも丸一日ぐらい動かせるようになるでしょう。ですが、それ以上は……」

「そうですか……。でも、そうすると……僕の造ったゴーレムが、今でも動いてるのは……?」

 オニキスやリンドウがずっと動いているのは、単純に呪文が違うから?

 自分でも気付かないうちに、大量の魔力を使ってた?

仮初めの石像(テンポラリゴーレム)は、粘土に魔力を注いでゴーレムを造る呪文。ですから、魔力が尽きれば動かなくなるのが道理……。しかし、石像創造(クリエイトゴーレム)は原理が違うのです」

「……どういう事ですか?」

石像創造(クリエイトゴーレム)で使うのは……自らの魂。魂を分け与えて造るのが、本物のゴーレムなのです」

 魂……。魂って何だろう?

 人が死んだら魂になって、生まれ変わるのが輪廻転生……だっけ?

「寿命を分け与えた存在と言えば、わかりやすいでしょうか?」

「えっ⁉ あっ、いや、でも……。それぐらいなら……」

 右手の中指に填まっているリンドウ。

 勾玉になって首に掛かっているオニキス。

 可愛くお座りしたまま、僕の方を見ているルビィ。

 すっと目を閉じると、トパーズの見ている景色が脳裏に飛び込んできた。

 ……近くに危ない獣は居ないって? 見張っててくれたの? ありがとう。


 たぶん、今の話はゴーレムに限ったことじゃなくて、ルビィやトパーズも同じなんだろう。なんとなく、そんな気がする。

 でも……。僕の造った相棒は、みんなすごい力を持ってるし、いろいろと助けてくれるし、寿命が減るぐらい仕方がないよね?

 むしろ、それぐらいで済むのならラッキーか?

 デメリットも無しにすごい力が使えるのもおかしいし、こっちの世界に来た時に見た目は若返ったみたいだし。寿命ぐらい——

 あれっ? 僕の寿命ってどうなってるんだろう?

 元の世界では三十代半ばだったけど、この身体だと……?


「そんなに心配しなくても、大丈夫ですよ」

「……大丈夫、とは?」

「先ほど、あの石で確認したのが、ソウタ殿の魂です」

 老人の視線の先には、透明な水晶玉が置きっぱなしになっていた。

「ソウタ殿が触ると強く光ったでしょう? 寿命に換算して、あと何年とは言えませんが……。本物のゴーレムを何体か造っても、まだまだ長生きできることでしょう」

「そうですか……」

 おじいちゃんの表情は穏やかだけど、言葉の端々に、自嘲っぽいニュアンスが含まれているような……。

 けど、寿命の話なんて、突っ込んで聞くのも問題がありそう。

 他人の寿命を知るなんて、嫌な結果になるとしか思えない。

「とはいえ、適当な思いつきで本物のゴーレムを造るのは、あまりお勧めできませんな。まずは、仮初めの石像(テンポラリゴーレム)で様子を見て、動きを確認してから本物のゴーレム造りに取りかかるのが良いでしょう」

「わかりました。いろいろ教えていただいて、ありがとうございます」

 これからは、もう少し慎重になろう。

 屋敷に帰ったら、仮初めの石像(テンポラリゴーレム)でいろいろ実験して……。

 でも、魔力を通しやすい素材って、どこで手に入るんだろう? イムルシアの首都なら売ってるかな?


「……もし良かったら、こちらの粘土をお譲りしましょうか? ソウタ殿の練習にはぴったりだと思いますぞ。もちろん、只でという訳にはいきませんが」

 粘土の入った箱を手で指して、ローブ姿の老人がにっこり微笑んだ。

 微妙に雰囲気が変わった? 僕たちが部屋に入ってきた時の雰囲気に戻ったと言うべきか。

 ……他の人に聞かせられない話は、ここまでかな?

「ありがとうございます! 助かります。お金の話は……マイヤー! こっちに来て話を聞いて!」

「何かご用でしょうか? ソウタ様」

 離れる時はゆっくり歩いていたマイヤーが、一瞬で横まで戻ってきた。

「粘土を譲ってもらうことになったから、代金を払ってもらえる?」

「はい。了解しました」

 貴族の屋敷を訪問する服には似合わないので、いつものリュックは家に置きっぱなしになっている。僕の小銭入れも、その中に入ったままだ。

 魔力を通しやすい粘土に、どれぐらい価値があるのかわからないが……。そこも含めて、マイヤーに任せておけば問題ないだろう。


 マイヤーが老人と値段の交渉を始めたので、僕は動かなくなった土人形を粘土の入っている箱へと戻した。

 さっきまで動いていた人形を潰して、元の粘土と一緒にするのは、心に来るものがあるけど……。いや、そうでもないかな?

 よく考えると小さい頃は、どんなにうまく粘土細工ができても、その日の夜には潰して箱に戻してたっけ。

 大きくなって、数日がかりで恐竜や動物を作るようになったけど、残してある物は一個か二個ぐらい。ほとんどが、記憶と写真に残ってるだけ。

 家のパソコンにはモデリングしたデータが大量に詰まってるけど、あれは触れないからなぁ……。やっぱり、実物とはちょっと違う。

 そう考えると、自分で造ったルビィやトパーズたちに囲まれて暮らす生活は理想的だな。こっちの世界を選んで、正解だったか。


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